Level1

 日々の暮らしについて
 誰のが一番?
 犬猿の仲・1
 色々崖っぷち
 演説の感想


  Level2

 コスモスフィア・1
 メイメイとのこと
 銘菓オボンヌ
 星を見ること
 シュレリアのグラスメルク・1


  Level3

 コスモスフィア・2
 コスチューム・1
 リルラの要望
 心の護はどこに?
 ライナーの実力


  Level4

 コスモスフィア・3
 コスチューム・2
 ネモは賑やか
 ラードルフの年齢
 ホットパンとの出会い


  Level5

 コスモスフィア・4
 コスチューム・3
 レーヴァテイルと詩
 お酒っておいしい?
 シュレリアのグラスメルク・2


  Level6

 コスモスフィア・5
 コスチューム・4
 どこから出てきた?
 人のことは言えない
 スピカとミュール


  Level7

 コスモスフィア・6
 コスチューム・5
 謎の人望
 昔の話・1
 女の子らしくない


  Level8

 コスモスフィア・7
 コスチューム・6
 ミシャとは気が合う?
 息ぴったり
 寝起き悪い


  Level9

 コスモスフィア・8
 コスチューム・7
 オリカのネーミングセンス
 昔の話・2
 男子禁制
 コスチューム・8
 ミュールの五分クッキング
 犬猿の仲・2
 最近入り浸りなこと
 どっちがいい?





  Level1



 日々の暮らしについて

「ミュールって、うちに来る前はどうしてたんだ?」
「適当に塔内をぶらついてたわよ」
「……睡眠とか食事は?」
「あら、前に言わなかったかしら? わたしやシュレリアには別に必要ないのよ」
「そういや、最初は箸の使い方も知らなかったもんな……。手で掴んで食ってたし」
「食事自体の経験はあったんだけど、碌なものじゃなかったから。あれはどっちかというと餌だったわね」
「そんな壮絶な過去をさらっと告白するなよ……」
「まあ、久しぶりの外だったし、あちこち眺めて回るのも悪くはなかったわ」
「じゃあ今は不満だったりするか?」
「程々にね。あとはシュレリアが出てってくれれば最高」
「本っ当に二人とも仲悪いな……」



 誰のが一番?

「飯のことなんだけど、」
「ライナーのは論外ね」
「俺まだほとんど何も言ってないよな……?」
「それなりに食べられる物が作れるみたいだけど、比べると可哀想になってくる程度のレベルだわ」
「……せめてもうちょっと優しい言葉を選んでくれ」
「現実から目を背けても何も得られないわよ」
「………………」
「悔しいことに、シュレリアの料理は結構おいしいのよね。昔は多少しかできなかったはずなのに」
「そうなのか?」
「わたしの知ってる限りじゃ、フルコースを振る舞えるほどじゃなかったわよ」
「あー、確か以前ふらっと家を開けて、二週間くらいしたらすごい上達してた覚えがある」
「なるほどね。ま、それでもアヤタネには敵わないけど」
「和食ばっかとはいえ、すっげえ上手いからな。一人暮らしの時はよく世話になったよ」
「はぁ……そんなだから駄目なのよ、あなたは」



 犬猿の仲・1

「なあ、せめてシュレリア様ともう少し和解してみないか?」
「無理。あっちが噛み付いてくるんだもの」
「即答か」
「そもそも生理的に受け付けないのよ。何あの子、管理者の癖に威厳なんてこれっぽっちもないじゃない」
「いや、正直それには同意するけどさ……」
「肝心なところが抜けてるし服装もあざといし胸のサイズは誤魔化すし、いい歳して何考えてるのかしら」
「酷い言い草だなおい」
「何より、年上だからってわたしを下に見てるところが腹立つわ」
「そりゃ生理的っていうかもっと別の問題なんじゃ」
「とにかく、もう一度はっきりわたしの方が格上だって思い知らせてやらないと気が済まないのよ」
「あのなぁ……百歩譲ってそれをいいとしても、事ある毎に詩魔法唱えようとするのは勘弁してくれよ……」
「どうして?」
「家が壊れる! 近所にも迷惑が掛かる!」
「なら、その二つの問題が解消できればいいわけね」
「そういうことでもなくて……ああもうっ!」



 色々崖っぷち

「考えてみれば、プラティナって結構不安定だと思わない?」
「え、そうか? 生まれた時からここに住んでるし、そういう風に感じたことはなかったな」
「あなた、ホルスの翼に何度も降りてるでしょ。あっちの街と比較してどう?」
「ネモよりは小さいだろうけど」
「そうじゃなくて、建物とかでぎっちぎちじゃない? やたらと落ちそうなところ多いし」
「言われてみれば……大聖堂の周りとか、かなり通路が狭かったはずだ」
「つい足を滑らせて落下、なんて事故、少なからずあったと思うんだけど」
「……年に一人か二人くらいは」
「それに、塔にへばりついてるような街だし、いつ崩れ落ちてもおかしくない気がするのよね」
「………………うわ」
「あら、想像したら急に恐ろしくなった?」
「俺、明日からはもっと気を付けて歩くようにしよう……」



 演説の感想

「俺も見てたけどさ、あの時はホント肝を冷やしたよ」
「ふうん、具体的にはどこで?」
「ELMA呼び出したとことか、集まったみんなが散々ミュールを罵ってた時とか、もうずっと」
「要らない心配だったわね」
「他人事みたいに……でも、みんな勝手だよな。そう言いたくなるのもわからなくはないけど……」
「人間ってそういうものでしょ。誰もがライナーみたいにはなれないのよ」
「そうなのかなぁ。難しくないことだと思うぞ」
「……だからあなたはここにいるのかもね。馬鹿だけど」
「馬鹿は余計だ」
「にしても、人々を見下ろすのは気持ち良かったわ。ちょっと癖になりそうだったもの」
「そんな妙な快感覚えるなよ……」
「また機会があったら、この愚民どもが! って叫んでみたいわね」
「絶対やるなよ!?」





  Level2



 コスモスフィア・1

「こないだのダイブで言いたいことがあるんだが」
「何かしら? これからの展開に関しては詮索禁止よ。面白くなくなるもの」
「誤魔化すなっての。あれ、仮想世界だったよな? 俺の記憶は間違っちゃないよな?」
「残念ながら正常ね」
「……一応確認するぞ。ミュールはベータ純血種……だっけ、なんだろ? ミシャと同じ」
「ええ。レーヴァテイルの区分は知ってるんでしょ?」
「シュレリア様が世界に三人しかいないオリジン、そのクローンがベータ純血種、人間との子供が第三世代、だよな」
「正確には、レーヴァテイル因子を持つ人間の女性が第三世代なんだけど。まあ今は関係ないわ」
「前にシュレリア様はコスモスフィアがないって聞いたことがある。でも、ミシャにはちゃんとあった」
「でしょうね。シュレリアの精神は塔そのもの。あれは特別なのよ」
「じゃあ、ミュールにもちゃんとしたコスモスフィアがあるんだろ? なのに何で……」
「理由は二つ。一つは、ダイバーであるライナーの危険を考慮してよ」
「そうなのか?」
「入っていきなり殺されたりなんかしたら、さすがに浮かばれないでしょ」
「…………二つ目は?」
「誰が好んで心なんてものを見せると思う?」
「いや、そのためにダイブしてるんじゃ、」
……恥ずかしいのよ
「ん、何か言ったか?」
「別に。とにかくあなたは何も考えずダイブすればいいのよ。詩魔法も紡げてるし」
「……はぁ、わかった。とりあえず、心配は要らないんだな?」
「続きを楽しみにしてなさい」



