「今回は星屑の涙です。これもそんな難しいものじゃないですよ」
「………………」
「…………えっと、シュレリア様、また何かまずいことが?」
「……ライナー?」
「………………はい」
「こじゅうとの指輪が材料の一覧にあるんだけど」
「そ、そうですね……」
「あの異様なオーラの出てた指輪から作るの?」
「その通りです……」
「なんで?」
「と言われても、レシピにはそう書いてあるんですよ」
「ライナー、命令。今すぐ新しくレシピを作り直して」
「そんな無茶な!」
「大丈夫、ライナーならきっとできるよ。もう立派なグラスメルクマスターだもんね」
「……考えておきます。と、とりあえず今はこのレシピで作ってください」
「約束ね? ちゃんとこじゅうとの指輪を使わなくていいレシピで作って、私にプレゼントして」
「条件増えてませんか?」
「………………ライナー、作業の邪魔」
「……はい」


てっけてっけてっけてっけしゅぴーん!


「どう?」
「問題ないですよ。俺の作ったのと比べても遜色ありません」
「……ほんとに?」
「勿論です。シュレリア様はやっぱり凄いですね。初めてでこんな上手く作れるんですから」
「え、そ、そうかな……えへへ」
「これは装備するとMPを増やせるんですけど、」
「しない」
「即答ですね」
「だって、材料を聞いちゃうとちょっと……」
「まぁ、気持ちはわかります。でも結構効果強いんですよ?」
「しないったらしないの!」
「うう、これも便利なんだけどなぁ……」










 アクセサリ:星屑の涙を装備しました。



夜、就寝前に私は化粧台の姿見を眺めていました。
お風呂上がりの髪はまだしっとりと濡れていて、艶やかに光っています。
眠る時には邪魔になるので括って一纏めに。こうすれば横になった場合簡単に除けられるからです。

前は……リンカーネイションでほとんどの時間を過ごしていた頃は、こんな習慣はありませんでした。
そもそも眠る、という行為に意味が見出せませんでしたし、リンゲージを着用している限り髪を束ねるなどといったことはしません。
身体を休める程度としか考えていませんでした。故に、私は布団の暖かさも知らなかったと言って良いのでしょう。

効率的な面だけで捉えるならば、これは大変無駄なことです。
最低限の休眠さえ取れば肉体は支障なく活動を続けられます。場所に至っては阻害される可能性がなければどこでもいい。
その点でもリンカーネイションは最適で、結局のところ、孤独な私にはあそこしか居場所がなかったのです。
……ELMAちゃんと遊んでいたりもしましたがそれはともかく。

でも、今の私ははっきりと、リンカーネイションあそこには戻りたくない、そう思っています。

だって、あの場所にはライナーがいない。人が体験し得ぬ長い年月を生きてきた私は、今更孤独の恐ろしさを知りました。
いえ、本当はずっと昔から知っていたのです。ただ私には役目があったから。
それを遂行するために、情を捨て、冷静に振舞い、想いを閉じ込め続けて。
けれどもう、ここまで来て忘れることなどできるはずもありません。心のどこかで、私が密かに求めていたことなのですから。
この優しいぬくもりを一度覚えてしまったら、戻れるはずが、ないのです。

化粧台の上に置かれたものを手に取ります。
繋がった鎖が、しゃらりと控えめな音を立てました。
中心にあるのは深い蒼の色を湛えた水晶。私が作った星屑の涙です。
「シュレリア様が作ったんですから、シュレリア様が持ってた方がいいですよ」とライナーに手渡され。
どこに仕舞うべきか悩み、化粧台の引き出しの中に入れようとしてそのまま置きっぱなしだったのを思い出しました。

覗き込んだ石は澄んだ水のように透き通っていて、綺麗です。
……そう、綺麗なのです。材料のことさえ無視すれば。

自然、私の手は鎖を輪の形にして掴んだまま、そろりそろりと自分の首まで運んでいました。
何となく目を閉じて、迷った挙句、着けてしまいます。
首裏に感じるのは金属の冷たさ。それと、胸元を飾る水晶がこつんと跳ねて当たる感覚。

手を離し、目を開けると、鏡の向こうの私が恐る恐るといった表情でこちらを見ています。
部屋の明かりを反射して、静かに輝く星屑の涙。
今は寝間着姿で全く決まりませんが、服をドレスにでも替えればちょっとは――――

「シュレリア様、起きてます?」
「え? ライナー!?」
「あ、よかった。すみません、少しお話をしようと思いまして、」
「だめー!!」

私は焦って立ち上がり躓きかけながらもどうにかドアに背中から体当たりしてライナーの侵入を防ぎました。
一瞬ごつんと激しく痛そうな音が聞こえましたが些細なことです。それよりも、今部屋の中に入らせるわけにはいきません。

「な、いったいどうしたんですかシュレリア様!? ていうか痛いです!」
「駄目なの。今は駄目。ライナーは入ってきちゃ駄目」
「訳がわかりません……」
「わからなくてもいいの。とにかく、ちょっと待ってて。いい? 絶対ドアを開けないでね?」
「は、はい、よくわからないけどわかりました」

少しだけ名残惜しく思いましたが、首から星屑の涙を外し、引き出しの中に仕舞います。
きっと、これを再び身に着けることはないでしょう。何故なら、いつかライナーが私にプレゼントしてくれるはずなのです。
……こじゅうとの指輪を材料に含んでいない、素敵なネックレスとして。

鏡に映る自分に微笑みかけ、それからドアを開けました。
さて、今日はどんな話を聞かせてくれるのか、楽しみです。



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