HONEY DAYS 〜いちゃいちゃ日和〜



「なあ理樹君、今度二人きりで旅行に行かないか?」

 それは唯湖さんの一言から始まった。

「旅行?」
「今度の連休にでもと思っているんだが?」
「うん、良いね。僕も資金的には余裕有るよ」
「あぁ、宿泊に関しては金銭を心配しなくて良い、せいぜい交通費くらいだ」
「そうなの?」
「うむ、私の祖父が持っている別荘に行こうと思っているんだ、両親はあの通り外国かぶれでほとんどを国外で過ごすし使う人間が誰も居ないそうなんだ」
「へぇ〜」
「だから、清掃と片付けをするなら自由に使って良いそうだ。ふふふ、二人でしっぽりむふふとしゃれこもうじゃないか? 理樹君」
「えぇっ?」

 妖艶な顔で僕の耳元で囁く唯湖さんに僕の心臓の鼓動が跳ね上がる。

「折角の二人きりの旅行なんだ、思い切りハメを外すのも悪く無いだろう? あぁ理樹君はいつも私をハメているか」
「いやいやいや、そんな親父臭い事言わないでよ。それに普段からしょっちゅうハメ外してる気もするんだけど……」
「なんだと?」
「な、なんでもありませんっ」
「ふ〜ん、理樹君は私とエッチするのは嫌か。そうかそうか、今まで試した事無いあれやこれやらしてやろうと思ったのに」

 そうやって拗ねる唯湖さんに慌てる僕。

「いやいやいや、そんな事は言って無いってば。僕としては嬉しいし」
「じゃあOKだな?」
「う、うん」
「期待すると良い、ちなみにだ、その日は大丈夫な日だから生で好きなだけ出してくれてもOKだからな?」
「あ、あははははは」



 こういう訳で僕と唯湖さんは電車を乗り継ぎ、二人でとある山間に有る唯湖さんの別荘に来ている。
 かなり立派な別荘でテニスコートまで造られている。つくづくこの唯湖さんって何者なんだろうと思わせられる。

「ここ数年使ってなかったそうだが、数日前に連絡して手入れはしてもらったから、綺麗になってるはずだ」
「そこまでしてもらうのなんだか申し訳無いね」
「気にしなくて良い、祖父達や両親もこんな私を恋人にした君に感謝してるそうでな。これくらいお安いご用だと快諾してくれていたしな」
「ますます恐縮しちゃうんだけどなぁ」
「君はもう少し自身を持つべきだ、私の旦那様になるんだからないつまでもそんな調子じゃ困るぞ?」
「ど、努力します」
「あぁ、是非そうしてくれ」

 自分の発言にちょっと恥ずかしくなったのか唯湖さんは顔を赤くし、僕もつられて赤くなりお互い暫く無言になってしまった。

「そ、それはそうと静かで良い所だね、うん、気に入ったよ」

 流石に間が持たなくなったのでごまかそうと話を振ってみる。

「それは何よりだ。普段が賑やか過ぎるからな、たまには二人きりで静かに過ごすのも悪く無いだろう?」
「そうだね、恭介達と居ると何かと騒がしくなっちゃうもんね」
「しかも私達がデートしたりいちゃつこうとすると何かと邪魔をしに来るからな。特に野郎共」

 唯湖さんが不機嫌そうに言う。

「まぁ、今回は私しか知らない場所だし、厳重に釘も刺した事だし追いかけてくる事はあるまい」
「うん、まぁ、あれじゃ無理だろうね」

 出発の前日に唯湖さんがやった事を思い出し、顔が引きつってしまう僕。

「何、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に堕ちろとも言うからな。それを実行したまでだよ」



 同時刻、学園の理樹と真人の部屋。

「なぁ、謙吾っちこれどうすりゃ良いと思う?」
「俺に聞かれてもどう答えれば良いか分からん」

 井ノ原真人と宮沢謙吾が困った顔で視線を向けた先には、

「むがー、ふぐー、むー、むー」

 全身を鎖で縛られ、猿轡と目隠しをされた状態で古代エジプトのファラオの棺を模した箱にぶち込まれているリーダー棗恭介の姿。
 今も暴れて棺をガタガタと揺らしている。
 棺はビス止めされ、幾重にも鎖が巻かれた上更に鍵が複数取り付けられており、しかもその棺の蓋の部分には、『解放厳禁』『S級封印指定(21)』『開けたら死』『日本じゃ二番だ』等と意味が分かるような分からないような言葉が書かれたお札が幾つも貼られてあった。(ちなみに超達筆)



