さて、こないだはダイブさせるなんて言っちゃったけど……ここで問題が一つ。
 わたしはとりあえず、プラティナのダイブ屋を利用できそうにない。演説広場での件で街の人間はわたしの存在を知ったわけだし、あれからまだ外には出てないけど、気楽に歩き回れるとは思えないのよね。もし石を投げつけられても驚かないわ。
 それに、ダイブ屋だって人間が経営してるでしょ。正確にはテル族、もしくはハーフらしいけど、無防備な自分を晒すことに変わりはないもの。呑気に機械の中でお休みしてる間に襲われたらどうしようもないじゃない。

「……で、だからここに来てるわけか」
「そういうこと」

 こっちの考えを端的に説明し、でも、という前置きでライナーを連れてきたのは、天文台。
 街に点在するダイブ屋を除けば、唯一塔内で利用できるレーヴァテイル用の施設がここにはある。何より大事なのは、それを管理、提供するのが人間じゃないってことよ。シュレリアの片腕とも言える、塔のセキュリティサービスを一手に担うメンテナンスロイドのメイメイ。わたしが塔をハッキングして荒らし回ってた頃は敵対に近い関係だったけど、今は時折話し相手になってるわ。主にシュレリアの愚痴を言い合うための。
 あと、天文台って結構書物とかが保管してあるのよ。塔のデータ領域に眠ってた資料は一通り眺めて覚えてるし、正直ライナーの家に居座っててもやることあんまりないから、暇潰しとしても最適。紙をめくって読み進めるっていうのも割と新鮮で面白いものよ?

「メイメイ、起きなさい」
「………………」
「思いっきり爆睡してるな……」

 室内に足を踏み入れると、中心に座る人影……いや、この場合はロボ影って言えばいいのかしら。まあとにかく、メイメイが休眠モードに移行していた。当人の話によると、グラスノインフェリア以降供給される導力が不足気味で、作業中以外は充電に時間を費やしているみたい。ほぼ毎日のように寝てるのを見る限り、エネルギーは相当足りてないようね。もっとも、単純に昼寝好きなのかもしれないけれど。
 でも、ぐーすか寝こけられてたら話が進まない。ライナーの溜め息を背中で聞きながら、わたしは肩を掴んで揺さぶる。

「ほら、さっさと起きて働きなさい」
「むにゅ……ふぁ、あ、おはようございますです。お二人はどんな御用事です?」
「ダイブ用の施設を使わせてもらえないかと思ってね」
「どなたが使用するんです?」
「わたしよ」
「……それは、おめでとうございます?」
「メイメイ、絶対そのコメントは違うと思う」

 何もめでたくなんかないわよ。
 相変わらずどこかズレてるというか、あれね、そういうところがシュレリアとそっくり。

「じゃあ、ミュールさんにダイブするのはライナーさんなんですね」
「ああ」
「わかりました。準備をしておきますです。少しお待たせするので、適当に寛いでてください」

 肯定の頷きを返すと、メイメイは立ち上がって設備の点検と調整を始める。
 ライナーが腰を下ろした横でわたしはすぐそばに落ちていた本を手に取り、ぱらぱらと流し読み。
 ちなみに、ここに置いてある書物の大半は波動科学と天文関係のもの。第三期になって既に失われた知識が、この場所にはまだ大量に残ってる。ライナー辺りじゃ逆立ちしたって理解できないでしょうけど、わたしの頭脳なら充分飲み込める内容だった。
 好奇心を満たすことに楽しみを覚えたのは、つい最近の話よ。情報を蓄えておくことも決して損にならないし。

 ――ふと、そこでわたしはとある事柄に思い至った。
 普段の仕草には似合わない、割とてきぱきした動きで作業をしているメイメイに向け、声を掛ける。

「ねえメイメイ。あなた、わたしに恨みとか持ってない?」
「はあ……恨みですか。どうしていきなりそんな質問をするです?」
「過去、自分が世界に与えた影響がどれだけのものだったか、知りたくなったのよ」

