「シュレリア様、ほたる横丁に行きませんか?」 「え? 何かあるの?」 「はい。猫飴を買いに行こうと思いまして」 「……グラスメルクの材料にでも使うの?」 「使いません。いえ、前に俺がスピカに『バケツ一杯食べたいよ』って言ったじゃないですか」 「言ったね。本当に食べるつもりなの、ってびっくりしたけど」 「だからあれは合言葉なんですって。……いや、それはいいんです。あのですね」 「うん」 「まずこれを見てください」 「…………なんでライナー、こんなにお金持ってるの? もしかして……犯罪に手を染めた!?」 「いつ俺がそんなことしたと思うんですか」 「だって、いくら何でもこの量を短時間で稼いだなんて、信じられるわけないじゃない」 「できるんですよ。グラスメルクで」 「……何だか『これが楽して儲かる方法!』とかそんな感じの胡散臭い話みたい」 「し、信じてくださいよー」 「だって……ねえ?」 「誓って詐欺も強盗も他の如何なる犯罪もしてませんっ。これです、これでせっせと稼いだんですっ」 「…………グラバード羅針盤?」 「はい。大量生産すると、差額で猫飴なんてそれこそ山ほど買えちゃうんですよ」 「……ライナー」 「どうしました?」 「この方法はもう禁止。売りつけられる店の方が迷惑だから」 「でも、需要があるから売れるんですって。そうでなければ引き取ってもくれません、きっと」 「う、うー……」 「それに、材料集めるのが結構大変で。ネモとプラティナを往復しないといけないんです」 「うう、ううー……」 「あと……えっと、お金があれば、シュレリア様の手を色々煩わせることもないかな、少しは助けになるかな、って」 「ライナー!」 「はいぃ!」 「その……たまーになら、いいです。許します。……ライナーがそう思ってくれるのは、嬉しいですし」 「シュレリア様、敬語になってます」 「あ」 そして、ほたる横丁、ほたる一番街にて。 「猫飴はいかがですかぁ?」 「スピカ、久しぶり」 「あ、ライナー君じゃない。それと……シュレリアさんね」 「はい。お久しぶりです」 「それで今日はどうしたの?」 「……バケツ一杯食べたくて」 「グラスノ結晶ならまたいいのがあるわよー。合言葉がちょっと違うのは大目に見てあげるから」 「いや、違うんだ。猫飴を、バケツ一杯食べたくて」 「………………正気?」 「ああ。どのくらいになる?」 「ちょっと待って。その前に、私バケツ持ってないのよ」 「それならここにあります」 「随分準備がいいのね……」 「最初からこれが目的だからなぁ……」 「えっと……これだけ必要よ。下手なグラスノよりよっぽど高いわね。本当に持ち合わせはあるの?」 「あるから来たんだって。ほい、ちょうど」 「…………猫飴の売り子やって結構になるけど、本当にバケツ一杯買ってったのはあなた達が初めてだわ」 「遠回しに馬鹿だって言われてる気がするんだが……って、シュレリア様?」 「………………はっ!? ライナー、何か?」 「いえ、シュレリア様がぼーっとしてるように見えたので」 「そんなことはありません。さ、行きますよライナー。急いで帰ることもないでしょう、今日は宿に泊まります」 「あ、はい」 「ではスピカ、また。……あの件に関しては次の機会に。バケツはライナーが持ってくださいね」 「おお、重い……っ!」 「……いいコンビねぇ。ま、グラスノの方は今度買ってもらいますか」 back|index|next |