001

 長らく続けてきたけれど、ひとまずこの僕、阿良々木暦について語ることで、一旦話を終わりにしようと思う。
 そのためにも、最初に断言しておこう。
 これは、僕の『恥』の話だ。
 できることなら口にしたくない、どころか思い返したくもない、例えどんな言い訳をしたとしても拭い去り難い記憶の話。
 ここまで度々醜態を晒してきた僕だけど、恥ずかしいところも散々見せてきた僕だけど、まだあのことに関しては、笑って語れそうにない。苦虫を噛み潰したような顔で、それこそ苦々しく言葉をこぼすだけになる。
 もっとも、言うほど大袈裟な話でもない。むしろ小さ過ぎて呆れられてしまう程度の規模だろう。こんなどうでもいいことで何を勿体ぶっているんだ、なんて指摘されれば、その通りですと頷く他ない。
 しかし、それでも。
 僕は語らずにはいられない。
 主張せずにはいられないのだ。
 春休みのあの日、一人の吸血鬼に出会ってから今まで――多くを失い、そして同じくらい、あるいは同じ以上に多くを得た僕だからこそ、声を大にして言えることもある。
 どれほど馬鹿馬鹿しく無駄に見えようとも、退屈で波のない日常であろうとも、それは間違いなく、かけがえのないものなのだと。
 そう思えるのは、成長した証なのかもしれない。
 子供から大人へ――いや、大人というには未熟に過ぎるだろうけど、一歩二歩近付いたと考えれば、決して悪い傾向ではないはずだ。
 だから、これは。
 僕の『恥』の話であると共に、僕自身が大人になるための、一種の通過儀礼でもある。
 いつも通り拙い語り口になるが、聞いてほしい。
 他の誰でもない、僕の物語を。


   002

 今、僕の眼前には一冊のエロ本が存在している。
 ……その、何というか、散々もっともらしい前置きをした挙げ句の第一声がこれだという時点で、ほとんどの読者は静かに本を閉じたんじゃないかと思うのだけど。
 先にちょっと弁解をさせてもらいたい。
 夏休みの最終日、宿題と八九寺をめぐる短くも長い時間旅行――あちらの忍野の言を借りるなら世界間旅行――の最中、諸々の理由で一度、忍に中学生程度の大きさまで成長してもらったことがあった。
 男子高校生と幼女の組み合わせよりはマシだろう、という思いからだったが、全盛期の姿とはいかないまでも、中学生サイズの忍が浮き世離れした綺麗さなことも考慮してのアイデアだ。実際、幼女でない忍の美人ぶりたるや、世界三大美人の四人目枠を捏造してもいいくらいである。
 その時の忍が身に着けていたのが、かつて僕が、今は千石が通う中学の制服なのだが――これがいけなかった。
 どうにも、あの格好が頭から離れないのだ。
 制服姿の忍に、不覚にも欲情してしまった、と言ってもいい。
 我ながら生々し過ぎると思うが、ついでに遅過ぎるとも思うが、事は切実だった。何せ忍は僕の半身、文字通り寝ても覚めても繋がっている存在だ。向こうがその気になれば、僕の行動は筒抜けに等しい。
 全年齢誌にあるまじきレベルで性に寛容だし。
 神原とはまた違う意味で自由にさせられない。
 そういうわけで、いよいよ進退窮まった結果がこの現状である。
 時刻は朝方。
 忍は影の中でおねむだ。
 普段なら夜にこっそり外出して買いに行くのだが、忍が活発な時間帯ではどうしたって勘付かれる。なので仕方なく、開店直後の本屋に突入した。
 数寄者を見るような店員の目も、今回ばかりは気にしていられなかった。
 学生のセーラー服物。
 何故制服物ではなくセーラー服物かというと、まあそれしか見つからなかったからなのだが――少々心惹かれるところがあったのも否定できない。
 だって、今時セーラー服を採用してる学校なんてないじゃん。
 元々は水夫の衣装なのだから、当然と言えば当然なんだけど、いかがわしい印象しか持てないのは、僕が汚れきってるからなんだろうか……。
 と、個人的な嗜好の話はさておき。

「買ってきたはいいけど、どうしたもんかな、これ……」
「読んで使えばよかろう」

 心臓が止まるかと思った。
 一瞬マジでストップした気もする。
 僕の背後、窓から射し込む光の届かない位置に音もなく現れた、小さな人影。
 寝ているはずの忍だった。
 つーか何で起きてるんだよ。
 朝っぱらから駆けずり回ったのが馬鹿みたいじゃん。

「そもそも艶本を買おうという発想が馬鹿みたいだと儂は思うんじゃがな。お前様、そんなことせずともよりどりみどりじゃろ」
「よりどりみどりって……つーか何、今までのモノローグ、もしかしなくても全部漏れてたのか?」
「漏れてはおらんが、丸分かりじゃの。感情の共有も含めて推察すれば、大体のイメージはつく。もうひとつ言えば、艶本購入に至るまでの一部始終はしっかり見ておったぞ」
「いっそ僕を殺せぇ!」

 最悪だ!
 いやまあ確かに僕も迂闊だったけど!

「どうしても、というなら儂としても吝かではないが、そうすると話が終わってしまうしのう」
「一緒に僕の人生も終わるけどな……」

 どちらの意味でも。
 十八禁に突入するような展開は有り得ないのだ。
 というかあっちゃいけない。
 多方面から差し止められる。

「しかしあるじ様よ、同じ制服ならばあの前髪娘がおるじゃろうに。頼めば色好い返事がもらえるかもしれんぞ?」
「もらえるもらえない以前に頼まねえよ。あんだけ恥ずかしがり屋の千石が頷くなんて、それこそ有り得ないだろうけどさ」
「お前様がそう思うならそうなんじゃろうな。お前様の中では」

 いちいち意味深なことを言うやつだな。
 元からそういうところあったけど。

「これは素朴な疑問なんじゃが」
「ん?」
「セーラー服とやらの一体何がよいのじゃ? 特別凝った意匠というわけでもなし、制服にしても、もっと可愛らしいものは他にあるじゃろう」
「あー、どう言ったもんかな。その通りではあるし、僕もそこまで好きってこともないんだけど」

 とんとん、と。
 表紙の女性を人差し指で叩く。

「普通に生きてれば目にするようなことがないからこそ、気になるっつーか憧れるっつーか。吸血鬼と同じで、非日常に属するものだと思うんだよな」
「艶本の題材と吸血鬼を同列に語るでない」
「いやいや忍、最近は吸血鬼も一種の萌えステータスらしいぞ。一応お前だってその枠組みに入るだろ」
「そう俗な表現をされると否定したくなるが……儂が類稀な萌える女子おなごであることは事実じゃな」

 類稀なのは疑いようがないけれど、お前は萌えるっていうよりほとんど痴女だろう。
 アニメでもパンツの代わりに絆創膏だったしな。
 今はどうなんだろうか。

「お前様の言い分も理解できた。が、根本的な問題として、セーラー服そのものとセーラー服を着た女子、どちらが目当てなんじゃ?」
「その二択なら後者だろ。未着用のセーラー服なんてただの布じゃん。何の価値もないぜ」
「最近のお前様は、色々なところで躊躇いがなくなってきておるのう……」
「躊躇う余裕があるくらいなら、僕は前を見ると決めたんだ」
「キメ顔で言っても、ここで最低な会話をしていることに変わりはないぞ」

