夏と羊羹


幻想郷の夏はほどほどに暑い。
少なくとも四季を感じさせる程度ではあり、陽射しは強く、蚊が飛び交う。
どちらも鬱陶しいものではあるのだが、耐えられないわけでもない。
精々、ああ、夏が来たな、と思うだけである。

博麗神社は割と風通しが良い。
縁側に座っていれば、陽射しの具合にもよるが気持ちのいい風が来る。
だからだろうか、暇な人間や妖怪や幽霊その他が頻繁にやってくるのだ。
……いや、それは夏も秋も冬も春も変わりない話なのだが。
とにかく、博麗の巫女は暇を持て余さない。
毎日必ずと言っていいほど誰かの相手をすることになるのだから。

「ひまひまひまひまー。ねぇー、宴会はしないのー?」

今日は萃香が来ていた。
霊夢はそこの鬼が昨日も同じことを口走っていたのを覚えているので、適度に無視した。
案の定、しばらく繰り返した後だんまりになる。

そういえば、どこぞの人形遣いの妖怪は暑さなんて気にならないと言っていた。
指摘されなければ気づかない程度なのだと。

……ちょっと羨ましいわ。

うちわでいくらぱたぱた扇いでも、大して涼しくもならない。
いい加減腕が疲れてきたので扇ぐ手を止める。

「こうも暑いといろいろとやる気がなくなるわね……」
「具体的には何が?」
「掃除とか」

というかそれしかない。

「ねぇ、あんたやってくれない?」
「報酬はー? お酒だと凄く嬉しいんだけど」
「あんたの瓢箪があるじゃない」
「これって同じお酒しか出ないのよね。たくさん飲むとちょっと飽きるの」
「うーん……羊羹くらいしか出せないんだけどなぁ」
「あと一声っ」
「じゃあ、物置から適当に見繕ってなんかあげるわ」

霊夢の提案に対する了解の返事代わりに、三秒で境内のゴミが集まる。
ついでに物置にあるはずのものもずらりと並んでいて、萃香はすぐに物色にかかった。

「……終わったら片づけといてね」
「うん、わかったー」

とりあえず、仕舞ってある羊羹を引っ張り出しに霊夢は縁側を立った。
今度、神酒も探しておこうかと思いながら。