「えっと、仲結いの糸……なんですが」
「うんうん」
「その、材料自体はそんなに希少なものでもなくてですね」
「うんうん!」
「あのー……シュレリア様、ち、近いです」
「え? あ、ごごごめんねライナー!」
「いえ、いいですけど……何だかシュレリア様から妙に気迫を感じます」
「だって、ライナー今仲結いの糸持ってないでしょ?」
「はい。手元にはないですね」
「だからその、一個は欲しいなぁ……って」
「確かにあると便利ですけど、そんなに手元に置いておきたい理由があるんですか?」
「ライナー、材料」
「あ、はい」
「……今回は変なのもないね」
「まぁ、シャンプーハットとかと比べれば幾分まともですよ」
「じゃあ始めるよ。ライナー、見てて」


ちゃっちゃちゃらっちゃ、ちゃっちゃちゃっちゃっちゃ、しゅぴーん!


「うん、完璧っ!」
「申し分ないです!」
「でも……どうして毛玉なのかな」
「このまま持って装備しますしね」
「普通は必要な分だけ切り取って使うものなんだけど……」
「そうなんですか? 俺、裁縫とかそういうのやったことないからよくわからなくて」
「…………やっぱりライナーはもっと本を読んだ方がいいと思う」
「あ、あはは……活字は苦手です……」
「頑張りなさい。上官命令です」
「はい…………」










 アクセサリ:仲結いの糸を装備しました。



私達は毎日暇を持て余しているわけではありません。
今でも私が塔の管理者であること、ライナーがエレミアの騎士であることに変わりなく、その責務を果たす必要があります。
現状、ウイルスの数は激減こそしましたが完全に消え去ったわけでもないのです。
導力プラグ―― 使徒の祭壇を中心とした巡回を怠れないのはそのため。
生み出す者、ミュールがいなくなっても、まだ残党ともいうべき存在が残っていますので。

とはいえ、あまりウイルスに関しては心配してません。
アヤタネの協力により、彼らは確実に数を減らしているから。
おそらく近い将来、ガーディアンが我々に牙を剥くこともなくなるでしょう。

A7区画、900F。プラティナのアプサラニカ広場から続く道を見回り、異常を確認します。
途中何度か襲われましたが、ライナーと私の敵ではありませんでした。

「ライナー、ここで一旦休憩しましょう」
「わかりました。実は結構きつかったんですよ」
「そうですか? 私は心配してなかったのですが。いざという時はライナーが護ってくれますからね」
「それは勿論です。死なない程度に身体張って盾になりますので」
「頼もしい限りですね。……周り、誰もいないよね?」
「ええ、気配は感じませんけど……無理して戻さなくてもいいですよ?」

一応これは仕事。上司と部下、という立場はきっちりしておかねばなりません。
……でも、オフの時間くらいは構わないですよね。ええ。
いくつか会話を交わし、私はそこでひとつの提案をしました。

「ねぇ、ライナー。お願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「これ…………」
「仲結いの糸ですね。これがどうしたんです?」
「あのね、装備しようと思って」
「はい」
「それで、ライナー、指出して。小指」
「え? 出しましたけど何を、」
「喋らないで動かないで。上手くできないから。……あとは私の小指にも結んで、と」
「あの……俺、これじゃ剣振れないですよ?」
「大丈夫。かなり糸は長めに見積もったから少しくらい振り回しても平気」
「いえ、そういうことじゃなくて」
「だから安心していつもの通りにやって。これなら私、ほんとに百倍頑張れるから」
「………………はい」

そして次の戦闘時。

「プライマル・ワード。この詩で……!」
「シュレリア様、敵のところまで届かないんですが……って詠唱滅茶苦茶早い!?」
「最高に、溢れてる……! ライナー、発動します!」
「うわ、一撃だ……シュレリア様、凄いですね」
「だから言いましたよね? 百倍頑張れるって」

ライナーと繋がってる。
そう思うだけで、感じるだけで、私は普段と比べ物にならない力を得られました。
心が、満ちています。どんなこともできる気がします。

「ということでライナー。以降、仲結いの糸はこうやって装備しましょう」
「えーと……で、できれば勘弁してほしいなー、と」
「ど、どうして!? 私とこうするのが嫌なの!?」
「いえ、そういうわけじゃないですけど……やっぱり動きにくいので」

小指を結ぶ、という行為には大きな意味があります。
過去読んだ本に書いてあった物語。『運命の赤い糸』を信じて結ばれた男女の話。
それを夢想するのは……その、女性として、当然のことではないでしょうか。
なのにライナーは相変わらずの鈍さで、全くそういうことがわかっていません。わざとじゃないかと疑いたくなるくらい。

―――― だけど。
謳いながら、私は見ていました。
さり気なく敵の攻撃を剣で捌き、私に害が及ばないようにしていたのを。
後ろに気を配りながら、ライナーはちゃんと私を護ってくれていたのです。

だから、今日のところは良しとしましょう。
小指の赤い糸を解いて、巡回を終えた私達は帰還します。
目に見えるものはここにないけれど……それでも、私とライナーの間に赤い糸があることを、信じたいと思います。

……今度は、仲結いの糸で何か編もう。



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