 格好良さげな台詞を口にしても無駄じゃ、と半目で睨まれた。
 まあ、碌でもないやりとりだという自覚はある。
 表情を戻し、正座の姿勢を取る。それに追従して忍も僕の正面に腰を下ろした。
 エロ本を挟んで向かい合い談義する男子高校生と金髪幼女。
 この上なく犯罪的な構図だ。
 誰に対しても誤解しか招かない。

「で、結局お前様はこの艶本をどうする気なんじゃ?」
「別にどうもしないよ。今すぐ処分してもいいくらいだ」
「儂がいるから遠慮しているというのであれば、別に気にする必要はない。何なら手伝っても構わんしの」
「遠慮してねえし気にするに決まってんだろ」

 有り得ないっつっただろうが。
 会話をループさせんな。

「それよりほら、もういい時間なんだし、お前も起きてるの限界じゃないのか? 夜型(笑)だってこないだ言ってたよな」
「言葉の端にそこはかとなく悪意を感じるが……いい加減眠いのも確かじゃな」
「だからもう、後のことは僕に任せろ。お前に心配はさせないから」
「心配はしとらんが、不安はあるのう。儂の出番これで終わりじゃし」
「さらっと出番とか言ってんじゃねえよ……。とにかく、僕はちょっと外出る予定もあるし、大人しく引っ込んでろって」
「わかったわかった。ここはお前様の行為に甘えて、そうさせてもらうかの」
「その字はニュアンスが違うだろ」
「おお、間違えた。好意じゃ好意。ではな、我があるじ様よ」

 立ち上がった忍は目元を手の甲で軽く擦りながら、僕の背後に回り込んだ。
 影に潜む際にも、音はない。初めから何もなかったかのように、誰もいなかったかのように、小さな姿は部屋から消える。
 自分一人になったことを確認してから、僕は静かに溜め息を落とした。
 さすがにこんな精神状態では、勉強する気にもなれない。正座中の足を崩し、とりあえず買ってきたエロ本を人目に付かない場所へ仕舞おうと手に取って、

「お兄ちゃん、開けるよー」

 判断は一瞬だった。
 手首のスナップを利かせ、ベッドの下に本を滑らせるようにして投擲し、同時に身を翻して椅子に着席、机と向き合い背筋を伸ばす。
 直後、月火がドアを開けて踏み入ってきた。

「あれ、もしかしなくても勉強中だった?」
「見ての通りだよ。さっきまでサボってたわけでも、いかがわしいことをしてたわけでもない」
「何か微妙に汗掻いてるのが気になるけど、まあいいや。そろそろお昼ご飯の時間だから、そのお知らせ」

 なんて言いながら、ごくごく自然な足取りでベッドに近付き、ばたんと倒れて横になる。
 最早ここは自分の部屋だと主張せんばかりの寛ぎようだが、いつものことなので今更文句を口にするつもりもない。
 成り行きで出した参考書に目を通し、解答に悩む素振りを見せてから、改めて月火の方に向き直った。
 ベッドを斜めに占拠した月火が、頬杖をついて僕をじっと凝視している。

「んー……何か変な感じ」
「何がだ?」
「最近お兄ちゃんが頑張ってるのは知ってたけどさ、そういう姿、今まであんまり見たことなかったなって」
「お前らに部屋入られると、うるさくて勉強どころじゃなくなるしな」
「うるさくて悪うございましたー。でも、どっちかと言えば私は静かな方だと思うんだよ」

 静かっつーか、テンションの問題。
 それに、火憐と比べればほとんど誰だって静かな方になるだろう。
 あいつは名実共に燃える女なのだ。
 萌えるかどうかは微妙だが。

「これでも学校では大人し系女子で通ってるし」
「嘘つけ。人の枕にバール突き立てるような奴が大人し系であってたまるか」
「脳ある鷹は爪を隠すの」
「絶対爪以外も隠してるだろ」
「下着とか」
「それは隠して当然の物だ」

 ちなみに今回も、浴衣の裾は盛大にめくれている。さらに帯紐が解ける一歩手前まで緩んで、だるんだるんになった襟からブラジャーが直接覗いていた。
 上下お揃いのピンク。
 恥じらいは一切感じられない。

「ヤンデレがいまいちだったから、今度はお色気路線で行くってのはどうかな」
「お前みたいに貧相な体型でお色気キャラって、無茶というより無謀だぞ。せめて羽川くらいになってから出直してこい」
「あれは女の私から見ても反則だと思う。一回触らせてもらったけど、うん、すごかった」
「え、何、お前羽川のおっぱい揉む機会なんてあったの!? マジかよいつの話だ全部聞かせろ!」
「落ち着け。あと顔近い肩痛い」

 反射的に迫ってしまった。
 肩を掴んだ手を乱雑に払われる。

「とはいっても、そんな特別なことはしてないよ? ガールズトーク中に下着の話が出て、流れでお互いに」
「お互いにってことは、つまり今、もし月火ちゃんのおっぱいを僕が揉めば、羽川と間接揉みになるわけだな」
「その仮定は有り得ない。というか発想が人間としてあっちゃいけない」

 最近もう軟派って次元にいないよね、と物凄いジト目で言われた。
 素晴らしい閃きだと思ったんだけどな。

「万が一、億が一に私の胸をお兄ちゃんが触ったとして、羽川さんより後に火憐ちゃんと揉み合いっこしたから、羽川さんじゃなくて火憐ちゃんと間接揉みになるんじゃない?」
「むぅ、それは駄目だな。いつでも揉めるような胸じゃ意味がない」
「……そんな高頻度で揉んでるの?」
「むしろあいつから頼んできてるぞ。おっぱい大きくしたいから手伝ってくれって、一日一回」
「私だけならともかく、お兄ちゃんにも頼んでるなんて……火憐ちゃんの行く末が心配だよ……」

 それに関しては同意だけど、私だけならともかくって。
 我が妹達ながら、過剰なほどの仲の良さには頭が下がる。
 未だにしょっちゅうお風呂一緒に入ってるし。
 いつか行き着くところまで行ってしまうのではないかと、兄としては一抹の懸念を抱くばかりである。

「なんかお兄ちゃんにだけは言われたくないことを言われたような気がする」
「幻聴だろ。それより胸の話を続けよう」
「どんだけ胸に積極的なのよ。大体いくら妹だからって、私も女の子なんだからね。その辺わかってる?」
「妹だから女子にはカウントしないんだよ。お前が僕の下着姿を見たところで、喜んだりはしないだろ」
「それはそうだけど」
「勿論僕もお前に下着を見られたところで気にしない。ほら、お前だって僕に胸を触られたところで何とも思わないわけだしさ」
「さり気なく自分の行為を正当化しようとしないで」

 ちっ、騙されてはくれなかったか。
 周到に誘導したつもりだったんだが。

「そういや、以前神原が下級生にとんでもない噂を流そうとしたことがあったな」
「へえ、どんな噂?」
「三年の阿良々木先輩に胸を揉まれると大きくなる」
「……本当に誰か来たの?」
「まさか。来たとしても、紳士的な僕は丁重にお断りしてただろうけどな」
「お兄ちゃんチキンだもんねー」
「やめろ、牽制球をライナーで返すな」

