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COSMOSPHERE
MULE
LEVEL





「うわ、暗っ!?」

 薄暗いを通り越してほとんど何も見えない世界の状況に、ダイブして早々思わず声を上げてしまった。ストーンヘンジも辛うじて壊れてないというような感じで、ところどころが罅割れてたり石柱が倒れたりしている。
 前回の終わりが終わりだったから、最悪足場のない空間に放り出される覚悟をしてたんだけど(ちなみにその場合はメイメイのフォローが入るはずだった)、一応まだ形は保ってるらしい。

「……どこまで無事なんだろうな」

 今の俺から見て左手、たぶん桜樹の丘か学園のあった場所に続く方角の道だけが、うっすらと判別できる。それ以外は一寸先も闇っぽい。あちこち近付いて試してみたけど、本当に全く前が見えなかった。あれじゃ確実に遭難するし、足の踏み場が存在してる保障もない。
 つまり、そっちに進むしかないってわけだ。

「おーい、アヤタネー、いるなら隠れてないで出てきてくれー」
「別に隠れているつもりはないよ。よく来たね」
「えっと……まあ、色々言いたいこともあるかもしれないけどさ、とりあえず歩きながら話そう。明かりみたいなのって出せるか?」
「残念ながらそれはできないけど、そこの道はちゃんと続いてるから安心して。数歩先程度なら見えるはず」
「了解。んじゃ行くか」

 さすがにここでアヤタネが嘘を吐くことはないだろう。暗闇の中にぼんやり浮かぶ石作りの足場を踏み締め、特に問題ないのを確認して歩き出す。
 さっきの言葉通り、確かに数歩分の距離は目視できた。といってもしっかりわかるのは正面のみで、他は全く。すぐ横が底無しになってるんじゃないかと思うと、足取りも自然と慎重なものになる。

「あの、さ。結局世界をこんな風にしちまって、悪い」
「そうだね。こうなった要因はライナーにもある。心の護として、今の状況は看過できない」
「だよな……」
「でも、これはある意味、母さんが望んだ結果とも言えるんだ。自己矛盾に耐え切れず世界は崩壊したけれど、修復の余地は充分に残ってる。そしてそれを為せるのは、ライナーしかいない」
「……ああ。そのためにダイブしたんだしな」
「頼んだよ、ライナー。君に僕の信頼と母さんの未来を預ける」

 アヤタネの声の真剣さに、俺は改めて気を引き締めた。
 このままでいいはずがない。絶対やってやる、と拳を握り、一本道を進み続ける。時間の感覚が麻痺し始めてきた頃、前の階層で突入した覚えのある城の輪郭が遠くに見えた。どうやらそこが行き先らしい。
 さらに百歩以上を掛けて門の前に辿り着く。深い闇の帳は城を覆ってなくて、ちゃんと全容が視界に入った。

「ボロボロだなあ……」

 こないだは圧倒されたものだったけど、こうも崩れてると何とも言えない気持ちになる。突き立ってた尖塔は上半分が折れてるし、壁も穴が空いてたり一角丸ごと抉られたようになってたりで、城というよりほとんど廃墟だ。まともに原形を留めてるところを探す方が難しい。
 重厚で巨大な扉は砕かれ、破片が広範囲に散らばっている。門があったラインの奥、石畳の床も、到底平らとは言い難い荒れ様だった。誰も使わなくなって、長い間人の手が入らないまま放ったらかしにされたような。そういう感じがした。
 微妙に足裏を刺激してくる地面の凹凸を無視しながら、まるで人気のない通路を真っ直ぐ行く。何もわからないくらい真っ暗かと思いきや、ずっと先から微かな光が来ていて、それが明かり代わりになっていた。おかげで壁や柱に頭をぶつけることもなく、石畳の道を突破する。
 城の最奥、シルヴァホルンの区画も無事じゃなかった。半ばで折れた金管がいくつも転がり、あるいは落ちずにぶら下がっている。眩しいくらいの艶やかさはなく、金管の表面は擦り切れ薄く濁っていた。
 そして、俺達は風琴の前に立った。

「よかった、こいつはまだ生きてる」
「おそらく半分も機能してないけどね」
「完全に壊れてるよりはマシだろ。アヤタネ、どうすればいい?」
「前と同じように、ハーモニウスで動かしてみて」
「オッケー。やるぞ」