 メイメイとのこと

「そういや、いつの間にメイメイと仲良くなってたんだ?」
「仲がいいってのには語弊があるわね。ちょっとした愚痴仲間よ」
「……愚痴の内容に関してはあんまり訊かない方がいいんだろうなぁ」
「あの子はメンテナンスロイドだし、寝てばっかりいる分積極的に会話する必要もないから」
「まあ、ミュールじゃすぐに話題なくなって気まずくなりそう……痛っ、ちょ、つねるなよ!」
「失礼なことを言うからよ。一度その減らず口をどうにかした方がいいわ」
「一番言われたくない相手に言われた気がするんだが」
「気の所為でしょ」
「……でも、愚痴以外にはいったいどんなことを話してるのか、何となく気になるな」
「仕事絡みの話とか、あとはあの子が持ってる第一期の知識情報を教えてもらってるわね」
「要するに勉強か」
「何嫌そうな声出してるのよ」
「だってなぁ……。俺なんて難しそうな本読むだけで頭痛くなってくるぞ」
「……シュレリアがライナーには勉強が必要だとか言ってたけれど、わたしもそれに関してだけは同意するわ」
「ぜ、絶対結託しないでくれよ……?」



 銘菓オボンヌ

「さっきオボンヌ買ってきたんだけど、食べるか?」
「ええ、もらうわ。……んぐ、んう」
「何も一口で食わなくたって……いや、確かにうまいしその気持ちもわかるけどな」
「む、んく……っ、別にあなたほど好きじゃないわよ」
「そうなのか? 俺が持ってくる度につまんでる気がするぞ」
「あれば食べる。なければ食べない。まあ、悪くないとは思うけど、あくまでそれなりね」
「こんなにうまいのに……」
「というか、事ある毎に箱買いしてくるライナーが異常なのよ」
「異常って何だよ異常って。オボンヌのどこがおかしいんだ」
「じゃあ訊くわ。一日三食オボンヌでも平気?」
「ああ、勿論」
「一人で一度にどのくらいまでなら食べられる?」
「三箱は余裕だな」
「もしオボンヌの偽物が他のところで出回ってたら?」
「全力で抗議しに行く」
「……残念ながらもう手遅れね。わたしにはどうしようもないわ」
「そこまで言うか!?」
「あなたもそれがなければ多少は……いえ、なくても駄目なものは駄目よね」
「どうして俺、こんなに貶されてるんだろう……」



 星を見ること

「天文台の望遠鏡って使われてるところ見たことないなぁ」
「そもそもあそこに来れるのがほとんどいないもの。プラティナの人間だってメイメイの存在は知らないでしょ?」
「あー、まあそうだな。俺も実際会って初めてあの声の主だってわかったし」
「第一期、天文の研究も行われていた頃は頻繁に使用されてたらしいわ」
「天文の研究って……いったい何をするんだ?」
「夜に空を見ると、星が浮かんでるのは知ってるわよね。その動きや距離の変化を観察していくのよ」
「……楽しいのか?」
「さあ。でも、わたし達がいるこの世界も星なのよ? 自分達の住むところを知りたいと思うのは当然じゃない?」
「なるほど、そう考えれば何となく意味があるってわかるな」
「研究を抜きにしても、望遠鏡から見る星はなかなかのものだけど……ライナーは花より団子っぽいわね」
「どういう意味だよ」
「言葉通りよ。綺麗な星より明日の食事って感じ」
「……今度行ったら絶対星を見てやる」
「わざわざ意気込まなきゃいけない時点でおかしいことに気付きなさい。全く、前途多難ね」



 シュレリアのグラスメルク・1

「あざといわよね」
「いや、いきなりそんなこと言われてもよくわからないんだが」
「うさライスの話よ。見た目もネーミングセンス的にも、あの年増にはまるで似合わないわ」
「年増って……別にいいだろ。おいしいし、あれならお店に出してもおかしくない出来だぞ」
「そう、それ。そもそもシュレリアって、ついこないだまで料理できなかったわけでしょ?」
「あ、まあ」
「なのにまともな食べ物が作れるなんて、グラスメルクはどうかしてるとしか思えない」
「確かに、大自然やグラスノの神秘とかで誤魔化してる部分もあったなぁ……」
「ライナーはメルクなのよね。実際どんなものなの?」
「うーん、基本はレシピカードに書いてある通り、素材を加工してグラスノ結晶と混ぜ合わせるだけだよ」
「どういうメカニズムでグラスメルクが成立してるかは知ってる?」
「シュレリア様に聞いたから多少は……。何だっけ、シルヴァホルンの機能がどうとか」
「端的に言えば、結晶が持つ魔力的な要素を、シルヴァホルンを介して加工品に付与する技術よ」
「……ごめん、正直さっぱりだ」
「あなたに説明しようと思ったのが間違いだったわね。まあ、理論も知らず実践できるものだってのはわかったわ」
「許可さえ取れば誰でもできるからな」
「だからこそ余計釈然としないんだけど……全く、何でもかんでも適当な文句で済ませるんじゃないわよ」
「そういえば、うさライス、ミュールは食べたのか?」
「味はそれなりね。あくまでそれなりよ。……不味くはなかったけど」


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  Level3



 コスモスフィア・2

「あれってやっぱり、ひとつの物語になってるのか」
「ええ。でもまだまだ序盤、話は始まったばかりよ。といっても、今回はあまり波を持たせなかったけど」
「波って?」
「物語的な起伏。前にシュレリアの中でやったのはテンション高めだったし、そればっかりだと疲れるでしょ」
「まあ、たまには大人しい方がいいかな」
「ということで、しばらく地味な展開が続くわ。私の出番もそんなにはないわね」
「何かさ、ここまでだと織香の方が目立ってるんじゃないか?」
「シュレリアの時もそうだったでしょ? 噛ませ犬よ、噛ませ犬」
「そうはっきり言うのもどうなんだろうな……」
「どうせ後になれば出てこなくなるんだから、今のうちに目に焼きつけときなさい」
「本人がこれを知ったら何て言うか……いやそれよりも、あの話の登場人物って、ミュールが考えたんだろ?」
「性格とかは私のイメージね。オリカは一回中身覗いたからある程度わかるけど、実際似てるかは微妙よ」
「結構似てると思う。こう、さらっととんでもないこと言うところとか、正直過ぎるところとか」
「ふうん。なら私の眼力も捨てたものじゃないわね。脇役はあと一人出てくるから、期待しておくといいわ」
「むしろ不安なんだけどなぁ……色々と……」



 コスチューム・1

「ずっと疑問に思ってたんだけどさ」
「何?」
「コスモスフィアの中で着てた服を、現実でも着られるようになるだろ? いったいどうなってるのかと」
「チェンジ! ……こういうこと?」
「そうそう」
「お約束よ」
「……は?」
「魔法少女は変身が大事なの。定石でしょ」
「定石も何もっていうかそもそも魔法少女じゃないだろ……」
「女性しかいなくて詩魔法を扱えるんだから、だいたい魔法少女でいいじゃない。私はこれ以上成長しないし」
「いやだから、そういう話じゃなくて」
「真面目に答えてもいいけど、かなりつまらないわよ。それに夢がなくなるわ」
「何の夢だよ……」
「波動科学的な見地からどうとか、そんなのは一瞬で着替えられることの素晴らしさを曇らせるだけなのよ」
「聞いた俺が馬鹿だった……。あ、あとひとつ。LSUって何の略なんだ?」
「ロングスカートユニフォーム、だったかしら。長い裾の制服って意味らしいわね」
「らしい、って……」
「こうして着てみると、案外悪くないものね。全体的に緩いし、まあちょっと脱ぎにくそうだけど」
「変身なら脱ぎにくさとか関係ないよな」
「いつでも呼び出せる便利な着替えが増えたと思えば、悪くないわ」



 リルラの要望

「ライナーはあの子とどんな関わりがあったの?」
「あの子って?」
「リルラ……って言ってたかしら」
「あー、リルラか。よくグラスノ結晶とかグラスメルクの素材とかを拾いに行ってもらってたなぁ」
「そういえば、首に鏡を掛けてたわね。ジェミニ?」
「確か。どこでも行けるからって、仕事にしてるんだとさ。あの歳で偉いというか逞しいというか……」
「あなたやシュレリアよりよっぽどしっかりしてるのは間違いないでしょうね」
「……ま、まあそれは置いといて、何でそんなこと訊いたんだ?」
「イム・フェーナに行った時、見かけたから色々話してきたのよ。ライナーと顔見知りなのは知ってたし」
「もしかして、メイメイにしたのと同じような質問を?」
「直接的な訊き方はしてないわ。ただ、何か要望があるかって言ったら、塔内が安全になればいい、って」
「なるほど。リルラらしいっちゃらしいかもな」
「こっちとしてもそのつもりだったし、別に断る理由はなかったんだけど……何というか、欲のない子ね」
「純粋だなぁ、とは俺も思う」
「ねえライナー、もしわたしがあの子みたいだったら……いや、聞かなかったことにして」
「自分で想像してそんな物凄い顔するなよ……」



 心の護はどこに?