 そこは軽い突っ込みで済ますところだろ。
 いくら僕でもちょっとは傷つくぞ。

「そうそう、胸と言えばブラジャーの話なんだけど」
「また下着トークかよ。前の見開きパンツトークじゃ足りなかったのか?」
「足りないに決まってるでしょ。私が本気を出したら、まるまる一冊ブラジャーとパンツの話で埋まるね」
「最早それは小説ですらないな……」

 着物語じゃなくて下着語だ。
 シリーズが変わってしまう。
 このまま自由に喋らせていいものかという不安もないわけではなかったが、既に表題からは逸れまくってるので、多少脱線してもそれは誤差の範囲だろう。
 居住まいを正し、聞く姿勢を取る。

「下に何を穿くかにもよるけどさ、パンツって結構見えちゃうことが多いよね。見せパンなんて言葉があるように、セキュリティの低さを前提としてる部分もあったりして」
「まあ、そもそもスカートが中身を隠すのに向いてない感じのデザインだしな」
「それに比べて、ブラジャーは上に何か着るのが当たり前だから、見える機会はパンツと比べてぐっと少ないでしょ。こっちも見せブラって言葉はあるけれど、パンツよりはあからさまじゃないっていうか。胸元のガードさえ緩めなければ、まず事故は起こらないと思うんだ」
「セキュリティの差ってことか」
「うん。火憐ちゃんみたいにジャージばっかりとかだと、逆にパンツの方がガード堅くなるけどね。大抵の男子にとっては、パンツよりブラジャーの方が希少なんじゃないかな」
「なるほど、お前の意見も一理ある」

 両腕を組んで、僕は大仰に頷いた。
 その上でしかし、と前置きし、

「セキュリティレベル自体、時期や状況によって変わってくるものだろ。夏場は薄着になって透けブラが望めるし、雨の日には濡れて透けるという可能性もある。逆に風の強い、寒い日だと、スカートがめくれる偶然に巡り会えるかもしれない。どっちが希少だとか何だとか、論じるだけ無駄じゃないかと僕は苦言を呈したいね」
「いや、本題は正にそこなんだよお兄ちゃん」

 身体を起こした月火が、襟を軽く直してからびしっと僕を指差す。
 太腿の辺りは乱れたままなので、意味もなくパンツだけが露わになっていた。ついでに寝転がっていた所為か、長い髪に若干癖がついてしまっている。
 サービスカットにしたって色気の欠片もない奴だ。

「見られる機会はほとんど等しいはずなのに、下着と言えばパンツ、パンツと言えば下着みたいな扱いになってるじゃない。同じ下着であるにもかかわらず、ちょっとブラジャーの地位は不当に低いって思わない?」
「そういう風に考えたことはなかったな……」
「でしょ? だから私は、根本的な意識改革が必要だと思うわけです」
「ふむ。例えば?」
「ブラジャーは服の下に着るもの、という前時代的な発想を逆転させて、服の上からブラジャーを着けるようにすれば! 下着界の革命が起きるよ!」

 間違いなく起きる前に自壊する。
 ゴールデンウィークの時といい、こいつもやっぱ筋金入りの馬鹿なのかなあ。
 火憐ちゃんはどう考えても手遅れだし、せめて月火ちゃんにはまともでいてほしいんだけど。
 阿良々木家はもう駄目かもしれない。

「つーかお前、下着の話をするためにここに来たんじゃないだろ。本来の目的を思い出せ」
「え? ……あ、そうだそうだ、うん、大丈夫大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」

 その反応は明らかに忘れてんじゃねえか。
 せめてもっとまともな誤魔化しをしろよ。

「いい加減火憐ちゃんも待ちくたびれてるだろうし、早く行ってあげなきゃね。勉強も一段落したでしょ?」
「話し始めてからはノータッチだったけどな。ともあれさっさと飯を済ませて――」

 と、立ち上がりかけたところで。
 廊下の方からどたどたと、荒い足音が近づいてきた。誰のものかは考えるまでもない。そのままドアを破壊する一歩手前の勢いで開けたもう一人の妹は、半分腰を浮かせた僕と、中途半端に着衣が乱れた月火を代わる代わる見て、

「……もしかして、兄ちゃんと月火ちゃん、二人でエロいことやってたのか?」
「ない。それは絶対にない」
「何だよ水臭いなー。あたしも呼んでくれればよかったのに」
「人の話を聞けよ!」

 最近神原とよく会ってるからって、一番真似ちゃいけない部分を真似てんじゃねえよ。
 エロキャラはあいつだけで十分だ。
 その後さらに五分程度を費やし、裾のめくれを直した月火と力を合わせ、無駄にうざい火憐を部屋から追い出して、ようやく僕達は昼食を摂ったのだった。



   003

 僕の、受験生としての正しい休日の過ごし方はおおよそ二通りある。
 自宅でひたすら参考書を解き続けるか。
 戦場ヶ原か羽川の個人レッスンを受けるか。
 とはいえ前者は平日もしていることだし、後者も二人の都合がつかなければ実行できない。適度な範囲で息抜きはしなさい、という羽川の助言もあり、肩の力を抜く時間は意識的に設けるようにしていた。
 行き先も決めず出歩いてるのは、そういう理由もあってのことだ。特に今日は家にいる気にもなれない。
 あいつら騒がしいし。
 忍に血をやってからさほど経っていないので、夏の強い陽射しには少々堪えるものがあるが、こればかりは仕方ないだろう。背負うべくして背負ったリスクだ。僕にとやかく言う権利もない。
 そんなわけで昼時の少ない影を選びつつぶらついていると、お馴染み見慣れた後ろ姿が目に入った。
 僕が外出すればふとした拍子に見つかるパターンが、ほとんど様式美みたいになってきた八九寺である。
 最早会えないと物足りなくなるくらい。
 吸血鬼もどきの視力で捉えたので、実際にはまだ僕と八九寺の間に結構な距離が開いているのだが、今から走って追いかければ見失うほどでもない。
 けどなあ。
 いくらドラマティックな出会いを演出しようとしても、八九寺に対する接し方は粗方模索し尽くしちまってるし。
 一度話し込むと間違いなくページ数がかさむ。
 大体、みんなもううんざりしてるんじゃないかと思うのだ。
 様式美と言えば聞こえはいいが、裏を返せばワンパターン、飽きられやすいということにもなる。
 僕の控えめに見てもセクハラな行為の数々だって、あれだけ何度も繰り返すとみんな食傷気味だろう。
 向こうはこっちに気付いてないんだし、わざわざ自分から声を掛ける必要もない。
 このまま静かに見送ろう。
 それがお互いのためだ。

「いようはっちくじぃー! おいおいお前何で僕に気付かないんだよ! そんな無防備でいられると色々我慢できなくなるじゃねーか!」
「ぎゃーっ!」

 とか何とか言っちゃって。
 モノローグを垂れ流している間に背後へ近寄り、一切警戒をしていなかった八九寺のスカートを、華麗な指捌きで僕はめくり上げた。
 バックプリントの子供パンツ。
 皺の一つ一つまで丸見えだった。

