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COSMOSPHERE
MULE
LEVEL





 美羽の転校から一週間が過ぎ、教室内の誰もが彼女を忌避するようになった。
 朝、どちらかというと登校時間が遅い方である頼奈が学校に着く頃でさえ、美羽は姿を見せない。例え雨の日でも、必ず予鈴が鳴る直前に現れ、悠然と歩いて席に座る。そして挨拶の言葉もなく、他の生徒が作り出す喧噪からは断絶した、強固な殻の中に閉じ籠もるのだ。
 美羽の自席が窓際の一番後ろ、教室の端に位置しているのも孤立の要因だった。周囲の人間は、首を捻らねば彼女と目を合わせることもできない。振り向いたとしても、窓の外にばかり視線を送っている相手とまともな意思疎通が行えるはずはなく。
 故に、その現状は皆が予想していた結果でもあった、と言えた。

「……はぁ」

 数学教師が黒板に公式の羅列を書き、ほとんど教科書のテキストと同じ文句を並べている。
 頼奈は早々に理解することを諦め、最低限ノートに記述しておいて、あとは頬杖を突きながらくるくるとペンを片手で回していた。少し離れた机では、織香が俯いて何事かしている。傍目には真面目に勉強しているように見えなくもないが、彼女も数学は苦手だ。おそらく、暇潰しに落書きでもしているのだろう、と思う。上手いかどうかはともかく。
 何気ない風を装い、頼奈は外に意識を移した。グラウンドでは別のクラスが体育の授業を行っており、生徒達が思い思いの速度で走っている。その先には桜樹の丘を取り囲む形で人家が広がり、学園が高所に建っていることを実感する。
 さらに視界を動かすと、うっすらとではあるが窓硝子に美羽の端正な顔が映った。頼奈の記憶が確かなら、つまらなさそうに瞳を細め、全くの無表情で、登校してきてからずっと変わらない姿勢のまま居続けている。なまじ容姿が整っているからこそ、身じろぎもしない様子は人形めいていて不気味に感じた。
 ――そう、人形。人ならざるもの。
 時折頼奈は、美羽が常世の存在でないのでは、と疑いかける自分がいるのに気付いた。
 けれどその度浮かんできた考えを否定する。あの日、桜樹の丘で出会った彼女は確かな感情を宿していた。緋色の双眸に灯る、暗い、何か。それがどうしても忘れられず、何度も仕草や顔色を窺ってしまう。
 結局昼休みになるまで、美羽は微動だにしなかった。頼奈だけが、合計三回教師に注意されて皆に笑われた。



「頼奈って、随分塔ヶ崎さんのこと気にしてるよね」
「……そうか?」
「そうだよ。さっきだって、昨日も一昨日も、ちょこちょこ見てたでしょ」
「まあ……」
「もう、歯切れ悪いなぁ。それとも何か、やましいことでもあるの?」
「別にないって。ただ、すぐ後ろの席なのに全然会話がないなって思ってたんだよ」

 いつも通り忽然と美羽が姿を消した教室で、コンビニのおにぎりを一気に半分近くかじった頼奈に、織香は急な追及を始めた。乾いた海苔と硬めの米の歯応えをじっくり確かめる間もなく、少ない咀嚼回数でごくりと飲み込み、とりあえずの返答をする。
 ちなみに織香が座っているのは美羽の場所。本人がいないのをいいことに、最近昼はそこが彼女の定位置になっていた。

「塔ヶ崎さん、すっごい無口だもんね」
「無口ってレベルかあれ」
「折角見た目は可愛いのに、勿体無くない? あれで笑顔の一つでも振り撒けば、きっと男なんて簡単に落ちるよ」
「いや確かにそんな気はするけど、その発言はどうなんだ……。単純に男嫌いなんだろ」
「男っていうより、人間嫌いみたいだよね。塔ヶ崎さんが喋ったのって、最初の日だけじゃないかな」

 二日目以降、職員室で噂が広まったのか、わざわざ美羽に問題を解かせる教師は出なくなった。
 不真面目な態度を注意しようとしても、まるで言うことを聞かないのに加え、下手に力づくで動かそうとすれば極寒の視線を浴びせかけられるので、大人も彼女のことは意図的に無視している。刺激しない分には無害なのだ。その癖成績だけは異様に良い。
 授業を受けずとも大丈夫と証明されているため、出席していれば態度の悪さは問わないというのが学園側のスタンスらしかった。

「織香は、塔ヶ崎さんをどう思ってるんだ?」
「変わり者の転校生。それ以上でも以下でもないよ。そういう頼奈は?」
「うーん……よくわからないんだよな」

 正直に言えば、気にはなる。ただ、それは織香の知り得ない部分も含めてであって、頼奈も未だ確証は持てていない。
 桜樹の丘。そこで見かけた少女の人影。同じ日の放課後、階段で交わした僅かな言葉。
 美羽とあの人影が同一人物なのかを知りたいのは間違いない。でも、知ってどうしたいのかが自分にもわからなかった。

