よくよく考えずともこれは当然のことなのですが、グラスメルクには材料が必要です。
いえ、グラスメルクのみならず、料理も戦闘も日々の生活にも、何かしらを消費するもの。
そしてただ使うだけだと、いつか使える物がなくなってしまうというのは、普通に生きていれば自然と知ることでしょう。

ということで、今の私達がしなければならないのはお買い物。
大量生産が基本のグラスメルクは特に、材料がすぐ底をついてしまいます。
プラティナで揃うなら構いません。しかし、ネモやほたる横丁と比べて流通は悪いのが事実。
特有の物も手に入る反面、まだ交通の便が悪いですしね。
現在ネモとプラティナを結ぶ航路が開発されているという話を聞いていますが、まだしばらくは掛かるとのこと。
それまでは徒歩かグングニルでの移動しか行き来する手段はありません。

故に、お買い物はまとめてするのが基本です。
私達はレアードの許可を得てグングニルを使用し、ネモに降り立ちました。
諸々の材料を始めに、食材や小物、ついでに……その、お菓子とかも。
財布の中身と相談しつつ、ライナーを連れ回して荷物を増やしていきます。

「シュレリア様、お、重いです……!」
「頑張って、ライナー」
「は、はい……」

両肩に両肘、さらに両腕に袋をぶら下げ、背負ったザックはぱんぱん。
足取りがおぼつかないライナーにエールを送り、私はあと何が必要かを考えました。

「えっと……ASL回路は買ったよね?」
「……はい。あれがないと、作れないの、いっぱいあります、からね」
「じゃあ……うん、もう大丈夫かな」

今日は一泊し、それからプラティナに帰還する予定です。
ライナーを休ませなければそのうち倒れてしまうでしょうし、折角のネモですし。
まだ時間は昼過ぎ、宿の部屋に荷物を置いてからは自由時間としましょうか。
……あ、いえ、デートのチャンスだなんて思ってませんよ?
でも、オフの日だしライナーと二人っきり……大唄石公園なんかいいかもしれませんね。

『宵の奏月』にて、大量の荷物を運んでいる途中、酒場の方から清廉な歌声が響いてきました。
思わず足を止めて聞き惚れてしまいます。詩い手は私達のよく知る、彼女。
こちらに気づき、透き通るような音は途切れました。代わりに飛んでくる確認の声。

「あら、ライナーにシュレリアさん。いらっしゃい」
「ご無沙汰してます、クレアさん」
「お買い物が終わったところかしら? 随分凄い量ね」
「だいたいこれで一月分ですので……」
「ふふ、ライナーも大変ね。顔が土気色になってきてるわよ? 早く荷物を置いてきた方がいいんじゃないかしら」
「え?」

言われ、振り向くと蒼白を通り越してぷるぷると今にも荷物に押し潰されそうなライナーが。

「ラ、ライナー! すみませんクレアさん、また後で!」
「ええ。頑張ってね、ライナー。女性の後ろを歩くのは男の勤めよ?」
「は、はい……が、んばり、ます……」

微笑みを浮かべたクレアさんに見送られて、私達は二階に続く階段を上りました。
部屋に文字通り肩の荷を下ろしたライナーは「死ぬかと思いました……」と本気の表情で呟き、しばらく起き上がれないほどで。
……私の失態ですね。でも、ライナーもよく頑張りました。

しかし……この荷物、帰りも運ぶんですよね。少々買い過ぎたでしょうか。










私と身軽になったライナーは、クレアさんのところで遅めの昼食を頂くことに。
世話になりっぱなしなのも悪いので手伝いを申し出ました。

「シュレリアさん、これ頼めるかしら?」
「あ、わかりました」
「ありがとう」

会話の間にもクレアさんの動きは止まりません。
自分達二人分の食事を作りながら、私は客の注文をこなしていく姿に感心します。
言うなれば彼女は料理の師匠、学ぶことは多く、まだまだその手際には追いつけそうにありません。
もっと頑張ろう、と心の中で密かに誓い、席に座って出来上がりを待つライナーをちらりと見ました。
こと調理場に関しては、ライナーの出番は全くないのです。
ただ、食べておいしいと言ってくれる、私はそれだけで十分ですから。

完成したほかほかと湯気を立てる皿をテーブルに運び、ライナーの隣に私も座ります。
いただきます、の言葉と共に食事を開始。今日は魚を中心とした薄味仕立てです。
量は決して多くありませんが、完食してみれば割とお腹に溜まるものですね。
私より先に片付けたライナーは満足したような表情で、少なくなかったかな、と安心。

「二人とも、この後の予定はある?」
「特には決めてないですけど……」
「じゃあ、ちょっとおつかいを頼めるかしら」
「どちらに?」
「カルル村まで。頼まれてたものがあってね」
「…………オリカさんですか?」
「ええ」

不意なクレアさんの問いと頼み事。
私は少し考え、断る理由はないと判断しました。
何より師匠の頼みですしね。ライナーも賛同してくれたようで、

「わかりました。時間ありますし、大丈夫ですよねシュレリア様?」
「はい。クレアさん、これをオリカさんに渡せばいいんですね?」
「お願いできる?」
「任せてください」

小包を受け取り、別れの挨拶を済ませて宵の奏月を後にします。
向かうはカルル村。オリカさんのいる宿屋、塔の下亭です。

しばらく連絡を取っていませんでしたが……元気だといいですね。



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