「まだ……っていうか、もうLevel2が終わったんだが」
「そうね。それで?」
「未だにミュールの心の護を見たことがないんだよ」
「そんなこと言われても困るわ。わたしにはわからないし」
「え、わからないのか?」
「心の護は、レーヴァテイルの無意識が作り出す防御機構の一種よ。そのくらいは知ってるでしょ?」
「あ、いや、えっと……」
「……説明してほしい?」
「はい、お願いします……」
「全く仕方ないわね。じゃあ簡単に、彼らの基本理念はコスモスフィアとレーヴァテイルを守ること。ここまではいい?」
「オリカやミシャの時に身を以って体験してるよ」
「なら理解できるでしょうけど、心の護はコスモスフィアに直接的な干渉ができないのよ。その在り様故に」
「ん、どうしてだ? 大事に思ってるから守るんじゃないのか?」
「だから迂闊に動けないんじゃない。それに、望ましくない方へ大きく意識が変容すれば、彼らの存在も危うくなるもの」
「そっか、なるほど。どんすけにもハマにもすっごい邪険にされてきたけど、そういう理由があったんだな」
「ここに至るまでその辺をちゃんと理解してないライナーの馬鹿さ加減には頭が上がらないわ」
「………………」
「とにかく、心の護にとって過度の干渉はご法度。彼らはあくまで守護者、見守るだけの存在なの」
「でも……それって何だか寂しいな」
「わたしはそうは思わないわね。ねえライナー、心の護がどういうものかは知ってる?」
「その人の、大切な思い出の象徴……だったっけ」
「ええ。……思い出は、無暗に掘り返すものじゃないでしょ。自分の中だけに秘めておけばいいのよ」
「……ミュールにも、そんな思い出があるんだな」
「何となく、わたしの心の護も予想は付いてるわ。必要になったらひょっこり現れるでしょうし、心配しなくても平気よ」
「わかった。会えるのを楽しみにしとく」



 ライナーの実力

「正直に言って、あなたってどれくらい強いの?」
「どれくらいって言われてもな……」
「わたし本気で殺すつもりだったんだけど、戦い終わってもぴんぴんしてたわよね」
「グラスメルクで必死に装備作って身を固めてたからなぁ……。というか、やっぱりマジで殺す気だったのか」
「もう過ぎたことよ」
「……いや、いいけどさ。で、俺の強さだっけ? かなり武器や防具に頼ってるところがあると思うよ」
「でもそれじゃ、あの馬鹿みたいな体力の説明がつかないじゃない」
「まあ、そこはちゃんと鍛えてるから。毎日鍛錬は欠かさずしてるし」
「エレミアの騎士はみんなあなたくらいなのかしら」
「どうだろうな。一応、あの中じゃそれなりの位置にいるって自負はあるぞ」
「騎士って割には貧弱そうなのも結構いるわよね」
「基本的には自分の意思で入るものだけど、そうじゃない奴もいるからなー……」
「面倒な話ね」
「ただ、やるからには強くなって、死なないでほしい。俺達の仕事は、みんなの命を守ることだから。自分も含めてさ」
「ふうん。意外としっかりしてるみたいね。ちょっと見くびってたわ」
「……常々思うんだが、ミュールの中で俺の評価って滅茶苦茶低くないか?」
「よくわかってるじゃない」
「………………」
「話変えましょうか。最近注目してる騎士はいる?」
「注目? そうだな、エシウス……って言ってもわからないか。すっごい無口な奴なんだけど」
「さっぱり思い浮かばないわ」
「だと思った。入ってきた時期は俺より後なんだが、着々と強くなっててな。俺でも下手したらちょっと危ないかもしれない」
「じゃあ近いうちに負け犬になって帰ってくるライナーが見られるのかしらね」
「……何が何でも負けられないなぁ」


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  Level4



 コスモスフィア・3

「ああいう感じのイベントがあったら、確かにミュールはずる休みしそうだよな」
「いきなり失礼なこと言うわね。それは偏見というものよ」
「じゃあ実際、その、たいいく? ってのに参加しなきゃいけなくなったとしたらどうする?」
「出なくてもいい理由を考える」
「………………」
「結果的にサボったことにならなければ問題ないでしょ」
「いや、問題だらけだと思うぞ……」
「文句を言う奴らは後で黙らせるわ」
「……ミュールが集団生活には致命的に向いてないってのがよくわかった」
「それはともかくライナー、いくら何でもわたしのこと見過ぎじゃないかしら」
「シナリオ作ったのはそっちだろ! 見たくて見てるわけじゃない!」
「あら、そこまではっきり断言されると傷付くわね」
「その割には全然傷付いた顔してないよな……」
「だってどうでもいいもの」
「……はぁ。で、これって結局どうなるんだ?」
「そう訊かれて素直に教えるわけないでしょ。先が見えないからこその面白さよ」
「ここからも気楽に楽しめればいいんだけど、今までの経験上……」
「ちゃんと生きて帰ってきてるんだから、まあ大丈夫じゃないの?」



 コスチューム・2

「何だっけ、トランジスタブルマー」
「チェンジ! ……これのことよね」
「そうそう。運動用の服みたいだけどさ、実際着てみてどんな感じなんだ?」
「生地が柔らかいから動きやすいわね。サイズもぴったりで、身体にフィットしてるわよ」
「へえ。結構考えられてるのか」
「それに何より、露出度が高いのが素晴らしいわ」
「……まあ、太腿丸見えだもんなあ」
「服の裾は中に入れてこそね。この微妙にイケてないところも高評価よ」
「俺はミュールをどう評価していいのかがわからないよ……」
「唯一困ったことと言えば、汗を掻くほど動かないからそんなに活用できそうにはないのよね」
「一緒に出かける時以外はずっと家にいるしな。もっと運動した方がいいと思うぞ」
「別にわたしが頑張らなくても、あなたやアヤタネが動いてくれるもの」
「せめて健康的な生活を営んでくれ!」



 ネモは賑やか

「全体的に地味なプラティナと違って、ネモはどこも活気があるわよね」
「そもそも人口が多いからなあ。ついこないだまでプラティナはホルスの翼と半分断絶状態だったし」
「さすがに第二期のネオ・エレミアほどじゃないけど。ねえライナー」
「そこはかとなく嫌な予感がするけど一応聞いておくぞ。何だよ?」
「こう、わらわら人間が集まってるのを見ると、その真ん中に詩魔法ぶち込んで思いっきり吹き飛ばしたくならない?」
「やっぱり碌な内容じゃなかった……。これっぽっちもならないから」
「まあ冗談は置いといて」
「ちっとも冗談に聞こえなかったのはどうしてだろうな……」
「あの盛況具合に教会は関与してるものなの?」
「んー、治安維持には一役買ってると思う。特にネモは教会のお膝元だし、ラードルフが頑張ってるからなあ」
「……なるほど。災害援助とかもしてるって話だものね」
「教会の神官が街を守ってるから、住んでる人達も安心して店を出したりできるんだよな」
「そういう意味では、あなたと似たようなものじゃないかしら」
「仮に立場が逆だったら、ラードルフがエレミアの使徒だー、って持て囃されてたかもしれないな」