 嘘は言っていない。わたしは、わたしが犯した罪の大きさを把握する必要がある。
 冗談や軽口の類でないことを理解してくれたからか、メイメイは目を閉じて考え始めた。
 隣のライナーは、敢えて何も言わず様子を窺っている。

「そうですね、では一つだけ」
「なに?」
「ミュールさんが陥落させたホルス右翼の重力制御をしていた、もう一基のプラズマベルには、私の妹がいました」
「前に聞いたな。マイ、だったっけ」
「はい。カナデと同じく最重要施設の守護を任されてたですが、右翼消失の際、命運を共にしたと聞きました」
「……そう。じゃあわたしは、あなたから妹を奪った存在ってわけね」

 先日の一連の騒動も、家族を失った騎士に端を発したものだった。プラティナに限定してもそうなんだから、世界規模で見れば、いったいどれほどの人間がわたしを恨み、憎んでいるのかは想像に難くない……いえ、おそらく、想像さえ超えるわ。
 改めて、背負うべきものの重さを自覚する。そして一度知ってしまえば、もう無関心ではいられなかった。
 けれど嘆息したわたしを前に、メイメイは目を擦りつつ静かに首を横に振る。

「別に、だからってミュールさんが憎いとか嫌いだとかは思いませんです。マイと会えないのは寂しいし悲しいですが、私もカナデもあの子も、自分の持ち場からは離れられませんし……結局、妹に会いたいって夢も、夢のままです。私はそれで構わないです」
「メイメイは、それでいいの?」
「お仕事もそんな大変じゃないですし、お昼寝して過ごせますし、シュレリア様や皆さんが遊びに来てくれますから」

 そう告げる彼女の言葉に全く嘘が感じられなくて、わたしは他にどんなことを言えばいいのかわからなくなった。

「ダイブ、準備できましたよ」
「……悪いけど、今日は止めておくわ」
「そうですか。お帰りになるです?」
「ええ。また近いうちに来るわね」

 逃げるように、天文台を後にする。少し遅れて追ってきたライナーが、心配そうにわたしの顔を見た。
 余計なお世話よ、と口にしかけ、寸前で留める。勝手に振り回した挙句、ここまでの道程を無駄足にしたのはこっちの方だ。
 かといって素直に謝るのはもっと嫌で、自然足取りは速くなった。ああもう……っ、本当に苛つくわ。

「なあ、ミュール」
「何よ」
「そんなあからさまに不機嫌そうな声するなよ……。いや、メイメイってどうしてもあそこから離れられないのかなって思ってさ」
「無理ね。塔内のセキュリティ関係はほとんど全部あの子が管理してるのよ。もしメイメイがその作業を放棄したら、どこもかしこもゲートが開かなくなってまともに出歩くこともできなくなるわ」

 プログラムを組んでそれに任せるのもアウト。そもそも自己判断で柔軟に対応できるメンテナンスロイド以上のシステムを作るなんて、今の技術じゃ不可能だわ。断言してもいい。機械並みの処理速度が要求されるから、適当な人間にやらせるのも問題外。何らかの手段で導力供給を保てれば、連れ出すこと自体はそう難しくもないでしょうけど――

「……待って。一時的に権限を移して、認証システムを直接ネットワーク内で制御すれば……となるとあいつの協力は不可欠ね。制限時間付きのシビアな条件だけど、そこはあの子に我慢してもらうしかないわ」
「ちょっと、いきなりどうしたんだよ」
「閃いたのよ。もしかしたら、あの子の夢、叶えられるかもしれない」

 自分にできることがあると気付いた。自分にしかできないことがあると理解した。
 その瞬間、わたしの胸の中に湧き上がった、形容し難い感情。背筋がぞくりと震える、不思議な感覚。

 こんなことで罪が償えるとは思えない。
 それでも、今踏み出したのは確かな一歩なのだと、信じられた。










 家に戻って開口一番、わたしは台所で鼻歌を歌っていたシュレリアに詰め寄った。

「シュレリア、一つ協力しなさい」
「な、何ですか、というか突然肩を叩かないでください! こっちは包丁握ってたんですよ!?」
「すっぱり行かなくてよかったわね」
「………………」