「がうぅっ!」
「むっ!?」

 次に来る凶悪な噛みつきに備え、ボクシングスタイルで構えていたところに、反転した八九寺が全く予想外の一撃――左脇腹を狙ったブロウを繰り出す。さほど重くはなかったものの、思わず身体が横に流れ、それを逃さず追撃のアッパーが僕の顎めがけて振り上げられた。
 しかし、甘い。
 上体を僅かに反らし、紙一重で回避しつつ、伸びきった腕を掴んで肩に乗せる。身を捻り、力に逆らわず背負い投げを決め込んだ。
 ――が、今度は僕が甘かった。
 背中から地面に落ちた八九寺は、リュックサックをクッション代わりにして衝撃を吸収したのだ。そこで一瞬できた思考の間隙を見過ごす八九寺ではなかった。獣のような動きで頭から飛びかかり、八九寺の腕を離しかけた左手にかじりつく。
 相変わらずとんでもない顎の力だった。
 激痛に耐え、数発の腹パンと事故の胸揉みを経て、どうにか八九寺は静まった。僕の手の傷が消失するのとほぼ同時、スカートとリュックサックに付いた汚れをぱっぱと払いながら、

「誰かと思えば、メメラギさんじゃないですか」
「いや、我ながら出会い頭の挨拶としては最悪の部類だって自覚はあるから、如何にも萌えそうでその実萎える要素しかないアロハのおっさんを思い返す名前で僕を呼ぶのはやめてくれ。僕の名前は阿良々木だ」
「失礼。噛みました」
「違う、わざとだ……」
「無事に買えました!」
「はじめてのおつかいっ!?」

 うん。
 やっぱり様式美って大事だよな。
 このやりとりをするだけで胸が温かくなる気さえする。

「ちなみにメメラギというのは、忍野さんと阿良々木さんのカップリングを表したものですね」
「詳細な解説はいらない!」
「この場合は忍野さんが攻めで阿良々木さんが受けということになるわけです。逆だとラギメメになるんでしょうか。それともアラメメになるんでしょうか」
「知らねえよ! ターゲットにされてる当人に訊くな!」

 前言撤回、胸が冷たくなってきた。
 精神的拷問以外の何物でもない。
 別にそういう文化自体を否定するつもりはないんだけどさ。
 僕はあくまでノーマルなのだ。
 世界が滅びてもあいつとだけは有り得ない。

「ったく、恐ろしい想像させるんじゃねえよ……。鳥肌立っちまったぜ」
「ですが阿良々木さん、セクシャルな描写だけでは男性層の人気しか上がらないじゃないですか。ここは一手、女性層を引き込むために、阿良々木さんが少し身体を張るのもありではないかと」
「そんなファンサービスは不要だ。僕は読者や視聴者に媚びないって決めてるんだよ」
「無駄な男らしさをアピールしようとしてる時点で、十分媚びてると思いますが」

 それはただの開き直りです、と半目を向けられた。

「大体、阿良々木さんほど女々しい方もいらっしゃらないでしょう。男の風上にも置けません」
「酷い言いがかりだな。これでも僕は男らしさに関して右に出る者はいないと評判なんだぜ」
「散々お膳立てをした上に恥ずかしい台詞を言わされたのに、土壇場で羽川さんの胸を揉まなかったと聞きました」
「すみません僕は女々しい男でした!」

 ガハラさんに次いで八九寺と仲良いのは知ってたけど、被害者同盟だからってそこまで話しちゃってるのかよ。
 僕の恥部の大半は羽川に握られているので、この分だと八九寺にもリークされている可能性は高い。
 着々と頭の上がらない相手が増えている気がする。
 ――さてまあ、お遊びも程々に。
 こっちの本題はここからだ。
 そろそろタイトルが何であったか忘れてしまった諸兄も多いんじゃないだろうか。
 セーラー服の話である。

「ところでお前、今着てるのっていつもの服じゃないよな? もっと突っ込むならそれ、セーラー服だよな」
「セーラー服とは何でしょう? 阿良々木さんがしょっちゅうわたしにしている行為のお仲間ですか?」
「セクハラじゃなくてセーラーだ。聞き間違いにしても強引過ぎんだろ」
「おやおや、ご自分でセクハラを認めましたか。これはもう明確な証拠として法廷に提出する他ありませんね」
「しまった、誘導尋問かっ!」

 どう見てもただの自爆だった。
 元からあった墓穴にはまっただけとも言える。

「まあ冗談はさておきまして、阿良々木さんの仰る通りですよ。少々わたしには大きいサイズですが、悪くない着心地です」
「基本的にお前って同じ服しか着てないから、こうして見るとなかなか新鮮だぜ。けど、一体全体どういう風の吹き回しだ?」

 幽霊なんだから着替えられないんじゃないか、という至極もっともな疑問は置いておく。
 こいつ前にブルマー穿いてたし。

「話せば長くなるのですが」
「言ってみろ。とりあえず聞いてやる」
「昨日神原さんの――」
「もういいわかった」

 むしろ聞きたくなかった。
 二度ネタにしても間空き過ぎだろ。

「どうですか阿良々木さん。わたしのような可愛らしく大人びた女子が着ると、清楚で可憐な魅力に溢れて見えません?」
「不純でいかがわしくは見えるな……」

 ぶっちゃけ八九寺みたいなロリ少女との組み合わせだと、非合法なイメクラっぽい。
 微妙に犯罪臭が漂っている。

「わたしほどではないですが、女々しい阿良々木さんもセーラー服が似合いそうですね。髪、さらに伸びましたし」
「首の噛み痕はこれで完全に隠れるから、今の長さ以上にする気はないんだけどな。あと一応指摘しておくと、女々しいって言葉に女らしいという意味はない」
「では言い直しましょう。女臭いらぎ子さんもセーラー服が似合いそうですね。背、相変わらず小さいですし」
「単語のチョイスに悪意しか感じられない!」
「どこぞの学園に潜入しても違和感ありませんよ。ついでに中の人を石田彰さんに変更してもらうのはどうでしょう。今のままだと声でバレますから」
「僕の声は吹き替え不可能だ! 死ぬまで神谷浩史さん以外有り得ねえよ!」

 というか八九寺P、キャストにまで口出せるのかよ。
 一番持たせちゃいけない奴に権力持たせてんじゃねーか。

「そうそう、アニメと言えば、最近は実写化が流行りだそうで。主要人物役の声優さんがグループを組んで出張ったり、逆に全く本編には関係ない方をキャスティングしたりしているようですが、果たしてスタッフはどういった層をターゲットにしているんでしょうね。三次元が嫌で二次元を求めているのに、逃避先で現実を見せられるとか、どう考えても誰も得しないじゃないですか」
「その意見には正直頷きたくもあるが、間違いなく各方面に喧嘩を売ることになるな……」

 考えようによっては、劇団イヌカレーさんの演出も実写の枠に入るだろうし。
 自分で自分の首を絞めかねない。

「下手に新しいことを試そうとしても、碌な結果を招かないという話です」
「確かにな。そういうのは一種博打みたいなところがあるっつーか」
「はい。いくら売れ行きがよかったからといって、次も上手く行くとは限りませんよね」