 ラードルフの年齢

「ぶっちゃけ、ラードルフっていくつなの?」
「えーっと、確か最初に出会った時は二十四だったらしいから」
「……あれで?」
「あれで」
「正直いい歳したおっさんにしか見えないわよ。年齢詐称してるんじゃないの?」
「本人に言ったら物凄く傷付くと思うぞ」
「そこまで空気読めなくはないわ。オリカじゃあるまいし」
「前にオリカもおんなじようなこと言ってたけどな」
「でも、顔が老けてるのは事実でしょ。ライナーもそう思わない?」
「…………ノーコメントで」
「とんだ日和見主義者ね」
「あ、そうそう、歳の話と言えばさ」
「誤魔化そうとしてない?」
「まさか。で、ラードルフってもう結構お偉いさんだし人気もあるんだけど、浮いた話は全然聞かないんだよな」
「ふうん……。どうして?」
「さあ。引く手数多だと思うんだけどなあ」
「当人にその気がないんならしょうがないでしょ」
「……何で俺を見るんだ」



 ホットパンとの出会い

「衝撃的だったわ」
「んな大袈裟な……」
「プラティナで売ってるお菓子なんてオボンヌくらいしかないんだもの。あれはライナーが毎日のように買ってくるし」
「おいしいんだから仕方ないだろ」
「元々自分でも、あんまり食べる物にはこだわりないって自覚はあるんだけど……初めてお腹いっぱい食べたいって思ったわ」
「俺にとってのオボンヌみたいなもんか」
「そこまでは行かないわよ。三日三晩ホットパン、なんてのはさすがにうんざりしそう」
「何かさり気に馬鹿にされてる気がするんだが」
「あなたとオボンヌ談義するつもりはないわよ。今はホットパンの話」
「確か、ネモの喫茶店で頼んだんだっけ」
「ええ。程良い茶色に焼き上がったパン生地と甘く濃厚な蜜が織り成す絶妙な味。あそこの料理人、いい仕事してるわよね」
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったからなあ……。また機会があったら行こうか」
「楽しみにしてるわ。その時はライナー、男らしくわたしの分も出してくれるんでしょうね」
「……了解。でも、ホットパンって作るのは難しくないんじゃないか? シュレリア様に頼めば、」
「絶対嫌。あの子にみすみす隙を見せたくはないもの」
「戦いは終わったはずなのに、どうして二人は殺伐としてるんだろうな……」
「ただ、自分で作るってのはいい案かもしれないわね。今度クレア辺りに教えてもらおうかしら」


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  Level5



 コスモスフィア・4

「かなりきつい話だったよな」
「そう? 別に死者が出たわけでもないし、これでもスプラッタは自重したのよ」
「どんなストーリーにするつもりだったんだ……。いやほら、トイレで水掛けられるシーンあっただろ?」
「あったわね」
「あの辺とか、男同士じゃまず有り得ないからさ。そりゃ殴ったり蹴ったりされるよりはいいのかもしれないけど」
「どちらも虐げるって意味では変わりないでしょ。ただ、得てして女の方が陰湿なものらしいわ」
「陰湿って言えば……俺がまだ子供の頃に、騎士団の中でちょっとしたいざこざがあったんだよ」
「ふうん。その話は知らないわね」
「公言するようなことでもないからな。で、二人のレーヴァテイルの子がある騎士のパートナーの座を争ってて」
「何となく想像はつくけど、それで?」
「口論した次の日から、お互い相手に嫌がらせ仕掛けてさ。結局騎士の方に断られた」
「ありがちなオチね」
「シュレリア様と親父が物凄い説教してるのを見て、あんな風にはなりたくないな、って思ったよ」
「……もう手遅れなんじゃない?」



 コスチューム・3

「オボンヌね」
「……オボンヌだな」
「美的センスを疑うデザインだわ」
「え、そんなことないだろ。このつぶらな瞳がいいんじゃないか」
「……大口開けた間抜け面にしか見えないわよ」
「そこが可愛いんだって」
「まああなたの壊滅的なセンスは置いといて」
「さらっと傷付くこと言うよな……」
「これのポイントは、わたしには明らかに合わない大きなサイズだってことね」
「確かにぶかぶか……って、ずり落ちそうなのはまずくないか?」
「そこがいいんじゃない。ちらりと覗く鎖骨。余った服に隠れた腰回り。見えそうで見えないチラリズムよ」
「いや、チラリズムはいいから下くらい穿けよ……」
「穿いたらこの服の価値なんてゴミみたいなものじゃないの」
「酷っ!? そこまで言うか!?」
「オボンヌがなければお気に入りにしてもいいんだけど。服は着てて気楽な方が好きだわ」
「一番気楽なのが裸だってことを知らなければ、素直に同意できるんだけどな」



 レーヴァテイルと詩

「初めてクレアさんの詩を聴いた時は、衝撃的だったなあ」
「詩魔法と音楽としての詩が全く別物なことを知らない人間って、意外と多いのよね」
「……実は俺も、そんな詳しくはわかってないんだけど」
「本当にあなたは馬鹿よね」
「否定はできません」
「その潔さに免じて軽く教えてあげるわ。そもそも、詩魔法を唱える際、わたし達は厳密には謳ってるって意識がないの」
「あんなに声を出してるのに?」
「詩魔法の本質は“塔に想いを伝える”こと。だから、それに最も適した言葉がヒュムノスに変換されるのよ」
「だんだんわからなくなってきた……」
「謳ってる最中でも会話はできるでしょ? 普通の歌じゃそうは行かないわ」
「あ、確かに」
「わたし達はあくまで“想いの伝え方”を知ってるだけ。声も音も、喉から発してるわけじゃないもの」
「喋れるってことは違うところから出てるんだろうな。……でも、それならどこからなんだろう」
「レーヴァテイル質に関係してるのは間違いないわね。この辺は波動科学の範疇なんだけど――
「………………」
「説明しても無駄になりそうだからやめるわ」
「ストレートなお返事ありがとうございます……」



 お酒っておいしい?

「クレアと言えば、ライナーはお酒、飲んだことあるの?」
「一応未成年だからなー……。騎士の先輩に何度か飲まされたけど、正直あんまりいいもんじゃなかったぞ」
「ライナーの味覚が子供だからじゃない?」
「そうかもなあ。大人になると好き嫌いも変わるっていうし」
「大人、ね。わたしやシュレリアの場合は、もう味覚なんて変わりようがないものだけど」
「それでも慣れはするだろ。お酒だって、がんがん飲んで強くなるんだとさ」
「ふうん。ならわたしも今度から飲んでみようかしら」
「そういえばうちじゃ誰もお酒買ってないんだよな。俺もシュレリア様も全然だし……というかミュール」
「勿論痛むのはライナーの財布の方よ」
「わかってるよ! そっちじゃなくて、たぶんミュールじゃ売ってくれないんじゃないかな、と」
「どうして?」
「大人に見えない」
「…………シュレリアなら?」
「リンゲージ着れば大丈夫かも……って痛い痛い! 俺のせいじゃないだろ!」
「こうなったら武力交渉ね」
「お酒買うくらいでそんな物騒なことしようとするなよ……」
「今だけは、ベータ純血種の身体が恨めしいわ」



 シュレリアのグラスメルク・2

「ネモでソリッドうさこが売ってるのを見たんだけど」
「グラスメルクで作った物はちょこちょこ流通に乗せてもらってるんだよ。最近はシュレリア様にも結構やってもらってる」
「わたしが言いたいのはそういうことじゃないわよ。あんなもの店に出していいの?」
「ん? 何か問題あったっけ?」
「噂を聞いたのよ。見た目に騙されて買ったものの、実際使ってトラウマになった人間が多いって」
「あー……実用性は高いんだけどなー……」
「レシピを作成したのはシュレリアなんでしょ。何を考えてたのかしら」
「たぶんうさこのことしか考えてなかったと思う」
「でしょうね」
「いや、でも、護身用としては優秀なんだよ。戦えない人がモンスターに襲われても、相手に向かって投げれば何とかなるし」
「それならもっと相応しい見た目の物があるでしょ。わざわざトラウマ製造機を選ぶ必要はないわ」
「トラウマ製造機って……シュレリア様が聞いたら泣くぞ」
「むしろその方がすっきりするわね。あのうさこ狂いが矯正できるなら安いものじゃない」
「俺は別にあのままでもいいと思うんだけど……」
「……そういえばあなた達、ある意味似た者同士なのよね」