 刃物を俎板の上に置き、額に青筋を立てたシュレリアはわたしをキッと睨んでくる。
 そんな様子をテーブルに座って眺めていたアヤタネが、微かに笑みを漏らしたのが聞こえた。
 勿論、コントをするために話しかけたわけじゃないわ。恥を忍んで、貸しを与えることも承知で、頼み事をしに来たのよ。

「メイメイを一度天文台から切り離した場合、導力切れで動けなくなるまでどのくらいなら保つ?」
「質問の意図がよくわかりませんが……そうですね、今のあの子では、半日程度でしょうか」
「充分だわ。プラズマベルにはフリップフロップ変換で飛べるでしょ。ライナーも付ければ大丈夫よね」
「あの、いったい何の話か全然掴めないんですが」
「アヤタネ、わたしと一緒にバイナリ野に潜って、ハッキング頼める?」
「お安い御用です。無茶をしない範囲でなら」
「ちゃんと説明しなさい! ミュール、あなた今度はどんな悪事を考えついたんですか!」
「酷い言い草ね。心配しなくても、今回は人間達にだって迷惑掛けないわよ」

 年甲斐もなくぷんすか頬を膨らませる七百歳超の管理者に、わたしはこれからやろうとしていることを伝える。
 最初こそ疑いの視線を向けてきていたシュレリアも、それはいいですね、と真面目な顔で首肯した。

「ですが、何故あの子の夢を叶えようと? あなたはそういう行いに一番縁遠いはずですけど」
「些細な償いよ。贖罪という名の、自己満足」

 そう。犯した罪が決して消えないのなら、善行ぶってみても自己満足にしか為り得ない。
 自分の心の平穏を得るために、償いたいんだ、なんておためごかしで重荷を取り去ろうとする。
 それが如何に醜い行為かは、少し考えを廻らせればわかること。だけど、

「何もしないよりは、いくらかマシでしょ」
「……どうやら少しは答えが見えてきたようですね」
「偉そうに上から目線で言われても腹立つだけだわ。大して変わらない癖に」
「な……っ、これでも貴方よりは長く生きてます!」
「ああそうだったわね、この世界で一番の年増だものね」
「――やはり、貴方はあのまま永遠に封じておくべきでした」
「タスティエーラもミシャもいないのに、勝てるとでも思ってるの? 今度こそ返り討ちにしてあげるわ」
「シュレリア様、落ち着いてください。母さんもあんまり挑発しないで」

 からかえば面白いくらいに乗ってくる。全く、だから間が抜けてるのよ。わたしの方が一枚上手ね、間違いなく。
 シュレリアが詠唱を始めたところで、さすがに見兼ねたアヤタネがさらりと制止する。
 互いに矛を収め、荒れた息を整えたシュレリアにわたしは小さく頭を下げた。

「それじゃ、了解も取れたことだし始めるわよ」
「ちょっと待ってください、今からですか?」
「何か問題でもあるの?」
「大有りです。こっちは夕食の準備中なのに、放っておいたら食材が駄目になっちゃいます」
「アヤタネ、大急ぎで保存できるものを作って。終わったらダッシュで天文台に直行」
「はい」
「ということで、解決したわ。これで文句はないでしょ」
「貴方は本っ当に、無茶苦茶ですね……」

 褒め言葉ね、とは言わないでおいた。また怒るのは目に見えてるもの。
 だから敢えて無視をして、わたし達は天文台へ急いだ。ライナー、置いてきたままだしね。










「全員準備はいいわね」

 導力プラグからフリップフロップ変換で飛び、再び天文台の室内に入って、揃って寝ていた一人と一台を叩き起こし、僅かに遅れてアヤタネも現れたところでわたしは三人を見渡した。
 状況を飲み込めていないメイメイは、不思議そうに首を傾げている。