 何だろう。
 今の発言に物凄い他意を感じる。

「でもさ八九寺、保守的過ぎるのも問題だと僕は思うぜ。世の中はいつも革新的な人間が動かしてきたわけだし、虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」
「藪をつついて蛇を出す、とも言います。迂闊に劇場化なんて宣伝をしてしまったが故に、尺や描写範囲の制限に悩まされることもあるんですよ?」
「お前は一体誰の立場で喋ってるんだ……?」

 内容については理解できないでもないんだけど。
 今まではともかく、春休みとかゴールデンウィークとかの話は本気で映像化に困るような代物だからな。
 夏のあれこれも別の意味で困る。
 断固映像化反対だ。
 ただでさえ下降気味な僕の株価が底値になりかねない。

「阿良々木さんの評判は既に地を這っているような気もしますが」
「まだ挽回の余地はあるだろ。僕だって遊んでばっかりの人間じゃないんだぜ」
「そうですね。確かに阿良々木さんは、遊んでばっかりの人間ではありませんでした」
「ああ、やっとわかってくれたんだな」
「セクハラは遊びではなく生き甲斐なんですよね」
「人の生き甲斐を捏造すんじゃねえよ!」

 法廷でそんな言い訳したら即刻有罪になるわ。

「冗談です。阿良々木さんはヘタレですから、一線を越えるような大胆な行為には及ぶはずもありません」
「弁解してもらえるのは有り難いんだが、言葉のチョイスに釈然としないものを感じる……」
「以前わたしが阿良々木さんの部屋にお邪魔した際にも、結局何もしなかったわけですし」
「え、まさかお前、あの時起きてたの?」
「いえ、起きたらパンツくらい脱がされてるかと覚悟してましたが、そんなこともなかったので」
「お前はいったい僕を何だと思ってるんだ!?」
「答えていいんですか?」

 真顔で返された。
 八九寺にそういう態度を取られると、結構本気で傷つく。

「しかしまあ、わたしの方から言うのはおかしな話になりますけど、他人の目を気にし過ぎるのもどうかと思いますよ。生きている限り、どうしたって他者との衝突や意見の相違は避けられないんですから」
「人間二人いれば争わずにはいられないってか」
「誰も彼も同じ考えなんて方が怖いですよ。気持ち悪いと言ってもいいです」
「それは、否定のしようがないな」
「はい。ですから、原作と展開が矛盾していたり、怪異が全く出てこないからといって、それを駄作と決めつけるのは些か浅慮な考えじゃないかと思うわけです」
「ここでメタな話に入るな! お前のその発言は危険だ!」

 お叱りを受けかねない相手先が多過ぎて、いったいどこに頭を下げればいいのかもわからない。
 とりあえず倒立して恥を晒せば許されるだろうか。
 そうすれば八九寺のパンツも覗けるしな。

「何やら不穏な気配がしますよ?」
「錯覚だろ。僕は今、世界平和について考えてたところだ」
「また阿良々木さんには似合わない単語ですねえ。世界平和の前にこの街を平和にしたらどうでしょう。最近小学生を背後から襲う男子高校生の噂がまことしやかに囁かれているらしいですが」
「なるほど、そんな卑劣な輩は許しておけないな。万が一にでも出会ったら、僕が正義の鉄槌を食らわせてやろう」

 液体窒素みたいな温度の目で八九寺が僕を見つめてくるが、気のせいだということにしておく。
 というか、いい加減本題に戻ろう。
 改まって切り出しといて、いくら何でもあっさり流し過ぎだ。

「……で、そのセーラー服は神原に返すんだろ。こっちで預かっといてやるから、さっさと着替えてこい」
「ここで今すぐ服を脱げとは、阿良々木さんもいよいよご自身の性癖を隠さなくなってきましたね」
「んなこと一言も言ってねえぞ!?」
「わたしの魅力にクラっと来てしまうのも致し方ないですが、踊り子はお触り厳禁ですよ?」
「お前が踊り子だってのも初耳だし、そもそも魅力のみの字もないだろうが。羽川の胸を見て出直してこい」
「……阿良々木さんにとっての魅力が胸にしかないことはよくわかりました」

 そんなやりとりも程々に。
「ちょっと待っててください」と姿を消した八九寺は、おおよそ五分後に戻ってきた。
 いつもの服装になり、手元には先ほどまで着ていたらしきセーラー服がある。頑張って綺麗に畳もうとした痕跡も窺えるが、残念ながら上手くはできていなかった。

「あれ、何で二着も持ってるんだ?」
「神原さんが落としたのは二着だったので。ちなみにもう片方はサイズが大きくて、わたしには合いませんでした」
「試してはみたのか……」
「阿良々木さんならぴったりかもしれませんよ」
「やめろ、変なフラグを立てようとするな」

 嫌な予感がひしひしする。
 今回は仕舞って隠すための袋みたいなのもなさそうだし。
 安易に預かるのはミスだったかなあ。

「それでは、阿良々木さんと十分お話しすることもできましたし、わたしはここで失礼しますね」
「おう。またな、八九寺」
「はい、道中お気をつけてください」

 さっと角を曲がって歩いていった八九寺を見送り、僕は溜め息を吐いた。
 はてさてどうしたもんかな。
 極力人に見つからないように、神原んちまで届けに行くしかないか。
 そう簡単な方針を決め、次善の策とも言えない策として、受け取った二着分のセーラー服をシャツと腹の間に押し込み、とりあえず人目がないことを確認したところで――
 ごすっ。
 と、側頭部に鈍い衝撃が走った。
 同時に「あ」という気の抜けた声が聞こえたような気もしたが、ともあれ僕の意識は、そこで一旦途切れる。



   004

 目が覚めると、ゴミだらけの部屋に拉致されていた。
 監禁のコンボがない分、前回の戦場ヶ原の時より遙かにまともな状況ではあるが、そもそもこの現状がまともじゃない。
 つーかここ、どう見ても神原の部屋じゃねーか。
 一週間ほど前に片付けたばかりなのに、もうこれだけの惨状を晒してるのは、女としてどうなんだと思わなくもないけれど。
 その辺はどうせ一朝一夕で矯正できるものでもないので、今はとりあえず、状況の確認をするべきだろう。
 周囲で山になっている本やゴミの塊を刺激しないよう、慎重に上半身を起こす。

「…………え?」

 ちょっと待て。
 僕、今日はジーンズ穿いて、半袖のポロシャツ一枚でさっきまで歩いてたよな。

「どうやら無事に目覚めたようだな、阿良々木先輩」

 呆然とする僕の横から、案の定というべきか予想通りというべきか――さすがに裸ではなかったが、夏らしい薄着姿の後輩、部屋の主たる神原の声が掛かった。
 神妙な表情で散逸するゴミを踏み越えて近付き、何故か後ろに手を回したまま、すとんと僕の隣に座る。

「粗茶も出せずに申し訳ない。今、冷えた飲み物を切らしていてな。どうしてもご所望というならばすぐにでも買ってくるが」
「いや、そんなことより、現状を説明しろ。どうしてこうなった」
「ふむ……千里を見通す慧眼をお持ちである阿良々木先輩にも、把握できないことはあるのだな。では不肖この神原駿河が、拙いながらも経緯を説明しようと思う」
「なるべく簡潔に頼む」
「了解した」