「……本当にやましいことはないの? えっちな目で見てるとか」
「ない! 絶対ないから!」
「声を荒げるなんて、怪しいなー……。ほらほら頼奈、素直に白状しなさい」
「マジで違う! そもそも、塔ヶ崎さんのどこにそういう要素があるんだよ!」
「え、そりゃあ……えっと……」
「な」
「……うん、色気のいの字もないね」

 さり気に酷い会話だったが、指摘する人間もおらず、むしろ周りの男子は頷いていた。
 織香は軽く咳払いし、ともかく、と前置きしてから、

「興味本位なら構わない方がいいと思う。塔ヶ崎さんだって迷惑なんじゃない?」
「かもしれないけどさ……ま、ちょっと控えることにするよ」
「よしよし」
「ところで織香、ひとつ疑問なんだけど」
「何?」
「お前の席は俺より前なのに、どうしてこっちが塔ヶ崎さんを見てたって知ってるんだ?」

 そんな問いかけをした瞬間、織香の頬がさっと赤らむ。

「ら……頼奈が先生に注意されてたから、気になっただけだよ」
「そりゃそっか。っと、さっさと飯食わなきゃ昼休み終わっちゃうな」

 若干慌てた弁解の真意はどうなのか、それを知るのは当人のみだろう。
 首を傾げ、頼奈は残りのおにぎりを口の中に放り込んだ。



 放課後になると、各々生徒は部活に向かう。運動部ならユニフォームや体操着を抱えて部室や更衣室へ、文化部なら活動場所へ。しかし、どちらでもないいわゆる帰宅部は、大抵が鞄片手に家路へ急ぐものだ。
 誰より早く教室を出る美羽と同じく、頼奈もまた決まった部に所属しない人間だった。週四で気楽にやっているらしい手芸部の織香と別れ、まばらな人の流れに混ざって階段を下りる。一階の廊下で談笑する者達の横をすり抜け、玄関で上履きを靴に履き替えて立ち上がる。時刻は四時前。毎度のことながらタイムセール狙いなので、一旦家に戻ってからまた外出する必要があった。

「ただいま」

 扉の鍵を開け、乱雑に右手の鞄を放り投げて着替える。脱ぎ散らかしたくなる衝動を抑え、制服の上着とズボンはハンガーに、シャツは洗濯機に突っ込んで、ラフな私服を箪笥から引っ張り出した。ささっと身に着け、財布をポケットに仕舞う。
 特に急ぐ理由もない。しばしぼんやりとドラマの再放送を眺め、陽射しの色が変わり始めてきた頃に出発した。
 歩き慣れた通りを抜けて、学園に続く坂道の付近で少し足を止める。部活上がりの生徒が下校する姿を横目に、逆光の眩しい西へ。一週間ぶりに頼奈は、桜樹の丘に至る細く長い坂を登っていく。
 微かな、期待があった。もしかしたら……そう、もしかしたら、彼女はまたあの場所に現れるのではないかと。

 最後の一歩を踏みしめた瞬間、遮るもののない夕焼けが頼奈の目を焼いた。
 思わず腕で視界を覆う。そしてゆっくりと瞼を開いた時、正面から煽るような強い風が吹いて、

「…………あら」

 ――桜樹の傍らに、燃える世界を背負った彼女が、立っていた。
 塔ヶ崎美羽。今度こそ間違いない、長い髪を瞳と同じ緋の色に染めた、転校生。

 何かが変わる。
 そんな漠然とした予感を抱き、頼奈は静かに距離を詰めた。










「本当にこんなんでいいのか……?」

 天に伸びるパラダイムシフトの証拠を遠くで見つめ、溜め息を吐く。
 ちょっと軽すぎやしないだろうか。こうも呆気ないと、心配になってくる。

「はい、レベル2はクリアよ。おめでとう」
「なあ……色々と大丈夫なのかこれ」
「そうじゃなければまず初めにあなたを叩き出してるわ」
「問題ないのは嫌ってほどにわかったよ……」
「ライナーはいつも通り能天気に何も考えず楽しみなさい」
「ミュールさ、俺のこと嫌いだろ」
「そんな風に感じるあなたの心が汚れてるんでしょ」
「………………」
「それじゃ、長居してないでさっさと終わらせなさいよ」

 ひらひらと手を振り、光の中に軽い足取りで飛び込むミュール。
 一人残された俺は、相変わらずの傍若無人さに額を押さえた。
 せめて、心の護が出てきてくれればなぁ……。全然姿を見ないけど、いったいどうなってるんだろう。
 先行き不安な現状にもう一度嘆息して、俺もストーンヘンジの中心に入った。





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en fwal en chs hymme.



ミュールのコスモスフィアLevel2を完了しました。
コスチューム:LSUを入手しました。



習得詩魔法:トワイライトニング(分類・赤魔法|効果・敵全体に雷属性の中ダメージ|黄昏空が雷雲を連れてくる)





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