「シュレリア様にアヤタネさんまで、賑やかなのは嬉しいですが……どうしたんですか?」
「その問いに答える前に確認。メイメイ、あなた、妹に会いたいのよね?」
「会えるのなら。でも……」
「それが聞ければいいわ。あなたの夢、叶えてあげる」
「……え?」
「アヤタネ、行くわよ。シュレリアとライナー、道案内は頼んだわ」

 天文台にもアクセスポイントはある。導力プラグに比べれば規模は小さいけど、あっちに繋がってさえいれば問題ない。
 ヒュムノススペルを囁き、わたしは自らの身体をデータに変換、バイナリ野へ没入した。重い肉体から解放され、膨大な情報の奔流、激しい波と渦の最中に意識が沈んでいく。深い虚無の海を泳ぐ魚になって、今やこちらよりもう少しだけ身軽なアヤタネと共に求めるシステムへ繋がる扉を探す。
 無数に枝分かれする道は一見果てしない距離を持つように思えるけれど、こうなったわたし達は物理的な干渉を一切受けない。光の速度で塔内を駆け巡ることだってできる。ただ、今回のハッキング対象は潜った場所のすぐ近く。アクセスは、容易だった。

(見つけた)

 第一塔、アルトネリコの通常セキュリティを管理するネットワーク認証システム。
 これが麻痺してしまうと、塔内と塔外は勿論、ゲートの設置されている区画が事実上断絶する。
 プラティナに限らずいくつか要認証の箇所は存在するし、例え僅かな時間でも滞らせるのは危ない。万が一誰かが隔離され、そんな状態でガーディアンや獣に襲われたら……まあ、良い結果にならないのは確かね。
 他にも色々と支障が出るらしいから、メイメイがいない間はわたしとアヤタネが認証を代行しておく、と、ハッキング完了。
 ゲートの開閉権限掻っ攫うのは何度か以前やったことあるし、ログの消去をしにも来たから、随分楽なものだったわ。

『それじゃアヤタネ、半分任せるわよ。私はついでに向こうの様子を見とくわ』
『母さん……覗き見はほどほどにしてくださいね』

 完全にシステムを掌握したわたしは、意識を別の場所に広げて塔内の監視機構プログラムにアタックを掛ける。こっちも割と手を加えたことがあって、すんなり映像を拾えた。プラズマベルのセキュリティレベルはトップクラスの高さだけど、わたしになら造作もない。リソースの監視と並行して網を張る。
 しばし待つと、天文台から向こうのアクセスポイントにデータが飛んでいくのを感じた。それは肉体を持つ者なら指を動かす間もない一瞬で移動し、実像を結ぶ。戦闘用にリンゲージを着用したシュレリアとライナー、そしてメイメイの姿が確認できた。

「ではライナー、行きましょう」
「ここの敵はやたら強いですからね。しっかり護ります」
「あ、あの……ありがとうございます。お願い、しますです」

 基本的に自己を優先しないメンテナンスロイドの、おそらくは初めてと言ってもいい懇願に、二人は頷いた。
 ガーディアン、カナデは施設の最奥にいる。入口近くに位置するアクセスポイントを起点に目指すなら、厄介なのがごろごろ徘徊している中を突破しなければいけない。だからこそ、シュレリアだけじゃなくライナーにも行かせたのよ。馬鹿だけど、戦闘力に関してだけなら信頼に足るわ。
 立ち塞がる敵がいれば、まずライナーが前衛として撹乱に走る。苛烈な攻撃を紙一重で回避し、後ろのシュレリアと護衛対象のメイメイに当たりそうなものは剣で逸らすかガード。シュレリアはそんなライナーをフォローしつつ、期を見て詩魔法で殲滅。残念ながら戦闘モードを持たないメイメイは役に立たないみたいだけど、まああの二人でも心配は要らないでしょ。
 わたしもさり気なく、昔ガーディアンに感染させたウイルスを片っ端から駆除しておく。暇潰しになるし、相手の戦力も減らせて一石二鳥。処理能力をフルに使い、セキュリティサービスの方も合わせて複数のタスクを同時に片付ける。結果、目的地の到達までには三十分も掛からずに済んだ。拓けたその空間で眠る姿にメイメイが駆け寄ったのを見て、わたしは覗きを中断。痕跡を消した上でアヤタネのところに戻り息を吐く。もっとも、今は身体がないからそういう気分になったってだけなんだけど。