 完全に起き上がった僕の正面に移動し、神原は居住まいを正した。

「まず、道端で阿良々木先輩を偶然見かけてな。受験勉強で忙しく、最近顔を合わせる機会も少なかったので、喜びの余り全速力で阿良々木先輩を飛び越えようとしたのだが、目測を誤り、膝蹴りになってしまったのだ」
「…………」
「私のミスで気絶させてしまい、大変申し訳なかった。今更謝ったところで許してもらえるとは思えないが、どうかこの身体を一晩自由にするということで見逃してほしい」
「話の途中でいきなり交渉しようとすんな! 大体それはお前が得するだけじゃねえか!」
「一週間までなら何とか融通できるぞ」
「期間を問題にしてるんじゃねえよ!」

 既に突っ込みどころが多過ぎて対処しきれない。
 最初からクライマックスだ。

「いいから続きを話せ。判決はそれから出してやる」
「阿良々木先輩の命令なら喜んで従うが……しかし、後はさして特筆するようなこともないぞ。倒れた阿良々木先輩を背負ってここまで運び、念のため強打した側頭部を冷やし、それからセーラー服を」
「いや神原、話が全く繋がってないんだが」
「背負ったところとここまで運んだところがか?」
「正直そこも気にならないわけじゃなかったけど、セーラー服のところだよ! 最後だけ明らかにおかしいだろ!」
「他に阿良々木先輩に合いそうな服がなかったのだ」
「着替えさせられる理由がわからないっつってんだ!」

 僕の言葉に、ようやく神原は得心したというように頷き、さっきから後ろにやっていた手を前に持ってきた。
 思わず釣られた視線の先、神原の正面で掲げられた手鏡に、僕が映っている。
 違うことなき、セーラー服姿の。

「もしかしたらと前々から考えてはいたのだが、やはりよく似合っている。私の審美眼に狂いはなかったようだな」
「本気でそう言ってるんなら、今すぐ眼科か精神科に行ってこい。狂いがないどころか、正常な部分がどこにもねえよ」
「そうか? 阿良々木先輩はあまり背が高くないし、身体は細く髪も長いから、今の格好なら遠目では女性にしか見えないと思うぞ? ぶっちゃけ道端で出会ったら即口説いているレベルだ」
「お前日頃そんなことやってんのか!?」
「日頃というほどでもない。精々週に二回だ」

 十分過ぎるわ。
 胸張って言うことじゃねえだろ。

「ちなみにちゃんとパッド入りブラも着けておいた。私と同じサイズでお揃いだぞ」
「それは明らかに余計な情報だな!」
「私の胸だと思って揉んでも構わない」
「僕が構うわ!」
「下着の方までは手が回らなかったので、それはどうにか妥協してほしいのだが」
「そこまで替えられてたら僕は首を吊ってるな……」

 気絶してる間に下まで脱がせられるとか、一生ものの恥にしかならない。
 既にこの光景が一生どころか来世に持ち越しかねないほどの恥だが、ともあれ僕が訊き出すべきはこうなった理由である。
 無言で会話の路線修正を促すと、神原は手鏡を下ろし、右手を自分の顎に持っていった。
 見定めるような視線で、僕の全身を膝元から上へと眺める。

「どこから話したものか……阿良々木先輩、先日私と交わした約束を覚えているだろうか」
「約束?」

 そんなものしたっけな。

「羽川先輩の下着が阿良々木先輩の家にあることを秘密にする代わり、阿良々木先輩と私で歯の磨き合いっこをするという約束だ」
「それは約束とは言わねえよ! ただの恐喝だ!」
「人聞きが悪いぞ阿良々木先輩、あれはあくまで正当な契約ではないか」

 覚えてなくて当然だよ。
 むしろ永遠に忘れていたかった。

「……で、千歩譲ってそいつを約束だとして、いったいどの辺が今の状況に繋がるんだよ」
「いや、あの日家に帰ってから一晩考えたのだが、私と阿良々木先輩が歯の磨き合いっこを実行したら、間違いなく十八禁になってしまうことに気付いてな」
「僕とお前の自制心を同列に語るな! こっちはちゃんと我慢できる!」
「私も我慢できるがしないぞ? 阿良々木先輩と沿い遂げられるのなら本望だ」
「こっちは全く本望じゃない!」
「だが阿良々木先輩、こう考えてみてくれないか。仮に阿良々木先輩が我慢したとして、私が襲いかかれば結果的に十八禁になってしまうのだから、そもそも我慢する必要がないのだと」
「なるほど、それは逆転の発想……なわけあるか!」

 前提がおかしいってことに気付け。
 お互い何もしなければ問題は起きないだろ。

「まあそういうことで、歯磨きに並ぶ別の条件を考えていたのだが、丁度良く部屋から阿良々木先輩にぴったりのセーラー服が発掘されてな」

 その言葉を額面通りに受け取れるほど、僕は人間的に素直ではない。
 丁度良くって。
 しかも何で僕にぴったりだってわかるんだよ。

「服のサイズに関しては、事前に阿良々木先輩の部屋にお邪魔――いや、侵入した際、念入りに確認しておいた」
「何故より悪い方に言い直した」
「嘘はいけないと思ったのだ」
「そう思うならまず不法侵入をやめろよ!」

 たぶんあの時なんだろうなあ。
 戦場ヶ原宅に連れ去られた日。具体的には四話前。
 つくづく僕は拉致と縁があるらしい。

「ったく……つまり、これが代替案なんだな」
「うむ。多少強引な手段であったことは自覚しているが、おかげで眼福だ。約束通り、デジカメの写真はこちらで消しておこう」
「是非そうしてくれ。じゃあ用も済んだことだし、着替えさせてもらうぞ。僕の服はどこにやった?」
「ああ、それならその辺りに――」

 と、立ち上がりかけた神原が硬直した。
 気のせいでなければ、物凄い勢いで冷や汗を流している。

「阿良々木先輩、どうか気持ちを落ち着けて聞いてほしい」
「何だよ神原、そんな改まって。まずいことでもあったのか?」
「まずいというか、阿良々木先輩にとってはこの上ない不幸というか……」
「女装させられてる以上に不幸なこともないと思うけどな……。いったいどうしたんだよ」

 敢えて茶化すように問いかけてみたのだが、神原はそのまま押し倒しかねない剣幕で僕の肩を掴み、秘した罪を神前で懺悔する羊のように、無情な現実を僕に告げた。

「着替えが、駄目になった」



   005

 結論から言えば、最悪の事態だけは避けられた。
 神原に脱がされた僕のポロシャツとジーンズは、何をどうすればそうなるのかさっぱりわからないが、その辺に転がっていたらしいローションまみれになっていた。当然他の着替えを持ち合わせているはずもなく、ボーイッシュなタイプである神原の衣服は微妙にサイズが合わない。見る人が見れば誰でもない神原が仕組んだとしか思えない状況で、これはもうセーラー服のまま家に帰るしかないのか、という流れの中、ある程度体型の融通が利くジャージを借りることにより、女装姿の変態が街を闊歩するような展開は見事になくなったわけだけど。
 いやもう本気で人生の危機だった。
 その可能性が僅かでもあったんだと思うと、戦慄を禁じ得ない。
 駄目になった僕の着替えは神原が責任を持って洗って返すと言っていたし(それに関してはいくらかの不安もあるのだが)、借りたジャージも、若干下の丈が余っているのと無駄に暑いことさえ我慢できれば、スカートよりは遙かに良い着心地だ。
 神原宅から僕の家までは、徒歩でおよそ三十分。
 近くはないが遠過ぎるほどでもない。
 雲一つ見当たらない快晴の下でこんな格好をしているのだから、変な目を向けられるのは仕方ないだろう。我が家のジャージ女こと火憐はともかく、僕だって炎天下でジャージ姿の人間を見かけたら正気を疑う。

