「さて、シュレリア様。今日は簡単なところでシャンプーハットを作ってみましょうか」
「ライナー。その前にひとついい?」
「え、何か俺間違ってたりしました?」
「ううん、そうじゃなくて……あのね。この、材料のところなんだけど」
「はい」
「私達がこれから作るのって、シャンプーハットよね? お風呂で使うあれだよね?」
「そうですけど……」
「……なんでリストの中に、大きな歯車なんて入ってるの?」
「えっと、どうしてでしょうね……。形が似てるから?」
「ちょっと、ライナー!」
「は、はいぃ!?」
「本当にこの材料でできるの!?」
「レシピ作ったのは俺じゃないですし、それに何度か俺は作ってるんですけど」
「………………変なのができたら、ライナーのせいだからね」


でっきるっかなっ、でっきるっかなっ。しゅぴーん!(効果音)


「完成しましたよ!」
「……うわ、本当にできちゃった」
「シュレリア様……信じてなかったんですか」
「だって、大きな歯車とブレーンヴェーバでどうしてこうなるの? 材料の面影が少しもないよ?」
「それは俺にもわかりません」
「ライナーの無責任……」
「いや、本当ですって! いつも俺、直感で作ってますし」
「…………理論も何も知らずに作れるって、問題にならないの?」
「今のところは聞いたことないですが。それでこれ、どうするんですか? 戦闘で役に立ちますけど」
「付けない!」
「優秀な装備品なのに……」
「これはお風呂で使うものなの!」










アクセサリ:シャンプーハットを装備しました。



お風呂、というのは非常に贅沢なものです。
湯船にお湯を溜めるにも、シャワーを流すにも、大量の水を必要とするのですから。

……それはわかっているのです。
でも、程良く温かい湯が肌を滑る感覚は凄く気持ち良くて。
ついつい長く入ってしまうのは、致し方ないことなのでしょう。そうに決まってます。

備え付けの鏡に映る私の姿はタオル一枚。
どうしても、一つ屋根の下にライナーがいるんだと思うと、例えお風呂の中であっても何かを着けずにはいられません。
ただ、中に持ち込めるタオルはバスタオルより一回り小さくて、全部は隠せないのです。
その……だから、胸は手で。万が一の時は急いで。

髪を洗うために、私はそっとシャンプーハットを被ります。
ピンク色をした円状のそれは、本来洗髪時にシャンプーが目に入らないよう作られた子供用品です。
最も、ライナーは全く違う用途で生産しているようですが。だいたい、どうしてレーヴァテイル専用なのでしょう。
もしや、ライナーには極めて特殊な趣味が! と考えてしまう私を、誰も責めることなどできません。

―――― オリカさんやミシャにはあんな服を着せていましたしね。

知らず、拳を握り締めていたことに気づき、力を抜きました。
今度さり気なくどんな服が好きか訊いておきましょう、そう頭の隅に置いてからシャンプーに手を掛けます。
軽く指に馴染ませ、櫛で梳くように髪を撫で、ゆっくりと泡立たせていきます。

少し前まではリンゲージを着けていたのであまり気にしていませんでしたが、今は事情が違います。
必要に迫られた場合を除き、普段からこの髪を晒すようになった私は、極めて念入りに手入れするようになりました。

いつでもライナーに見てほしくて。
綺麗な髪だと、思ってほしくて。

だから私は今日も髪を洗うのです。
もう、毎日朝晩ほとんど欠かさず入るようになってしまったお風呂の中で。
……勿論、洗うのは髪だけじゃありませんよ? 肌の方もちゃんと手入れしています。

後ろに流したままでは無理なので、髪の尾の方を身体の前に引き寄せます。
端から見れば、私が髪に巻かれているようにも思えるでしょうか。

……しかし、シャンプーハットは思いの外便利ですね。
いつもなら目を瞑ってしまうところでも、しっかり開けていられます。
唯一、子供用品、という部分にだけ意識が行ってしまうのですが。

私はもう数百年もの間、全然身体が育っていません。
だから大人の姿にも子供の姿にもなれるミシャに嫉妬もしましたし、オリカさんにも、その、……胸が。負けてるのです。

やっぱりライナーも本にあるように、大きい方が好きなのでしょうか。
―――― 何だか少し、そう考えるとむかっと来る自分がいます。
その感情が嫉妬だと気づくと、ああ、私はこんなにライナーが好きなのかな、と思うのです。

髪を洗い終え、シャワーでシャンプーを流します。
こんな時でもシャンプーハットは役に立つのですね。優秀な道具です。


もう一度、鏡に映る自分を見て。
そして、私は満足しました。



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