 もう慣れた手順。光の球が風琴に宿り、静かに音を奏でる。
 若干歪な響き方をしてるものの、室内を満たした音色は正しく力を発揮した。
 闇が晴れる。世界が、僅かながらも光を取り戻す。
 幾分明るくなった通路には、よく見ると外に抜けるほどの大穴が複数あった。石壁や部屋を突っ切った向こう側、桜樹の丘と、廃墟の森の一部が視界に入る。

「……え?」

 花が。
 紅い花が、狂ったように咲いている。
 今まで葉を茂らせるばかりで、蕾さえも枝に付けることのなかったあの桜に。
 綺麗ではない。
 思わず怖気が走る、そういう光景だった。
 反射的に身体が動いた。ハーモニウスを回収、瓦礫が積み重なった石畳の道を突破し、丘を目指して一直線に駆け上がる。

「どうなってんだ、これ……!?」

 頂上は、一面が舞い落ちる花弁で埋め尽くされていた。際限なく散る花は積もり続け、地を鮮烈な色で染めている。
 けれどそれより、眼下に広がる世界の惨状から目が離せない。
 商店街があった場所に、四角く作られた石の群が置かれていた。規則的な並びで周囲一帯を占拠しているのは、見覚えのあるもの――寒々しいほどに大量の、墓。
 廃墟の森には“何か”が山と折り重なっている。最初は判別できなかったけど、薄闇に慣れてくるとその正体に気付く。
 人間だ。
 ぴくりとも動かない、おそらく死んだ人間。
 途方もない人数が、まるでゴミでも処理するみたいに無造作に捨てられている。そう、捨てられている、としか言いようがなかった。あれは、生きていたものに対する扱いじゃない。
 死者の山の底からは、太い河が丘の下へと流れ込んでいる。妙にどろりとした液体。一目で水じゃないことはわかった。
 汚れと混ざり濁った紅色が何なのか、それを理解した瞬間、吐き気が込み上がってきた。反射的に口を押さえ、喉元に力を入れる。胃液の酸味を僅かに感じ、ぐ、と呻きが漏れた。深呼吸。気分を整える。
 ……血の河だ。あそこの死体から出た血が、こっちに来てる。
 何度見ても変わらない。酷い、光景だった。

「う……何でこんなことに――」

 いや。
 世界が壊れたから、か?
 明確なことは言えないけど、一度崩壊したはずの世界は、今こうして曲がりなりにも存在してる。なくなって、再構成された? ならこの現状は、ミュールが望んだものってことになる?
 解決の糸口を何とか探そうとまずは商店街の側に下りかけ、そこで俺は細い声を聞いた。
 嘆くような。
 啜り泣くような、声。
 振り返る。紅い花を咲かせたままの桜樹の根元に、うずくまる人影がある。
 花弁と同じく、血の色に染まった単衣を着た――かつてサクヤと名乗った子の姿を見つけた。

「っ、おい、大丈夫か!?」
「あぁ、あ、ああああぁぁぁあぁぁあぁ……!」

 近寄って手を差し伸べてみても、全く反応がない。目を大きく見開き、頭を抱え、焦点の定まらない視線を虚空へと向けながら、幼い子供のように震えている。
 時折身体がぴくりと跳ね、その度に彼女は喉から言葉を絞り出す。痛い、辛い、苦しい――。
 いくら名前を呼んだところで、サクヤにこっちの声は届かないらしい。色々と試してみたけれど、どうにもならなくて諦めた。
 額を押さえ、俺はひとまず腕を組む。
 現状は手詰まりだ。つまり、何とかして突破口を探し出さなきゃならない。
 考えろ。
 ……前の階層との大きな違いは、丘の桜樹。商店街があった場所に作られていた大量の墓。廃墟の森に積み重ねられた死体の山とそこから流れる血の河。世界全体がぼろぼろになってるのは、一回壊れた、あるいは壊れかけたからだ。
 二人のミュールがいないのは、ここが下の階層だからか。勝負の結末はわからないけど、仮にどっちかが勝っているなら、こっちに来てる気がする。
 襲われることはない。が、助力も望めない。