「……まあ、でもさすがにもう知り合いと会うようなこともないだろうしな」

 なんて。
 ついつい口に出してしまったのがいけなかったのか、向かいの曲がり角から明らかに見知った人物が二人現れた。
 戦場ヶ原と羽川。
 ばったり鉢合わせた形。
 一瞬時が止まった気がした。

「こんにちは、阿良々木くん。それともこんばんはかな」
「ま、まだ陽は沈んでないし、こんにちはでいいんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ改めて、こんにちは、阿良々木くん。ほら、戦場ヶ原さんも」
「ふふ、阿良々木くん、こんにちは」

 どうしてだろう、夏休みを経てドロがデレに緩和されて、それでも充分優しくなったガハラさんの笑みに、何か空恐ろしいものを感じるのは。
 あと羽川さんも怖い。
 アニメ最終話のキャラコメでの暴虐っぷりを彷彿とさせる。

「阿良々木くんは、こんな時間に気分転換?」
「あ……ああ、ちょっと勉強が煮詰まってな。外もいい天気だったし、軽く散歩でもするか、と思って」
「確かに、とてもいい天気だものね。あまり根を詰め過ぎても成果は出ないでしょうから、そうしたくなる気持ちもわかるわ」

 いわゆる吸血鬼体質の僕にとっては、いい天気であればあるほど外出には向いていないのだが、そこに対する突っ込みもない。
 にっこにっこ、と。
 緩めた目尻と頬を崩さないまま、戦場ヶ原がすっと僕のそばに近付き、そして「失礼するわね」と軽く腰を折って、おもむろに首筋へ顔を寄せた。
 突然のことに身動きひとつ取れない僕を、羽川がこれまたいい笑顔で見つめている。
 蛇に睨まれた蛙――というか。
 虎に睨まれた兎の心持ちだった。

「知ってる女の匂いがするわ」
「やっぱり神原さん?」
「ええ。もう一人はたぶん八九寺ちゃんね。まあそれはいいのよ。道を歩けば女の子に当たる阿良々木くんだもの、大方たまたま会って雑談に興じたというところでしょうけど――」

 ジャージの襟裏に指を差し込み、戦場ヶ原は僕の首筋をゆっくりとなぞり始めた。やけに艶めかしい手付きで指先が喉仏を通り、薄く浮いた汗を拭う。

「ねえ、阿良々木くん」
「……何でしょうか、戦場ヶ原さん」
「あなた、どうして神原のジャージを着ているのかしら」

 僕はその問いに、答えられなかった。
 頭を引いた戦場ヶ原が目を細める。
 マジ恐怖。

「羽川さん」
「おっけー」

 そこからは、羽川がすっと僕の背後に回り羽交い締めにするのと、戦場ヶ原が懐から取り出した携帯でどこかに掛けるのが同時に行われた。
 背中にとんでもなく柔らかい、理性を投げ出したくなるようなものが押しつけられているのだが、正面で戦場ヶ原と話している相手が僕の想像通りなら最悪過ぎて、そっちに意識を傾けきれない。
 短いやりとりの後、携帯をポケットに仕舞い直した戦場ヶ原は、吐息をひとつ落とすと、ここまでで一番可愛らしい笑顔を浮かべた。
 僕にはそれが、死刑宣告にしか見えなかった。

「神原はダッシュで来てくれるそうよ。出来の良い後輩を持った私は幸せ者ね」
「あの……えーと、ガハラさん? 電話で神原と何をお話しになったのでございますか?」
「セーラー服」
「…………」
「と、阿良々木くんの生着替え」
「かんばるううううううううううううううう!!」

 あっさりバラし過ぎだろお前!
 余計なことまで言っちゃってんじゃねえよ!

「あの子とは随分楽し……いえ、羨ましいことをしてたみたいだけど」
「何故より駄目な方に言い直す」
「妬ましいことをしてたみたいだけど」
「もっと酷くしてどうするんだよ!」
「あら、結構余裕あるんじゃない。なら私達にも付き合えるわよね」
「……勉強は」
「こっちの用事が終わったら、二人がかりでじっくり教えてあげる。ああ、それと、羽川さんも言いたいことがあるそうよ」

 気付けば戒めは解かれていた。
 僕は静かに振り返る。
 羽川さんがすげえにっこにこしてる。

「節度って、大事だと思うんだよね」
「はい」
「実は今日お休みをいただいたのは、戦場ヶ原さんと今後の方針について話し合うためだったんだけど、私達が阿良々木くんのことを真面目に考えてる間、いったい何をしてたのかな?」
「申し開きもございません」

 気分は平伏低頭、ここが道路でなければ地面に額を擦りつける勢いだった。
 そんな僕を羽川はじっと見つめ、

「交換条件」

 突然耳元で囁かれて、思わずびくっとしてしまった。
 視界の奥で全く微動だにしない戦場ヶ原がまた怖い。

「私の下着を返さない代わりの、交換条件。今使うよ」
「……その、どんな条件を出すおつもりで?」
「これから戦場ヶ原さんの家に行くので、阿良々木くんはそれに夜まで付き合うこと。勿論何を言われても反論はなし、素直に従ってね」
「ご一考していただくことは……」
「さあ阿良々木くん、行こっか」

 退路は完全に塞がれた。
 羽川が僕の左、戦場ヶ原が右に付き、両腕をがっちりホールドされる。見方によっては両手に花と言えなくもなかったが、状況が状況なら言いたくもあったが、今回ばかりは両手に棘と表現するべきかもしれなかった。

「神原にはセーラー服以外にも色々持ってくるように指示したし、阿良々木くんを好きにできるのだと思うと心躍るわね」
「そうそう、火憐ちゃんと月火ちゃんには私の方から連絡しておくから心配しないで。こちらで責任持って預かります、って」

 ――こうして。
 一生どころか来世に持ち越すレベルの恥を、僕は得ることになったのだった。



   006

 後日談というか、今回のオチ。
 そして最初で最後の章変えリセット。
 何も起きなかったってことにしたい。
 翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされるかと思いきや、目覚めてみると僕の左右で気持ちよさそうに寝ていやがったので、優しく一人ずつ蹴り落として起こしてやった。
 最近いつの間にか潜り込んでることが多いんだよなあ。
 ベッドが窮屈で仕方ない。
 ともあれ、家族揃っての朝食を済ませ、何事もなく学校へ行って授業を受けた帰り、通学路ではあまり見かけない制服を目にした。
 軽く急ぎ足で歩き、横に付く。