「さて、真人少年、謙吾少年、私と理樹君は明日から連休の間旅行に出かける。君達はまだ良識が有ると信じているから何もしないが、もし恭介氏を解放し、あまつさえ追いかけてくるような事が有れば、貴様等は生きながらにして地獄を味わうであろう事を覚悟しておけ」
「「サ、サー、イエッサー!」」
「おい、ここまでやるかよ普通っ!? う、うわああああああああああああああ」
「ええい五月蝿い黙れこのファッキンガイ、貴様にはこの程度すら生温い。悔しかったらプリンセス・テンコーの如く華麗な脱出劇でもやってみせるのだな?」
「無茶苦茶言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 悪魔ですら土下座して逃げ出しそうな殺意の波動を撒き散らしながら恭介の封印作業をする唯湖に、水飲み鳥のおもちゃの如く何度もかくんかくんと縦に首を振り、敬礼して答える二人であった。


「あの時の来ヶ谷は視線だけで魂すら消し飛ばされかねない迫力が有ったな」
「あの来ヶ谷に言うこと聞かせられるなんて理樹はマジですげぇよなぁ、もう敵わねぇぜ」
「恋は人を変えるとは言うが、来ヶ谷のあれは変わり過ぎだろう……」

 はぁとお互いに溜息をつき、それからもう一度視線を棺に戻す二人。

「話は戻るけどよ、マジでどーすんだこれ」
「捨て置くしかあるまい、命には変えられん」
「だな、すまねぇ恭介当分我慢しててくれ」
「それは俺達だけじゃなく、お前の為でも有るんだからな」
「あー、ずっと緊張してたから腹減っちまったなぁ、カツでも喰いに行ってくっか」
「それじゃあ、その後他のメンバーも誘ってどこかに遊びにでも出かけるか」
「良いねぇ、じゃな恭介。後で様子また見に来るからよ」
「むがーむぐーうがーーーーーーーーーーー」

 叫ぶ恭介をほっといて部屋から二人は出て行った。薄情と言う無かれ、相手が悪過ぎるだけなのだ。
 そして、理樹と唯湖に場面は戻る。



「さて、理樹君このまま玄関前で突っ立っていてもしょうがない。さっさと入ろう」
「うん、そうだね」

 それから別荘の中に入り見回して見ると、外側と屋根がガラス張りの10人位は入れそうな浴場や広めのキッチン、沢山の部屋と、ペンションとして使っても良いんじゃないかと言う程の立派な物だった。

「リトルバスターズの皆を連れて来てここで遊ぶのも楽しそうだな」
「勘弁してくれ、女子メンバーはともかく、三馬鹿にこの場所がばれたら今後ここを使えなくなってしまうじゃないか?」
「あぁ、そっか」
「皆には悪いが、ここは私と理樹君だけの秘密の場所にしておきたい。ダメか?」
「そうだね、二人だけの秘密にしておこうか」
「すまないな君の優しさを無下にするような事言ってしまって」
「ううん、折角の二人きりなのに空気を読まなかった僕が悪いんだから」
「まぁ、ここじゃなくても海の方にも別荘は有るから、その時が来たらそっちを提供させてもらうさ」
「あぁ、そうなんだ」

 もともと立ち居振る舞いとか洗練されていたし、どこか浮世離れしたイメージは有ったんだけど、唯湖さんがますます遠い人のように感じてくる。

「こら、また余計な事考えていたな? 何度も言うが出自や家柄は私には何の意味も価値も無い。私は直枝理樹が好き、それだけ信じてくれれば良い」
「うん、そうだね、何度もごめん」
「構わんさ、それじゃあ部屋へ案内しよう」

 それから僕は自分にあてがわれた部屋へ案内され、中に入る。

「では、私は色々準備をするから、呼ばれるまでは部屋でくつろいでいてくれ」
「うん、分かった」
「じゃあ、今日から二泊三日欲望の赴くまま爛れた休暇を存分に楽しもう」

 そう言って、唯湖さんは出て行った。
 僕と唯湖さんの二人きりの甘い休暇が始まる。



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