「俺だけでどうにかするしかないってことか」

 サクヤがあんな風になってるのは何故か。
 第六階層……だったか、あの時以来姿を見せなかった彼女がここに来て現れたのは、おそらく元々この階層にいる人格だからだろう。俺にハーモニウスを渡した理由も、自分のところに辿り着いてほしかったから、と考えれば、だいたい辻褄が合う。
 今が予定調和なのか、それとも予想外の状況なのかはともかく、サクヤは正気じゃない。ちゃんと話を聞くためにも、原因を取り除く必要がある。
 ……そうだ。以前サクヤは、自分を桜の精だと言ってた。
 紅い花を咲かせた桜樹。本体があれなら、彼女も影響を受けてると思った方がいい。
 冷静に捉えてみると、桜樹がああなった推測も立つ。
 もし、丘に流れ込んだ大量の血を桜樹の根が吸ってしまったんだとすれば――

「……よし」

 我ながら穴だらけの考えだけど、それでも、何もしないよりは遙かにマシだ。間違ってたらまた別のアプローチを試みればいいだけの話。とにかく動く。ずっと突っ立って悩んでるのは、俺には向いてない。

「アヤタネ、森の方に降りるぞ」
「その様子だと、何か思いついたみたいだね」
「まあ、思いついたっていうか、やることが定まったって感じだな。できる限りはしてやるさ」

 西側の坂に足を掛け、一度振り返る。
 うずくまったままのサクヤに、待ってろよ、と小さく告げて、俺は下りの道へと飛び出した。










 遠目にも酷いものではあったけど、やっぱり近くで見ると余計にきつかった。
 焼け落ちて拓かれた森の中、性別や年齢の区別もなく、適当に積み重ねられた人間の山。幸いと言うべきなのは、腐臭が全くしないことと、顔の辺りがぼやけていて、安らかだったのか苦しんだのかわからなかったことだ。死に際の表情が残ってるのを目の当たりにするのは、やっぱり気持ちのいいものじゃない。

「しかし、考えてたより多いな……」

 血の河を途切れさせるためには、この死体達を全てどうにかする他ない。
 とはいえ、俺にできることなんて高が知れてるわけで。正直、地道に一人ずつ運んで埋めてくしかないというか――いや、待った。前にミュールはここで、ハーモニウスを使って新しい詩魔法を紡いだんだよな。
 さすがに俺だけの力じゃ、到底終わりそうにない。でも、別の力を借りられるなら、結構何とかなるんじゃないか。
 アヤタネに視線で問いかける。しっかり意図を察してくれたらしく、試してみるといいよ、と頷きを返してきた。
 外に出したハーモニウスに、願いを込める。
 俺の祈りに反応したのか、光は徐々に広がり、そして瞬間的に周囲を覆い尽くした。中心で凄まじい勢いの風が爆発し、すぐに消える。一度閉じた目をそろそろと開けると、ハーモニウスのあった場所には拳大の小さな人影が、何故か逆さに浮かんでいた。
 緑色の服を着た、透けるほど薄い羽根が付いた少年。

「おにーさんがボクを呼んだんだよね?」
「ああ。頼む、ここの死体を運ぶのを手伝ってくれ」
「いいよ! ボクはフータ! おにーさんに風の加護を!」

 逆さまのまま、ぴんと立てた人差し指をフータは下に向ける。その指先に空気が集まり、解けて俺の身体を包み込んだ。
 思わず声が漏れる。風が絡み付いた全身は異様に軽く、試しに少し飛んだだけでとんでもない高さまで跳ね上がった。今度は思わず叫んだ。慌てて崩れかけた姿勢を戻し、足裏から着地。これもまた、びっくりするほど衝撃がない。
 なるほど、こいつが“風の加護”か。

