Border of Life


博麗神社の巫女を前にして、彼女は微塵の動揺も見せなかった。
微笑さえ含むその表情に読み取れる感情は見当たらない。
その姿に対して抱くのは、底知れない何か。
……未知への畏怖とも言える感覚。

三分にも満たない会話の後、戦闘は始まった。
即座に霊夢は無数の針を投擲する。
正面の彼女に向かうその全ては弾幕の隙間を抜け、届く。が、

「……効いてない!?」

不敵な笑みは崩れることなく保たれている。
そして、洪水の如き数の弾が襲ってきた。

数発が肩を掠める。
霊夢の撒いた防御用の符は悉く貫かれていく。
少しでも気を抜けば、あっという間に落とされてしまうほどの厳しさ。
既に巫女服が何箇所も切り裂かれ、ずたずたになってきている。

「ああもう、帰ったらすぐ縫わないと……っ!」

愚痴を呟く余裕すらもうほとんど残っていない。
どこにも逃げ場はないのだ。張り巡らされた弾幕の網の中、霊夢の体力と精神力は確実に減っていく。

それでも、手を休めることは許されない。
僅かたりとも動きを止めれば、待っているのは敗北だ。
霊夢としては、避けたい結末。このままおめおめと負け帰るなんて、博麗の巫女の名が廃る。

延々と、激しい舞踏にも似て。
少女の応酬は続く。
どれだけの時間を掛けても衰えぬその激しさ。
あまりにも壮絶で……あまりにも、綺麗だった。

その中で、彼女は圧倒的な存在感を示す。
悠然と構える姿に、不安や憔悴といった類の影はない。
変わらぬ微笑のまま、弾幕の中心から響く声は謳う。ただ淡々と。

「境界はどこにでもありますわ。世界の全ては分けられている。境を持つ。何もかもは区切られる」

ならば、境界とは世界そのもの。
愛すべき幻想郷でさえ、彼女の力の前では俎上の魚でしかない。

「博麗神社のおめでたい人。あなたの――――

そして、

―――― 生と死の境界も、私の掌の上」

……我々(プレイヤー)の命も。


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あとがきかもしれないなにか

ものすっごく既出かつ使い古したタイプの形式でしょうが可能なら気にしないでください。
初めて紫さんと正対した時のあの絶望感というか何というか、そんな気持ちは今でも残ってます。
実際は式を覚えればどうにかなるわけですが。そこが彼女の優しさなんでしょうか。
……いや、単純にだるいから手を抜いているのかも。なんかそっちの方が"らしい"なぁ、と思えるところもまた素敵。
これを読んで、初対面時の感動とかを思い出せたのなら幸いです。