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  Level6



 コスモスフィア・5

「正直、かなり怖かった」
「演出の勝利ね」
「もう一人のミュールが半端ない迫力だった。本気で殺されるかと思ったし」
「わたしが止めなかったら死んでたんじゃない? だから感謝しなさい」
「殺そうとしてたのもそっちだけどな……。でも、何でミュールは二人いるんだ?」
「教えてもいいんだけど、放っといてもこれから先、ダイブしていけばわかることだと思うわよ」
「え、だって、あの世界は壊れちゃったんだろ。もうストーリーも何もないんじゃないか」
「……わたしは元々あった物に手を加えただけ。こっちの意識が及ばなくなっても、おそらく役割に変化はないわ」
「そういうもんなのか。じゃあ、あのミュールは今度こそ全力で殺しに掛かってくるんだな」
「でしょうね。まともにやり合えば勝ち目はないわよ」
「気を付けとく。……あ、そういえば、最後の方にアヤタネっぽい声が聞こえたんだよなあ」
「わたしには聞こえなかったけど……そんなところじゃないかとは思ってたわ」
「やっぱり、心の護か?」
「その辺も含めて、次で判明するでしょ。蓋を開けるまでのお楽しみにしときなさい」
「楽しくないのも山ほど出てきそうだ……」



 コスチューム・4

「チェンジ!」
「うぉっ!? 唐突に着替えるなよ!?」
「なかなか過ごしやすいのよ。薄手で緩いし、窮屈な感じがしないのは素晴らしいわ」
「そのせいでこっちは目のやり場に困るんだが」
「わたしは困らないから問題ないわね」
「……何かもうこのやりとりに疲れてきた」
「人間諦めが肝心らしいわよ。数日もすれば慣れるでしょ」
「慣れたらある意味終わりな気がする……。っていうか、ちょっとそれ紅過ぎないか?」
「そう? いい色合いじゃない」
「いや、こう、何つーか……」
「返り血で濡れたみたいね」
「人が言い淀んでたところをずばっと言うなよ!」
「どう取り繕ったところで事実は事実じゃない。はっきりした方が潔いわ」
「そういう問題じゃないんだけど、あー、もういいや。しかし、怖いくらいに似合ってるな」
「褒めても詩魔法くらいしか出ないわよ」
「それはお礼じゃなくて報復だ!」
「だって、あなたにお世辞を言われても変な気分になるだけだもの」
「……そろそろマジでヘコむぞ」



 どこから出てきた?

「今までダイブして、結構詩魔法も紡げたみたいだけど」
「それがどうしたの?」
「何か、適当なの多くないか? 回復系はまだしも……いやあれも微妙に使い回し感があるけど、例えばほら、オボンヌ超合体とか」
「威力は結構あるわよ」
「見た目がシュール過ぎるって言ってるんだよ! だいたいあんなの、どこで出てきたんだか全然わからないぞ!?」
「ああ、ライナーに覚えがないのも当然よ。本編じゃ出し損ねたネタだし」
「本編って……。つーか、そんな簡単に詩魔法ってできるもんなのか?」
「できたらダイブなんてさせるわけないでしょ」
「なら一応ここまでやった甲斐はあるんだな、って、肝心の質問には答えてもらってないような……」
「別にいいじゃない。強いんだし」
「だからって新しいの覚える度に、俺に向かって試し撃ちしないでくれ!」
「あなたなら大丈夫だって信頼してるのよ」
「今までの人生で一番要らない信頼だよ……」



 人のことは言えない

「ほたる横丁に行った時、どう考えても迷子になってたよな」
「何度も違うって言ってるじゃない。あなたが勝手にいなくなったのよ」
「いやいや、ちょっと目離した隙に姿を消したのはそっちだろ」
「わたしは普通に歩いてただけ。全く、ライナーも世話が焼けるわね」
「それはこっちの台詞だ! だいたいお前なあ、シュレリア様のこと散々馬鹿にしてたじゃないか」
「あの子が迷子体質なのは間違いないでしょ」
「そりゃあ左右で挟んで手繋いでたのにいつの間にか行方不明になるような人だし……」
「ほとんど怪奇現象よね」
「確かに……ってそれはこの際置いといて! 迷子になったのはミュールも一緒なんだからさ」
「何、あいつと同レベルだって言いたいの?」
「そこまでは言わないけど、自分の非くらい認めたらどうなんだってことだよ」
「……あなた、何気に酷い発言したわよ」
「え? ……ああっ、タンマ! 今のは聞かなかったことに!」
「ふふ、さてどうしようかしら。とりあえず前言撤回しなさい。そうしたら他言無用にしてあげるわ」
「はあ……わかった。ミュールは迷子なんかじゃありませんでした」
「それでいいのよ。……でも、まあ、手間は掛けさせたわね」
「………………」
「何で黙るのよ」
(……つくづく素直じゃないなあ)



 スピカとミュール

「そういや随分スピカと打ち解けてたみたいだけど、いったいどんなことを話してたんだ?」
「大した内容じゃないわよ。市電に乗ってた時はほとんどほたる横丁についての説明を聞いてただけだし」
「説明って、どこに何があるかとか?」
「あとは簡単な構造と区域毎の特徴、住人や観光客の交通事情……そんなところかしら」
「そんなの俺全然知らないなあ。前に動力部潜ったことは何度かあったけど、あの時はゆっくり見る余裕もなかったし」
「なかなか面白かったわよ。第二期にはああいうものなんてなかったから、色々と新鮮だったわね」
「俺も最初に見た時はびっくりした覚えがある。……で、他には?」
「スピカの夢を聞いたわ」
「あー……裏世界の女王だっけ」
「魔王みたいなものって言ってたけど」
「それについては俺もよくわからない。ただ、何かいろんな人の弱み握りまくってるらしいんだよな……」
「ふうん。情報屋を名乗るくらいだし、そういうのは得意そうよね」
「ミュールも気を付けた方がいいぞ。油断ならないっつーか、食えない人だからさ」
「……そうね。何となく、あの人間とはまた顔を合わせる気がするもの。頭の隅にでも留めておくわ」


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  Level7



 コスモスフィア・6

「あなた、コスモスフィアの中で何かとんでもないことしなかった?」
「してないしてない。ほとんど歩き回ってただけだったよ」
「それならいいんだけど……。まさか状況を把握できないことがこんなに不安だとは思わなかったわ」
「あー、そっか、もうここからはミュールもダイブ中のことがわからないのか」
「おおまかな意識の変化は感じるのよ。でも、具体的にどうしてそうなったのかまではさっぱりね」
「なるほど。……ん? ってことは、ダイブしてから変わったところとかあるんだな」
「……そうね。少しだけ、楽になった――と言えばいいのかしら」
「楽になった?」
「しがらみとか、記憶とか、そういうもの。捨てられるわけじゃないけど、今のわたしはこうして自由だもの」
「自由っつーか傍若無人な気も……」
「うるさい。……それに、何となく、あなたには全部話しておきたいと思うのよ」
「そういやミュールの過去って、おおまかには知ってるけど詳しくは聞いてないんだよな……」
「だから一晩付き合いなさい。思い出したくないことも、今日だけは、包み隠さず教えてあげる」
「……徹夜する覚悟、しておこう」



 コスチューム・5

「………………」
「………………ライナー」
「はい」
「何これ」
「いや、その、あっちでミュールが着てたというか縛られてたというか」
「正直に言いなさい。あなたが無理矢理向こうのわたしに趣味で着せたんじゃないの?」
「俺のことを何だと思ってるんだよ!? 断じて違う! 無理矢理じゃないしそんな趣味もない!」
「そう。安心したわ。もし僅かでも認めてたら、この世に一片も残すつもりはなかったから」
「コスモスフィアより現実の方が危険な気がしてきた……」
「でもそうなると、これもわたしの潜在意識が紡ぎ出したものってことになるのよね。ま、ある程度の想像はつくけど」
「しっかし、改めて見ても酷い恰好だよなあ、それ」
「前は見えないし指先ひとつも動かせないわよ。全身が窮屈で痛いし、鎖の音が耳障りだわ」
「ちょっとだけ思ったんだけど、今襲われたらまず抵抗できないんじゃないか?」
「変態鬼畜野郎ね」
「…………ごめんなさい」
「あなたの特殊な嗜好はともかく、胸の辺りに鍵がぶら下がってるでしょ。それを鍵穴に差し込んでくれる?」
「そこはちゃんと否定してほしかった……。っと、こうか?」
「ええ。……よし、やっと解放されたわ」
「ちょっ、待っ、またか!」
「またかって何よ。そんなにわたしの裸が見たかったの?」
「せめて脱ぐにしても時と場合を選んでくれって言いたいんだ!」
「ちゃんと選んでるじゃない。ライナー以外の前じゃそうそうやらないわよ」