「なあフータ、死体の方にもやれるか?」
「もちろん! んー、はいっ」

 何ともあっけらかんとした掛け声に苦笑しつつ、四人を両脇に抱えてみる。普段ならともかく、加護を得た今は、普段腰に差してる剣より持つのは楽だった。
 ……これならいける。
 フータに近くで加護を持続させるよう改めて頼み、俺は運搬作業を開始した(アヤタネは当然のように付いてきた)。廃墟の森から商店街の墓場まで、長いストロークの跳躍を繰り返して移動する。片道二分にも満たない時間で、何度も、何十度も、何百度も往復し、山になっていた死者の数を減らしていった。
 ほとんど疲れは感じないものの、精神的にはじわじわと消耗していくのがわかる。どれだけそうしてたのか、時間の感覚がなくなっていた俺は、最後の四人分をそれぞれ墓の前に置いた直後、膝から落ちて地面に座り込んだ。
 ようやく。
 ようやく、半分だ。
 萎えかける足に力を入れ直し、膝に手を付いて立ち上がる。ここからは運んできた死体を墓の下に埋めて弔う作業になる。土を掘るのに丁度良い道具がなくて、自分の剣で代用することにした。
 幅広の両刃剣。完全に平らじゃないからあまり掘り起こすのには向いてないけど、先が鋭いので地面にしっかり刺さる。まず深い穴を作り、そこに死体を慎重に寝かせて、横へ避けていた土を被せる。
 一人埋めるだけでも随分掛かった。

「……フータ。剣の先端に風を付けてみてくれ」
「付けるって、軽くするの?」
「いや。何つーかこう、抉るような感じで」
「おにーさんは注文が多いなあ。まあいいや、えいっ」

 フータが剣を指した途端、先端が触れていた辺りの土が文字通り弾け飛んだ。予想外の効力に少し背筋が冷える。
 確かに抉るような感じにはなってるけど……これ、一歩間違えたら爪先とかも一緒に抉っちゃいそうだな。
 マジで気を付けよう、と心に決め、とにかくひたすら堀り続ける。周囲にいくつもの小山を生み出しながら、途方もない数の死体を、ひとつひとつ丁寧に、眠るべきところへと納めていく。
 邪魔なのでマントは脱いだ。土を触る手は汚れ、頬や服にも茶色がこびり付く。いくら身体が軽くなったといっても、作業量が作業量だ。額に滲んだ汗が目に入り、危うく死体をズタズタにしかけたことも何度かあった。
 楽しそうにはしゃぐフータと静かにこっちを見守るアヤタネを尻目に、俺は最後の死体を埋め終え、その墓に手を合わせる。何となくそうしなきゃいけないような気がした。

「お疲れ様」
「サンキュ、アヤタネ。フータもありがとな」
「うん! じゃあね、おにーさんっ」

 簡潔な別れの言葉と共に、すうっとフータが大気に溶ける。加護が消えたのはすぐわかった。全身が急に重くなったからだ。無茶な動きをしてきた反動かもしれない。そのまま倒れ込みたい気持ちを抑え、隣に立て掛けてた剣を腰に戻す。
 気付けば、血の河は跡形もなくなっていた。
 あれだけ散っていた紅い花弁もまた、激しさを失っている。静かなことに変わりはないけれど、不気味さは鳴りを潜め、どこか穏やかな雰囲気さえ感じられる。
 もう少しだ、と自分に言い聞かせ、桜樹へ続く坂を上った。道中何度か荒れた息を整えながら、一歩一歩を確かめていく。
 そうして見えた頂上。
 幹に寄り添うようにして、サクヤが俺を待っていた。
 無言のまま、目の前まで歩く。

「約束だ。ハーモニウス、持ってきたぞ」

 意識せずに胸から溢れた光は、持ち上げられたサクヤの両手のひらに集まった。
 淡い白色。それを愛しそうに抱き、

「確と。確と、受け取りました。……ああ、ライナー、やはりあなたは、わたしの希望だった」
「別にそんな大したことはしてないさ」
「いいえ。ライナーがいなければ、この世界は憎悪と絶望の色に染まったままでした。けれど今、わたしの心には希望が満ちている。あなたが見せてくれた、尊い輝き。ずっと昔に忘れてしまっていた、この気持ちが」

 熱のこもった吐息を唇から漏らす。
 頬を薄赤く染め、不意にサクヤは腕を広げた。
 光が、弾ける。大きなひとつの球が無数の小さな球に、そしてさらに分裂し、目も眩むような速度と光度で世界を覆い尽くす。

「死せる者には弔いを、生ける者には幸いを、愛しい世界へ、全ての人々へ、わたしは希望を謳いましょう」

 ――幾度も聴いた、その詩が。
 本当に、ミュールにとってどれだけ大切な意味を持っていたのかを、俺はたぶん、初めて知ったんだと思う。
 ハーモニウス。
 人間を信じようとする、ミュールの希望そのもの。