「よう、千石」
「あ……暦お兄ちゃん」

 一応人違いでないことを確認してから声を掛けると、前髪に隠れた俯き気味の瞳が、僕に向いたのがわかった。

「学校の帰りか?」
「うん。今日は掃除当番じゃなかったから、ちょっと早くて……。暦お兄ちゃんも?」
「まあな。家に着いたらまた勉強漬けだけど」
「暦お兄ちゃん、すごいね……家でも勉強するなんて、撫子には真似できないよ……」

 一見僕の勤勉さを褒め称えてるように聞こえるが、後半が学生としてはあるまじき発言だ。
 そういやこいつ、夏休みの宿題をひとつもやらないくらいの勉強嫌いなんだよな……。
 もっとも、今年度の頭までの僕は、人のことを言えたわけじゃなかったけれど。
 戦場ヶ原と羽川様々である。

「そういえば、暦お兄ちゃん」
「ん?」
「月火ちゃんが、この前、暦お兄ちゃんの下着の話をしてくれてね」
「いや待て、その話題の変え方はおかしいぞ!?」

 つーか何話してんだあの妹。
 人のプライバシーをさらっと漏洩させてんじゃねえよ。

「ズボンを穿く前の、服の裾からちらって見える下着が、セクシーなんだって」
「嫌な情報を聞いてしまった……」

 だいたい男物の下着なんて、面白味も何もないだろうに。
 トランクスってある意味半ズボンみたいなものだし。

「えっと、それで、参考、そう、参考までになんだけど、暦お兄ちゃんは、どんな色の下着が好き、なのかな」
「何の参考なのかさっぱりわからないんだが……んー、強いて言うなら、黒とか色の濃いのを選んでるぞ」
「そ、そうなんだ。暦お兄ちゃんは黒が好きなんだ……」

 呟きながら、何故か千石が頬を赤らめる。
 てっきりこの手の話題には抵抗があると思ってたんだが、戦場ヶ原や神原ほどではないにしろ、男が考えてるよりも女性というのは下ネタに興味を持っているのかもしれない。

「撫子、今度は勇気を出してみるよ。だから暦お兄ちゃん、その時は撫子のこと、ちゃんと見てほしいな」
「……? ま、僕でいいならいつでも力になるぜ」

 極めつけに危険な、ともすれば大きく道を踏み外しかねないルートに入ってしまったような気もするけど、きっと錯覚だろう。
 千石相手に何の危ないことがあるんだって話だ。

「あ、そうだ暦お兄ちゃん。もうひとつ」
「今度はどうした」
「さっき、暦お兄ちゃんに会う前、神原さんとすれ違ったんだけど……すごいスピードで走ってって、写真を一枚落としてったの」
「写真?」
「うん。セーラー服の、可愛い人が写ってた。これ……暦お兄ちゃんだよね」

 実物を提示しての、疑問というより半ば確信に近い、事実を確認するような問いかけ方だった。
 膝上まであるソックス履かせられて胸パッドも入れられて、さらには戦場ヶ原と羽川にノリノリで化粧その他各種手入れまでさせられた、少なくとも自分で見る限り、これが僕だとはすぐわからないほどの変貌っぷりなんだが。
 適当に言ったのでなければ、恐るべき推測力である。

「み、見間違いじゃないのか?」
「撫子が暦お兄ちゃんを見間違うはずがない」
「………………」

 どう返せと。
 何を口にしても悪い未来にしかなりそうにない。
 
「えっと……別に撫子、誰かに言い触らしたりとかしないから。暦お兄ちゃんがそういう趣味でも、撫子、気にしないよ」
「そこは気にしろ! そいつは社会に野放しにしてはいけないレベルの変態だ!」
「撫子の前では、隠さなくてもいいからね」
「変に理解ある素振りを見せる必要もねえよ!」
「……暦お兄ちゃんじゃなくて、暦お姉ちゃんって、呼んだ方がいい?」
「頼むから勘弁してくれ……」

 そんなこんなで。
 残りの道程を千石への説明と説得に費やしながら、僕は思い出しかけた昨日の記憶を、厳重に鍵を掛けて封印することにした。
 あるいはあんな出来事も、いずれ冗談めかして話せる日が来るのかもしれない。苦々しい過去も、酒のつまみ感覚で語れるようになるのかもしれない。
 けれど、今のところ、それは。
 余計な装飾のない、単純で、ありふれた――この僕、阿良々木暦の『恥』の話。
 墓まで持っていくと決めた、笑えない物語だ。











 こうして同人誌、特に自分としては初の個人誌というものを作ることになって、そこに掛かる手間と資金について色々と思いを馳せたりもしたのですが、例えば同人誌、書籍が出来上がるまでには多くの人間、多くの場所を通り過ぎるのも当然の話で、それは勿論書籍に限らず、世に存在するほとんどの仕事は己のものだけで完結しないと言ってもいいのでしょう。人間が一人で為し得ることは決して多くも大きくもなく、時間というものが有限である以上、どう足掻いたところで不可能なことは不可能なわけで、そんな状況を迎える度、自分の無力さを噛み締めたのも一度や二度ではありません。かといって誰彼構わず頼るのは節操ないというか遠慮ないというか、人と人との付き合いはやはり節度を持っていて然るべきものなので、結局上手く立ち回るしかなく、それができない人間は割を食う、というような流れをよく目にします。では私はと言うと、正直あまり上手くやれているとは思わないのですけれど、傍目にどう見えるかはまた別の話で、あるいは自分で思っているよりも、他人にしてみれば羨むような人間関係を成立させられているのかもしれません。まあ、どこまで考えをめぐらせたところでそれは想像にしかならず、仮に自分の評価を他人に訊いたとしても、果たしてその言葉が真実なのか、一体どれほどの嘘や詭弁や世辞の類が織り交ぜられているかは推察する他ないので、結局考え過ぎても碌なことにならないという証左なのでしょう。下手な考え休むに似たり、ですよね。
 そんなわけで『化物語』シリーズ二次創作『着物語キルモノガタリ』をお届けします。ウェブにて公開したものの再録五編と書き下ろし一本を収録した、いわゆる短編集の形になりますが、各話の書かれた時期にはかなりの開きがあり、最初の話を公開した頃にはまだ『偽物語』も出ていなかったので、よくよく時系列やネタを洗ってみると、原作との壮大な矛盾を見つけてしまうという事態が発生しています。しかし今更書き直すのは難しくもあり勿体無くもあり、修正は最低限に留めることにして、騙し騙し続けてきたという経緯があったりします。ところどころ見苦しい箇所も散見されるかと思いますが、そこは笑って流していただけると幸いです。ともあれそんな感じで『まよいブルマー』『ひたぎエプロン』『するがショーツ』『なでこソックス』『つばさブラジャー』、そして『こよみセーラー』で『着物語』でした。



※初出はC83(2012/12/31)に出した同人誌『着物語』の書き下ろしです。在庫も処分済みで入手経路がもう存在しないので、時効かな的な感じで公開と相成りました。さすがに見返すと設定の矛盾とかありそうですけど、まあその辺りは二次創作だし、というところでひとつ。



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