『お疲れ様です』
『全く、世話が焼けるわね』
『でも何だかんだでちゃんとサポートしてたじゃないですか』
『まあ……だって、シュレリアやライナーはともかく、あの子がいなくなったら困るもの』
『どうしてです?』
『ダイブができなくなるわ』
『なるほど。そういうことにしておきます』
『……前から思ってたけど、あなた随分口達者になったわね』
『個性的な人達に囲まれてましたから』

 飄々と遠回しな嫌味を受け流すアヤタネにはこれ以上何を言っても無駄だと悟り、全く、ともう一度呟く。
 けれども、決して悪い気分じゃなかった。ほんの少し、胸の奥がふわりと浮いて軽くなるような――

(夢……ね)

 それが叶ったメイメイは、満たされたのかしら。幸せに、なったのかしら。
 心が不透明で不明瞭なものである以上、わたしにはわからない。メンテナンスロイドに生物と同じ心は宿るのか、なんてつまらない問いの答えを考えるつもりもないし、所詮こんな行為は自己満足。わたしが、わたしのためにやったことでしかない。ただ、

(悪くない、気分だわ)

 誰に強制されるでもなく、自分の意思で力を貸すのは、なかなかに心躍るものだった。










 翌日、わたしとライナーは改めて天文台に訪れた。
 結局メイメイを送り届けた時もシュレリアがいたからダイブはしなかったし(あいつの前で無防備な姿を晒すなんて絶対嫌)、当然プラティナのダイブ屋にも寄り道すらせず、一番借りを作りたくない奴に隙を見せてしまったんだもの。そもそも貴方達は何しに行ったんですか、って、余計なお世話よ。
 だから仕方なくまたやって来たわけだけど、正直出迎えてくれたメイメイの視線がちょっと痛かった。

「ミュールさん、昨日は本当にありがとうございましたです」
「別にあなたを喜ばせたくてやったんじゃないわ」
「それでも、です」

 鬱陶しいと振り払うのは躊躇われ、はぁ、と小さな吐息で返事をすると、隣のライナーが何故か笑っていた。
 その表情が物凄く癇に障って、思いっきり脛を蹴り飛ばす。

「痛ぁっ!? な、何するんだよ!?」
「木偶の坊みたいに突っ立ってないで。邪魔よ」
「お前なぁ……」
「ダイブ、するんでしょ? ぐずぐずしてると帰るわよ」

 我が儘な子供を見るような目をしていたので、力一杯爪先を踏みつけたら大人しくなった。
 そんな水面下の攻防を見事なまでにスルーし、メイメイはマシンの微調整をぱぱっと終わらせる。
 複雑に入り組んだケーブルに繋がった、足を伸ばした人一人が収まるサイズのカプセルめいた機械が開かれる。レーヴァテイルの精神を分析し、心の領域とも呼べるコスモスフィアへダイバーを送り込むための設備。

「……一応言っておくわ。わたしの心に入る以上、土足で踏み荒らして無茶やらかしたりしたら殺すわよ」
「しないって。ちゃんと約束はしただろ、っていうか物騒だな……」
「それくらいの覚悟をしてもらわなきゃ困るってことよ。まあ、自分で言うのも何だけどたぶん最初の方は問題ないと思うわ」
「どうしてだ?」
「実際にダイブして確認しなさい。メイメイは優秀だし、死にはしないでしょ」
「………………」
「何か文句でもあるの?」
「いや、これから大変そうだなぁ……と」

 そういう風に認識してれば充分よ。
 あとはこっちの思惑が上手く行ってることを祈るばかり、ね。

「では行きます。お二人ともリラックスしていてください」

 カプセルの中に横たわり、目を閉じる。
 そして、闇に引き摺り込まれるかのように、わたしの意識はふっと途切れた。





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