 謎の人望

「亜耶乃って、あれで社長なのよね」
「世襲制らしいけどな。結構就いてから長いって聞いてるけど」
「社長なのに書類仕事は嫌がってるみたいだし、本社にはほとんどいないっていうし」
「デスクワークが苦手なところは物凄く共感できるんだよなあ」
「まあはっきり言って、部下の管理能力皆無じゃない? にもかかわらずやたら支持されてるのが本当に謎だわ」
「確かにいい人なんだけどなー……。妙なカリスマでも持ってるのかも」
「表裏のない人間ではあるわね。企業人として駆け引きはできるんでしょうけど、こっちに隠し事をしてこなかったもの」
「何かああいうとこのお偉いさんって、こう、とんでもなく狡賢いイメージないか?」 「随分偏った印象ね」
「プラティナで散々親父見てきてるし、ホルスの翼じゃファルス司祭がいたからさ」
「カイエル・クランシーだったかしら? レアードとシュレリアを合わせて三賢者とか呼ばれてたみたいだけど」
「頭良かったのは間違いないよな……って話ズレてるぞ」
「ズラしたのはあなたでしょ。ともかく、亜耶乃は社長らしくないって話よ」
「でも、あの人以外に適役がいるのかって言われたら、思いつかないよな」
「……案外不憫なのかもしれないわね」



 昔の話・1

「第二期とか第三期ってよくミュールが言ってるけど、確か今が第三期なんだよな。いつから変わったんだ?」
「だいたいわたしが閉じ込められてからね。区分したのは主にシュレリアなはずよ」
「なるほどなあ。ん、第二期ってことは第一期もあるのか?」
「グラスノインフェリアまでがそう。もっとも、第二期以前の歴史資料は意図的に伏せられてるわ」
「色々知られるとまずいからだっけ」
「同じことやろうとする人間が出てくるかもしれないもの。特にシュレリアは音科学を隠したかったわけだけど」
「音科学って、そんなにとんでもないものだったのか? 何かグラスメルクやってると全然実感ないんだけどさ」
「レーヴァテイルを生み出したのは音科学の技術よ。あとは雲海を越えられる飛空挺の開発技術とかね」
「今じゃできないことばっかりだな……」
「だからシュレリアが隠したんでしょ。そのせいで二回も世界を滅ぼしかけてるんだし、ろくなものじゃないわ」
「同感だけど、それをミュールが言うのもどうかと思うぞ……」



 女の子らしくない

「クルシェの部屋、男としてどう?」
「また返事に困る質問を……。いや、酷い散らかりっぷりだとは思ってたけどさ」
「足の踏み場もなかったわよね。いったいどこで寝てるのかしら」
「普通に寝る場所は別室だろ」
「わからないわよ? 部屋に戻るのも億劫だからって机に突っ伏して仮眠取ってる可能性もあるじゃない」
「ああ、まあ、クルシェならやりそうだ……」
「というか、身だしなみに気を遣ってる感じが全くしなかったわね」
「前からそうだったぞ。あんまり女の子らしくしようとしてなかったっつーか」
「それにしてもよ。わたしだって多少は気にするのよ?」
「自分を持ち出す辺り、一応女の子らしくしてない自覚はあるんだな……」
「だって必要ないもの」
「んなこと言ったらクルシェも必要ないんじゃないか? たぶんあそこ物凄い男所帯だろうし」
「そういえば、あの子以外には見なかったわね」
「ああいうのが好きなのは男って相場が決まってるからなあ。クルシェの方が珍しいんだよ」
「考えれば考えるほど女らしさが欠如してるのがわかるっていうのも、変な話よね」


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  Level8



 コスモスフィア・7

「えっと……ミュール」
「そんな言いにくそうにして、何か後ろめたいことでもあるの?」
「いや、その、ダイブしてから変わったことはなかったかな、と思って」
「特には。強いて言うなら、ダイブの直後少し落ち着かなかったくらいね」
「そ、そっか。それならいいんだ」
「……ねえ、正直に白状すればまだ罪は軽くなるわよ?」
「…………な、ななんのことだよ」
「あなた、本当に嘘吐くのが下手ね。さっさとバラしなさい。さもないと今すぐ壁の染みにするわ」
「う……じゃあ頼む、平静な心で聞いてくれ」
「御託はいいから早く」
「二人のミュールが争って、最後に世界が壊れた」
「………………」
「………………あの、ミュールさん?」
「前に言わなかったかしら。わたしのコスモスフィアを土足で踏み荒らして無茶やらかしたりしたら殺すって」
「待ってちょっと待ってあれは不可抗力だったんだって!」
「そもそも世界が壊れたってどういうことよ。何をどうしたらそうなるの? もしかして我慢できなくなってわたしを襲ったりとかした?」
「んなわけないだろ!? こっちも殺されかけたんだよ!」
「万歩譲ってあなたの言葉を信じるとして、ここからどうするのよ」
「そりゃ何とかするさ……。初めっからそのつもりだ」
「保障は?」
「な、ないけど……でも、ちゃんと責任は取る。命も懸けてくる」
「……なら今回は見逃してあげるわ。その代わり、必ず解決してきなさい」
「勿論。……けど、てっきりもうダイブするなって言われるのかと思ったよ」
「今更ね。こんな深くまで踏み込んだんだから、最後までやり遂げてもらわないと逆に困るわ」
「強い詩魔法を紡ぐためにか?」
「はぁ……。ま、そう思っておきなさい」



 コスチューム・6

「チェンジ! ……ふうん、なかなかのデザインね」
「俺としては色んな意味で直視できない外見なんだけど」
「別にじろじろねめつけるように見ても怒らないわよ? 恥ずかしい身体は――」
「その問答は不毛だからやめよう。どうせもう言っても無駄だろうし……」
「わたしは事実を口にしてるだけ。隠す方がおかしいのよ」
「そこまで開き直ってるといっそ清々しいな……」
「とはいえ、そこまで恥ずかしがることでもないでしょ。ちゃんと胸は髪で隠れてるし」
「風が吹けばアウトな防御力だよな」
「そういう時は丁度都合良く光が射し込んだりライナーが前に来て見えなくなるのが常識よ」
「どこの常識だよ!? つーかそれ俺は普通に見えちゃうだろ」
「役得じゃない」
「そんな風に考えられれば楽なんだろうけどな……」
「まあ、最近は上が見えてても下が見えなければ大丈夫って風潮みたいだし」
「俺にはミュールが何の話をしてるのかわからない……」
「両方見えてる方がいいの?」
「両方隠れてる方がいいんだよ!」



 ミシャとは気が合う?

