ひとつ、物語をしよう。
ぼくはある日、捨てられてたのを拾われた。
波打ち際に、一人転がっていたのを、君は拾ってくれたね。
でもね、ぼくは気づいていたよ。君はかつてぼくだった。
君はぼくを使って、いつもあの子を喜ばせてたね。
ぼくを触らず操って、あの子が笑うのを見て笑ってた。
でもね、ぼくはわかっていたよ。君の密かな悲しみを。
ぼくはいつでもあの子を見てた。多分君以上にね。
彼女はいつかぼくだった君の、一番大事な女の子。
でもね、ぼくは知っていたよ。彼女は『彼女』だったってことも。
君はいつか夢をみたんだ。飛び方を知らない鳥の夢を。
空の、遠くの、そのまた遠くを、いつも見つめてただ願った。
でもね、ぼくは覚えているよ。君はそこへ辿り着いた。
ぼくもいつか夢をみたんだ。それは空にはばたく少女の夢。
ずっと昔のそのまた昔。彼女は空で記憶を巡る。
でもね、やっぱり覚えているよ。彼女はそこで泣いていたんだ。
君は昔旅をしてたね。空の少女を救うために。
見つけて、願って、はばたいて。君は彼女を救えたんだ。
でもね、君は気づいているかい?まだまだ終わってないってことを。
ぼくは彼女を救うため、ずっと前から生きてきた。
ぼくはたくさんの命の塊。千年前の願いの形。
でもね、君はわかってないんだ。彼女は今でも泣いている。
あの子はいつも彼女の夢を。彼女はいつも『彼女』の記憶を。
巡り廻るは儚き願い。翼に託して空へと消える。
だから、ぼくらはここにいる。
これでぼくの話は終わりさ。
「これからどうすればいいの?」
わかってるんだろう?君は、ぼくなんだから。
「……あの子は僕を忘れない?」
いいや、きっと忘れてしまうだろうさ。でも、それもわかってる。だろう?
「うん。きっとわかってた。あの子は僕を忘れる。でもいいんだ」
そうだね。きっとそれでいい。だって。
「あの子は僕を忘れても、彼女は―――観鈴は、きっと『俺』を覚えているから。だろう、相棒」
そう、その通りさ。さぁ、帰ろう。
「俺達の、在るべき所に。アイツのそばに」
そして彼は彼女と再会う。
幸せな記憶を、空の彼方へ託しながら。
空の彼女は自由な羽で、大気の下の『彼』へと帰る。
夏は、まだ始まったばかりだ。
さあ、物語を始めよう。
―――最後には、どうか幸せな記憶を―――