放課後、それは生徒達が勉強から解放され活動を始める時間。 多くの生徒達が部活動などに精を出す中、 まっすぐ帰宅する一人の生徒の姿があった。 麻帆良学園中等部2-Aの近衛木乃香。 この日は部活動もないため、一人で寮に帰ろうとしていた。 寄り道することもなく駅に向かって歩いていると、 一人の女の子がベンチに座って泣いている姿が目に入った。 泣いている子を放っておけない木乃香は女の子の元へ。 「お譲ちゃん。こんな所で泣いてどないしたんー?」 女の子の頭をそっと撫でながら話しかけた。 俯いて泣いていた女の子は木乃香の顔を見ると小さい声で、 「お母さんと……はぐれちゃったの」 と言い再び泣き出した。 「迷子かぁ。ほな、お姉ちゃんが一緒にお母さん探してあげよか?」 木乃香の一言で俯いていた顔を上げ、 「ほ、ほんと?」 「任せときー。その前にお名前とお歳教えてな?」 「ほ、ほのか。ろ、ろくさぃ」 「ほのかちゃんって言うんやね。お姉ちゃんの名前はこのかって言うんや」 「このかおねーちゃん?」 「そや、名前が似てるから覚えやすいなー」 「うん!」 「ほな、ほのかちゃんのお母さんを探しにいこかー」 泣き止んだ女の子の手を取り歩き出した。 「ほのかちゃんは電車に乗ってきたん?」 「うん、そうだよ」 「ほな、学校の方に行ってみよかー」 放課後は人通りも多いため二人で歩いているだけでも母親が見つかる可能性もある。 その反面、麻帆良学園が広すぎるため遭遇する確率も低い。 詳しい話が聞ければ場所も絞り込めるのだが、 六歳の子から聞ける情報は少なく、 電車には一度しか乗っていない、駅前のベンチの近くではぐれた程度。 二人は駅の近くや学校の校門の所まで戻って見たものの、 女の子の母親らしき人が見つかることも無かった。 一旦、駅前のベンチに戻ることに。 「次はどこに行こかー」 「お母さん…ほのかのこと嫌いになっちゃったのかな…」 「どうしてそう思ん?」 「だって、待ってても迎えに来てくれないもん」 「そないなことないよ、お母さんもほのかちゃんのこと探してるはずや」 「そうかなぁ…」 「大丈夫や、お姉ちゃんが絶対探してあげるからなー」 「…うん」 木乃香が女の子と出会ってから一時間近い時間が経っていた。 幼い六歳の女の子からすれば不安でしょうがないのだろう。 徐々に元気を取り戻していた女の子も、また俯いてしまっている。 元気のない女の子を見て木乃香も困っていた。 「困ったなぁー」 するとそこに見覚えのある人物が姿を現した。 「あれ、ザジさん?」 その人物はクラスの中でも、人と会話している所を殆ど見たことのない、 ザジ・レニーデイだった。 もちろん、木乃香本人も会話らしい会話をしたことがない。 木乃香の隣で俯いている女の子を見たザジさんは木乃香にどうしたのかを尋ねた。 「実は、この子が迷子なんよー。一緒にお母さんを探してるんやけどー」 全てを言い終える前に頷いているザジさん。 元気ない様子を見ればまだ見つかってないことは見て明らか。 「そや!」 ぽんっ、と手を叩くと立ち上がる木乃香。 「ウチ、飲み物買って来るわ。ザジさん、ちょっとこの子見ててもらってええかな?」 「はい」 と小さな声で答えるザジさん。 「ほな、ちょっと行ってくるわー。待っててなー」 走り出した木乃香はあっという間に見えなくなった。 女の子の隣に座るザジさん。 俯いている女の子をじっと見つめる。 すると、女の子の肩をそっと叩いた。 「え、なーに?」 俯いていた女の子がザジさんの方を向くと、 「あ、お花だ!」 先程は何も持っていなかった筈のザジさんの手には一輪の赤い花が。 「あれー? さっきは何も持ってなかったのにー」 その花を女の子に渡す。 「え? お花くれるの? ありがとうー」 泣きそうな顔をしていた女の子の顔はあっという間に笑顔に、 女の子の表情を見たザジさんは、女の子に両手を出してと言った。 「こ、こうかなー?」 そして、ポケットからハンカチを出すと女の子の両手の上にハンカチを載せて三つ数えた。 ハンカチを取ると女の子の手にひらには、 「わぁ〜、凄いーハトだー!! どこから来たのかなー?」 ザジさんのマジックを見た女の子はすっきり元気を取り戻していた。 丁度その時、 「おーい、二人ともー!」 声の方向に振り向くと木乃香が帰ってきた。 しかし、木乃香の隣にはもう一人女性が立っていた。 その姿を見るなりベンチから降りて走り出す女の子。 「お母さーん!」 そしてお母さんと呼んだ女性に抱きついた。 「良かったなぁ、ほのかちゃん」 「ありがとうー、このかお姉ちゃん!」 「穂乃華の面倒を見ていただいて、本当にありがとうございました」 と木乃香とザジさんにお辞儀するほのかちゃんの母親。 話を聞くと、ほのかちゃんは来月から麻帆良学園に転校する予定で、 今日は手続きと下見に来たのだが途中ではぐれてしまったらしい。 木乃香が飲み物を買いに行く途中にほのかの母親に声をかけられ見つけることが出来た。 「それではこれで失礼します。本当にありがとうございました」 「このかお姉ちゃん、ザジお姉ちゃん、ありがとうー!」 「もう、はぐれたらあかんよー」 「……」 今度はしっかりと手を握り歩き出した二人を手を振って見送る二人。 笑顔のほのかちゃんの手には一輪の花が握られていた。 |