「最初はもしかして反発するんじゃないかって思ってたけど、結構すんなり意気投合してたな」
「考えてみれば、あの子とは割と似たような境遇なのよね。お互い同情の余地はあるのよ」
「恨み言とかはないのか?」
「それはもう前に散々吐き出したから充分。今更ぐちぐち言うなんて建設的じゃないでしょ」
「ミュールってそういうとこドライだよなあ。割り切りがいいというか」
「……本当によかったら昔の話を引きずったりはしないわ」
「あー……まあ、でもほら、一緒に風呂入ったくらいなんだし、仲良いのは確かだよな。何話してたんだ?」
「ほとんどはあなたのことね」
「え?」
「子供の頃はどんな子だったのかとか、どれだけあなたが薄情で忘れっぽいのかとか」
「…………ミシャ、怒ってた?」
「これだけ馬鹿なら怒る気にもならないでしょ。さっぱりしたものだったわよ」
「ええと、ほ、他にはどんな話を?」
「胸ってあれくらいになると水に浮くのね」
「ぶふっ!?」
「わたしはもう肉体的に成長しないから持ち得ないものだけど、なかなか揉み応えが――」
「その話は止めてくれ!」



 息ぴったり

「模擬戦のことだけど」
「ミシャとジャックのコンビは強かったよなー……。危ない時が何度もあったし」
「とてもそうには見えなかったわね。まだ余裕あったんじゃない?」
「まさか。ジャックとは相性悪くなかったってだけだと思う。模擬戦じゃなきゃあっちももうちょいやりようあっただろうし」
「顔面狙いとか?」
「いや、確かに効果的だけど、怖いこと言うな……」
「まあそれはいいのよ。わたしとしては、よく働いてくれたと褒めてあげたいくらい」
「ミュールが俺を褒めるなんて珍し……前言撤回そんな珍しくないから踵を下ろしてくれ」
「全く、あなたはいちいち茶々入れずにはいられないのかしら」
「突っ込みどころの多いミュールにも原因はあると思うんだけどなあ……」
「ともあれ、あの時の連携は完璧に近かったわ」
「何だかんだで、それなりの回数一緒に巡回とかしてるしな。同じ家で暮らし始めて結構経つしさ」
「そうね。死んでも人間をパートナーにするつもりはなかったけど、ライナーなら認めてあげてもいいわよ」
「え……本当か? うわ、今俺、すっげえ感動してる」
「もっとも、あなたがこれからもわたしの犬であることには変わりないけど」
「今まで犬だったってことが初耳だよ! ああもう感動が一瞬で冷めた!」
「嫌ならもっと頑張りなさい。わたしが胸を張って誇れる、最高のパートナーになれるように」



 寝起き悪い

「昨日、ミシャのおでこが腫れてたのを見たんだけどさ。ミュールは原因知ってるか?」
「ええ。あれはたぶん、部屋の壁に五回くらい同じところをぶつけたからよ」
「……何をどうしたらそうなるんだ」
「あなたはわざわざ見に行かないから知らないんでしょうけど、あの子、とんでもなく寝起きが悪いのよ」
「そうなのか……。ずっと旅してて全然気付かなかったぞ」
「当人は必死に隠してるつもりだったんでしょ。リビングに来る時は何食わぬ顔で挨拶してるし」
「うん、だからミシャは俺と違って朝も寝坊したりしないんだろうなー、と思ってた」
「元々ベータ純血種はあんまり睡眠を必要としないもの。星詠やってた頃は不自由なかったんでしょうけど」
「俺達と一緒にいるようになってから、ってことか」
「わたしも直接見たわけじゃないわ。ただ、部屋が近いから。隣でごつんごつんしてるのが聞こえてくるのよ」
「一回で目が覚めないのもすごいな……」
「あなたに気遣いってものがあるなら、あの子の起きる時間は洗面所に近寄らない方がいいわ」
「どうしてだ?」
「誰だって、寝起きで髪ボサボサの腑抜けた顔なんて見られたくないでしょ」
「……だな。明日からは気をつける」
「そうしなさい」
「あ、寝起きと言えば、ミュールも来たばっかりの時は酷かったよな。寝惚けて冷たい湯船に頭から突っ込んだり――」
「それ以上喋ったらあなたを冷たい湯船に沈めるわよ」
「ちょっとお前いくら何でもセメント過ぎないか……?」


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  Level9



 コスモスフィア・8

「こないだのダイブのことなんだけど」
「べ、別に変なことはしてないからな?」
「ならどうしてどもるのよ。今回は疑ってないわ。安心しなさい」
「そうか……ん、じゃあいったい何なんだ?」
「ひとまず、世界は元に戻ったのよね?」
「ああ、完全に元通りってわけじゃなかったけど、ちゃんと再生はしてるはずだよ」
「ふうん。ま、それについては心配してなかったし、特に重要じゃないのよ。訊きたいことは次」
「頑張りをさらっと流されるのも傷付くんだけど……」
「約束したんだもの、あなたが尽力するのは当然でしょ。で、本題入るわよ」
「はいはい」
「単刀直入に言うわ。あっちの“わたし”はどんな感じだったの?」
「うーん、そうだな……礼儀正しくて、お淑やかで、曇りというか穢れのない感じ、かな」
「……それ、本当にわたし? 偽物だったんじゃない?」
「自分で言っちゃうのか……。いや、間違いなく本物だよ。前の階層でも会ったしさ」
「そう。……他に変なところはなかった?」
「変どころか、びっくりするほどまともな人格だったぞ。あと、ミュールと全然違うところがもうひとつあったな」
「何?」
「すっげえ綺麗に笑ってくれた」
「………………ふうん」
「……あのー、ミュールさん? 今物凄い顔になってますよ?」
「ライナー、後で詩魔法の的になりなさい」
「いきなり!? 俺何か怒らせるようなことしたか!?」
「さっきの自分の発言を振り返って、よーく考えてみなさい。……精神世界の自分に負けたみたいで腹立つわ



 コスチューム・7

「前から疑問に思ってたんだけどさ、ほら、コスチュームチェンジする時」
「チェンジ! ……で、これが何なのかしら」
「わざわざ実践しなくても……あ、いやごめんわかりやすくて助かります」
「あなた、最近卑屈な姿勢が板に付いてきたわね」
「そう思うなら少しくらい沸点上げてくれよ……。っと、まあ衣装にもよるみたいだけど、例えば髪型とか」
「髪型?」
「服以外のところも変化したりするだろ? それが不思議なんだよな」
「別に不思議じゃないわ。変身した時に髪とかがそのままだと困るでしょ。全部ひっくるめての変身よ」
「そんな世界の常識みたいに言われても……」
「相変わらず駄目な頭ね。もっと柔軟になりなさい」
「……話変えるぞ。その衣装、こないだのダイブで使えるようになったやつだよな」
「ええ。さすがに深い階層のだけあって性能はいいんだけど……白なのはどうも気に入らないのよね」
「俺は似合ってると思うぞ? ミュールの黒い髪がよく映えるし、何かちょっと新鮮だ」
「……あなたがそこまで言うのなら、しばらくはこれで過ごしてあげてもいいわよ」
「ん、でも嫌なら無理に着てなくてもいいって」
「そこまで嫌じゃないから大丈夫。確かに色はシュレリアっぽくて気に食わないけど、薄くて軽いし」
「今酷い理由を聞いた気が……」
「それに、こうやって帯を解けば――」
「ぶっ!? し、下! 下着は!?」
「わたしがそんな野暮ったいもの着けるわけないじゃない」
「ああもう、どうしてお前は事ある毎に裸になりたがるんだよ!」
「だってその方が楽だもの。ライナーも一度裸になればわかるわよ」
「絶対わかりたくない……」



 オリカのネーミングセンス

「ライナー、オリカのあの呼び方はどうにかならないの?」
「あの呼び方って、ミウちゃ」
「それ以上口にしたら鉄鎖呪縛で逆さにして吊すわよ」
「……そう言われてもなあ。元々オリカってセンスが奇抜というか、かなり直感で名前付けたりするところがあるんだよ」
「例えば?」
「インバートフックって、レーヴァテイルの詠唱速度を上げるアイテムがあるんだけどさ」
「ああ、あの一目見ただけじゃ使い方がさっぱりわからないような機械ね」
「オリカは“舌切りフック”って名前を付けてた」
「……飾らないにも程があるわね」
「他にも研磨剤を“白い粉”って言ったり、エオリアの翼って最高級の鎧を“歌謡ショーの鎧”って言ったり」
「それはもう間違いなくセンスがないんじゃないの?」
「極めつけはアレだな。毒に耐性が付くグリンリング」
「元の名前からして安易ね。あまり改変のしようがなさそうだけど――」
「デァロォンリング」
「…………ライナー、もう一度言ってみて」
「だから、デァロォンリング」
「…………確かに、あの子は凄まじいセンスの持ち主ね」



