海に、少年と少女が立っていた。
二人の目は堤防の方へと向いている。

そこに座る、黒い服を着た男。
微動だにせず俯いた姿勢。寝ているのだろう、時折頭がかくんと揺れる。

その隣で、街の学校の制服を着た女性が足をぶらぶらさせながら空を見上げている。
長い金色の髪を後ろで縛った、どこか幼さと強さを兼ね備えた人だ。
彼女は、横の男が目覚めるのを今か今かと待っているように見えた。

……いや、ただ待っているだけではない。
まるで、愛しい人の帰りを待ち焦がれているような。
そんな表情をして、微笑んでいた。

二人に気づき、女性が手を振る。
返事代わりに少年も手を振り返し、それから、少女をじっと見つめる。


彼らには、感謝と、幸せな日々を。
そして僕らには、彼らとは違う、幸せの始まりを。


「……帰ろう?」
「うん」

生きていく。
生きていくことが、きっと幸せへの道程なのだ。

夢から覚めた空の少女は、千年の地獄を越えて生まれ変わり。
愛しい彼と、愛しい日々を紡ぎ始める。

そこには全てがある。
同じような苦しみも、悲しみも、いつかは知る時が来るだろう。
けれど同じくらいに、喜びや嬉しさを、噛み締めていられるはずだから。

今は、今の自分にとっての、帰る場所へ。
目指す終わりは遙か遠く。それは海の向こうにも、空の果てにもない。
懸命に生き抜いた、その最後に訪れる。

―――― だから僕らは、そこへ行こう。





幼い二人が去っていくのを、ぼんやりと眺めて。
観鈴は、小さく呻く声を聞いた。

「ん…………」
「あ」

それは、始まり。
約束された未来への、スタート地点。


「……おはよう。往人さん」





この大気の下で、同じ青空の下で、彼ら彼女らは生きていく。
先の見えない明日を、自分達の力で切り拓きながら。

夏が、終わって――――でも、日々は終わらない。






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