つい先日、霧ノ埼に初雪が降った。
一日中降り続いたそれは地面を真っ白に染め、少しが溶けてしまった今でもまだ薄く積もっている。

学校の帰り道。さくさくと雪を踏みしめる音だけが響く。
終業式も無事に済み、明日からは冬休みだ。
でもゆったりしている暇はない。むしろ忙しくなるだろう。

「私、受験生だからなぁ……」

―――― そうなのだ。
推薦でなく一般入試で入るつもりの私にとって、本番はこれからになる。
勝負どころはこの休み中。一ヶ月間頑張るだけでも結果は全然違うはず。

「………………うん」

やろう、やっていこう、そう思う。それが私にできること。
……ひとつのことが終わったからって、全てが終わるわけじゃない。
また次があって、その次があって、ずっと続いていく。
だって、私は生きている。生きて、いろんなことがやれるから。

まぁ、とりあえずは過去問の攻略から始めないと、と決意を新たにしたところで家に着いた。
ポストを裏から開け、いつものように中を確認して、

「あれ?」

封筒に包まれてない、二つ折りにされた剥き出しの手紙らしきものが入っていた。
手に取る。差出人の名は書かれておらず、ただ、宛先人は『依月憐様』とある。
極めつけに、それは懐かしい筆跡で記されていた。

心臓が、高鳴る。
ほんの二ヶ月ほど前に一度見た癖の字。
間違いない、これは、彼の――――


私は我慢できず、すぐに折られた紙を開いた。
そこには、ただひとこと。空白を欠片も気にせず綴られた、たったひとこと。





『ありがとう』



そして、下の端っこに、恥ずかしさを隠すかのように小さく、控えめに、『好きだよ』。





今度こそ枯れたと思っていた涙が、溢れて、止まらなくなった。
けれどそれは悲しさからくるものじゃない。嬉しいから、というのも少し違う。

―――― ああ、これで、これでよかったんだ。

凄く、満ち足りた気持ち。
あったかくて、幸せで、どうしようもない想いを抱きながら、私はしばらくぎゅっと手紙を胸の辺りで握り締めていた。
このこころを確かめるように、ぎゅっと。





「私も、好きだよ」





―――――― 届いたよね。



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