 昔の話・2

「ミュールって、何百年もクレセントクロニクルに閉じ込められてたんだよな」
「星詠が謳ってる時はね。世代交代の際は少しだけ動けたりもしたけど、ほとんど自由はなかったわ」
「じゃあさ、その間はずっと寝てるようなもんだったのか?」
「寝てる……っていうのとはちょっと違うかしら。身動きが取れなかっただけで、考えたり何なりはできたのよ」
「え、でもそれってずっと寝てるより辛くないか……? どこにも行けなかったんだろ?」
「実はそうでもなかったのよね。代々の星詠が謳ってたのは一日のうち半分程度。バインドの効果はそれでも緩まなかったけど――」
「けど?」
「塔のデータ領域にアクセスできるくらいには綻びがあったわ。暇な時はそこから色々持ち出してきてたから」
「随分気楽だったんだな……」
「勿論息苦しさみたいなものはあったけど、暇が潰せたのは大きかったわね。資料を読んだり仮想世界で遊んでみたり」
「だからあんな風に知識を持ってるのか。……しかし、ミシャやタスティエーラが今の話聞いたらどう思うかなあ」
「別に暴れてないんだからいいじゃない。多少の自由は見逃してほしいものだわ」



 男子禁制

「オリカのとこに泊まった時のことだけどさ」
「何、混ざりたかったの?」
「違う。仮に俺が入ろうとしても、全力で阻止するだろ」
「まあそうね。壁の染みにならなくてよかったじゃない」
「本当にな……。ってそうじゃなくて、向こうでどんなことをしてたんだ?」
「それを話すと思う?」
「だよなあ。いや、俺だけ早々に一人違う部屋に押し込められたし、何か物凄い蚊帳の外だったから、ちょっと気になったんだよ」
「だったら盗み聞きとかでもすればよかったじゃない」
「さすがにそこまでやるのはまずいだろ。んなことするくらいなら大人しく寝てるって」
「あなた、普段は考えなしなのに妙なところで理性的よね。そのままだといつか損な人生送ることになるわよ」
「現在進行形で送ってる気がしないでもないけどな……」
「ま、それはともかく、大したことはしてないわ。三人でお風呂に入ったり、同じベッドで他愛ない話をして寝たり」
「……少し見ない間に、異様に仲良くなってないか?」
「積もる話があったのよ。ライナーには聞かせられない類の、ね」



 コスチューム・8

「ライナー、わたしに言うべきことはない?」
「え? 何のことだ?」
「……チェンジ!」
「んー……ああ! 喪ふくぼぉっ!?」
「いい加減デリカシーというものを学びなさい。腹に穴開けるわよ?」
「ゆ、油断してた分予想外の衝撃が……。ぐ、でも、どうして白じゃなかったんだ?」
「さあ。浅い階層ならともかく、深部にもなると、顕在意識は基本的に及ばないもの」
「自分でもわからないんだな……」
「そもそも教会には白いウェディングドレス、っていう固定観念がいけないのよ。黒が駄目な理由なんてないわ」
「えっと、その辺は縁起の問題じゃないのかなと」
「ふん。わたしが黒いドレスを着たところで、誰かを不幸にするわけでもないじゃない」
「……もしかしてミュール、白を着たかったのか?」
「………………悪い?」
「いや、悪くはないって。黒も似合ってたけど、ミュールなら白いドレスも着こなせると思うぞ」
「そう。なら、いつかあなたに見せる時が来るかもしれないわね」



 ミュールの五分クッキング

「シュレリアにできてわたしにできないなんて、納得いかないわ」
「唐突にどうしたんだよ」
「料理のことよ。三歩進めば迷子になる、謳いながら転ぶようなあのドジ娘が、どうしてまともなご飯を作れるのかしら」
「ドジ娘って……シュレリア様は前にどっかで練習してきたらしいしな。ちゃんと努力した結果だろ」
「それは知ってるわ。知ってるけど、何か釈然としないのよ」
「じゃあ、ミュールもちょっと頑張ってみればいいんじゃないか?」
「そうね……こないだ、アヤタネに教わって簡単なものを作ってみたんだけど」
「え、いつの間に? 俺を呼んでくれれば味見くらいしたのに」
「丁度あなたは出かけてたのよ。今度はしっかり実験台になってもらうわ」
「……ちなみにどんなのを?」
「ホットパン。あの時は何故かフライパンの上で爆発したけど」
「アヤタネが台所を片付けてたのはそれのせいか……」
「次こそ成功させるわよ」
「うん、まあ、楽しみにしてる」



 犬猿の仲・2

「最近シュレリア様とあんまり喧嘩してないよな」
「わたしが意味もなく争うような子に見える?」
「ノーコメントで。……でも、塔を探索した時も息ぴったりだったしさ」
「あそこでいがみ合ってもしょうがないでしょ。協力した方が効率いいんならそうするわよ」
「まあ確かにそうだよなあ。正直いつ爆発するかって思ってたけど、無用な心配でよかった」
「……一応言っておくわ、勘違いはしないで。今でもあいつのことは嫌いだから」
「頑固っつーか何つーか……どうしてそんな仲悪いんだよ」
「理由なんて挙げれば山ほどあるわね」
「例えば?」
「あの媚びた感じが気に入らない」
「媚びた感じって……。別にそうは見えないけど」
「あらゆる面があざといのよ。属性持ち過ぎ。小説だったら他の登場人物を思いっきり食うタイプね」
「それを言ったらミュールも大概じゃないかと……」
「何か言った?」
「いやいやいやいや」
「ともあれ、わたしはシュレリアが嫌いだってことがこれでわかったでしょ」
(……けど、何だかんだで会話とかはよくするんだよなあ。喧嘩するほど仲が良い、ってやつか)



 最近入り浸りなこと

「そういやこの頃、ほとんど毎日ミュールの部屋に来てる気がする」
「気がするじゃなくて事実よ。あなたと話さない夜の方が少ないわね」
「……今更だけど、迷惑だったりするか?」
「だったらそもそも部屋に入れないわ。会っても無視するか蹴り飛ばすかね」
「なるほど……それにしても、結構話題って尽きないもんだな。結構ミュールも話振ってくれるし」
「考え事を整理する時は、他人に話してみると意外にまとまったりするのよ」
「あんまり難しいこと言われても付いていけないんだけど……」
「でしょうね。わたしもライナーが理解できるとは思ってないもの」
「………………えー」
「でも、ちゃんとあなたは理解しようとしてくれるじゃない。そういうところは嫌いじゃないわ」
「わかんないままってのも何だしな」
「それにこの部屋、一人でいると寒いのよ」
「え、そんな言うほど寒いか? 風通し良過ぎるわけでもないんじゃ――」
「……察しなさい」
「察し? …………ああ、もしかして」
「気付くのが遅い。罰としてあと一時間付き合うこと」



 どっちがいい?

「小さい方と大きい方、どっちがいい?」
「いきなりそんな質問されても……つーか何に対してなんだよ」
「いいから答えなさい」
「えー……物によるだろうけど、どっちもいいとこ悪いとこあるんじゃないか」
「煮え切らないわね。じゃあ、積極的なのと控えめなのは?」
「またよくわからない質問だな。それも場合によるけど、基本は積極的な方が色々得すると思うぞ」
「ふうん。黒と白ならどっちの色が好き?」
「前は白だったけど、最近黒もいいなと思うようになったな」
「全裸と半裸なら?」
「は?」
「だから、全裸と半裸」
「……そうだな、ま、まだ半裸の方が安全だし」
「本当に? 本当に心からそう思ってる?」
「………………正直全裸も捨て難いです」
「素直ね。あなたも男だということかしら」
「何の罰ゲームだよこれ……」
「要約すると、ライナーは小さくて積極的、全裸の黒い女の子が好きなのよね」
「いやちょっと待て、全体的におかしい」
「別におかしいところなんてないじゃない」
「明らかに曲解してる部分があるだろ! それに最後の女の子ってどう見ても後付けだよな!?」
「いちいち細かいわね。好きか嫌いかはっきりしなさい」
「ああもうわかった、好き、好きだから!」
「そう。わたしも嫌いじゃないわよ」
「人に言わせといて、自分は“嫌いじゃない”なんだな……」
「わたしはいいのよ。あなたならちゃんとわかってくれるでしょうしね」





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