“何れにも染まらぬ 真白の心のままに”


 サクヤが踊る。単衣の袖を翻し、細い指がくるりと天を指した瞬間、桜樹が紅い花を一枚残さず散らした。風切りの音と共に花弁は舞い上がり、空に溶け、暗雲を緩やかに晴らす。
 風の流れに任せて身を回したサクヤにも、徐々に変化が訪れた。薄く透けていたはずの身体はいつしか健康的な肌の色を得て、纏う単衣も褪せた灰色ではなく、綺麗な白と、薄紅――いや、桜の色に染まる。


“小鳥の声は 世界を包む 希望の詩となる”


 短い舞の終わりに、サクヤは一度手を叩いた。乾いた音が響き、それを合図にしたかのように、枯れた枝葉に蕾が生まれ、開き、咲いて咲いて咲き誇る。
 花の色も白。サクヤと同じ、何の色も混ざらない、純白だった。
 世界が明るさを取り戻す。ボロボロになった場所には、瓦礫の隙間を縫って、あるいはその上に根を張って、新しく緑の芽が伸び始めている。
 遠くでパラダイムシフトの光が立ち上がった。
 舞の余韻を残し、ひらりとサクヤが振り返る。

「此ノ花も、いずれ枯れる時が来るでしょう。けれど、希望を失わない限り、わたしの花は何度でも咲く。白い花は、その証です」
「だから……世界は元通りにならないんだな」
「はい。わたしの心は、もう一度生まれ変わります。次にあなたが訪れた際には、きっと良き世界になっていますよ」
「わかった。うん、俺もそうなるように祈ってる」
「お願いしますね。……ライナー、手を」
「ん? これでいいのか?」

 言われたまま差し出すと、きゅっと握られた。
 どうするでもなく、静かにサクヤは微笑む。何というか、ミュールなんだけどミュールらしからぬその優しい、柔らかい感じに、不覚にも俺は物凄いドキっとした。
 うわ……ミュールってこういう顔もできるのか。
 動揺を悟られないようそれとなく横を向いていたところで、手が離れる。

「では、参りましょう。あまり引き留めるわけにもいきません」
「別にもう少しくらいいてもいいんだけど……」
「いいえ。ここにいるよりも、現実のわたしを相手にしてあげてください。その方がわたしも望ましいですから」
「了解。あれこれ言われそうな気もするけどさ」
「それを受け止めるのが甲斐性というもの、ですよ」
「……こないだオリカとミシャにも同じこと言われた」

 なんて雑談をしてたら、ストーンヘンジまではあっという間だった。
 別れの言葉はなし。最後にサクヤは一礼をして、光の柱に入っていった。
 淡い花の香りが尾を引く。
 俺も後に続こうとして、ふとそこでアヤタネの姿を見つけた。

「結局、ほとんど手を出さなかったな」
「ライナーがちゃんとやってくれたからね。ハラハラすることも多かったけど、考え得る限りでは最良の結果だと思うよ」
「そっか。……色々助けてくれてありがとな。アヤタネがいなかったら絶対どっかで駄目になってただろうし」
「まだ気が早いんじゃないかな。次の階層があるんだから」
「いや、さすがにもう死ぬような目には遭わない……はずだよな……?」
「どうだろうね。まあ、ここまでと比べれば気楽に過ごせるレベルであるのは保障するよ」
「それを聞いてちょっと安心した。よし、んじゃ俺も行くぞ」

 光の中に踏み入る。
 またね、というアヤタネの声が終わり際に聞こえて、なるべく近いうちに来れればいいと思った。





Ma num ra chs pic wasara mea,
en fwal syec mea.
Was yea ra chs mea yor
en fwal en chs hymme.



ミュールのコスモスフィアLevel8を完了しました。
コスチューム:コノハナノサクヤを入手しました。



習得詩魔法:逆さまフータ(分類・青魔法|効果・味方全体の攻撃・回避・速度上昇、風属性付加|風の加護による強化)
習得詩魔法:桜花舞踏(分類:青魔法|効果・敵全体の命中・回避低下|舞い散る桜の花弁が相手の視界を遮る)



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