青空教室。
簡易的な机に本を置き、椅子に座り、僕達は授業を始める。

まだ知らないことの多い少女達に。
ひとつ、語りかけ。ひとつ、教えて。
そうやって、少しずつ変わっていくように、変わっていけるように。

晴れ渡る空の下。雲が遠くに流れていく。
降り注ぐ陽射しはあたたかくて、まぶしくて。



風に揺れる、彼女達の髪。
ふわりと舞う。ちいさな世界に、おおきく広がる。



スイ。
アヤナ。
コハル。

三人がここにいてくれる、それが何より嬉しい。
すぐ近くで微笑みかけてくれる、それが何より愛しい。





僕は、感謝します。生まれてきたことを。




















しあわせのカタチ




















太陽が高くに昇る、昼の頃。
いくつかの本が並べられていた机には、昼食のサンドイッチが置かれている。
みんなで作ったもの。誰が欠けてもここにはないもの。

いただきますの挨拶をしてから、すぐに四人分の手が伸びる。
それぞれが掴んだサンドイッチを口に運び、

「うん、おいしい」

初めに聞こえた僕の言葉が、みんなの表情をほころばせた。


もぐもぐと、ゆっくり一口ずつ味わうスイ。
こっちの視線に気がつくと、目で「おいしい」と伝えてくれた。

結構なペースで食べていくアヤナ。
口周りにちょっと食べかすが残っていますよ、と言うと、頬を真っ赤にして拗ねた。

そんな様子を見て思わず笑ってしまったコハル。
怒ったアヤナに責められて、僕に助けを求める顔を向けた。


見ているだけで、胸があったかくなるような光景がここにはある。





陽が沈み、空が赤くなる頃。
僕は持ってきた本を抱え、三人はサンドイッチの入っていたバスケットを手に提げて。
緩やかな足取りで帰る。戻るべき場所へ。

扉を開けると、マオが迎えてくれた。
三つ子は昨日から遊び疲れて朝からずっと眠りっぱなし。珍しいこともあるものだ、朝食時にと苦笑したのを覚えている。

しばらくしてから、コハルとマオが夕食の準備に取りかかる。
手際良く完成していく料理。ちょうど全てがテーブルに並んだ時、三つ子が二階から降りてきた。
トウアはいつにも増して元気で、アキノはまだ少しだけ眠そうで、ナツキは寝すぎたことを後悔したような表情で。
こちらに気づくや否や、ぱたぱたと足音立てて駆けてくる。朝昼と何も食べていないのだから、きっととても空腹なのだろう。


さほど大きくもないテーブルに、僕達は座る。
全員が集まるとちょっとばかり窮屈で、でも、こんなのもまた嬉しかった。

賑やかな食事。会話の絶えない空間。
おいしいよ、そう言えばコハルはありがとうございますと返してくれた。


みんなが食べ終わったあとは、食器を片づけて紅茶を淹れてもらう。
アヤナがカップにゆっくり注ぐと、湯気と共に優しい香りが届いてくる。

飲んでみれば、味も優しい。
無言で微笑むと、照れたようなはにかんだ笑みを見せた。


外に出ると、花畑にはスイがいて。
薄暗い中、ただそっと色とりどりのいのちを見つめていた。

隣に立って一緒に眺める。
そうするとスイは、小さな手で僕の手を握ってくれた。



部屋にひとりでいても。
こころは寂しさを感じない。
誰の声を聞かなくても。
こころは嬉しさを忘れない。





一日が終わり、そしてまた巡ってくる朝。

用意をして、丘に向かう僕達。
空は綺麗な青色で、風も気持ちいい。


しあわせのカタチは誰一人として同じじゃなく。
求めるもの、求められるもの、たくさんあるけれど。



―――――― 僕が願うしあわせは、君達がここにいてくれること。



大きな木の下で、こもれびに揺れる無垢な魂へ。





このしあわせを、ありがとう。







まぁ、そんなわけで(何)ちょこっと書いてみたのですが。
やっぱり難しいです、こもれび。なまじ本編は完成しちゃってるから、想像し難い。
あの世界観は大好きです。あの愛しさ、嬉しさも大好きです。
その分「壊したくない」って想いが私の場合強くなるので、無理ができなかったりして。
このおはなし、別に『こもれび』じゃなくてもいいんじゃない、とかいうツッコミは特にだめです。わかってますから(汗
いや、だって好きなんですよ。言葉にできないくらい嬉しかったんですよ、あの世界が。
誰もがスイやアヤナ、コハルや三つ子のように無垢な魂であったならば。
…………いえ、それは有り得ませんが、でも、いいなぁ、と。

しあわせは結構難しいもので、一人一人全く違いますから厄介です。
誰かを尊重すると誰かがだめになったり、誰かを蔑ろにすると誰かが喜んだりして。
同じではなく、さらに相対していたりするともう困って困ってしょうがない。
あちらを立てればこちらが立たず。どっちかしか選べないことが多々あります。
自分を犠牲にできる人間はとても少なくて、他人を幸せにしたいと思う人間はとても少なくて。
私だって、きっとそうです。だからこそ難しい。けれど、だからこそ愛しい。
自分が幸せになることで、一緒に他人も幸せになれるのなら。
それってとても素敵なことだと思うんです。そうであったらいいですよね。
少なくとも私は、そう思います。私と、私以外の誰かが幸せになれるのなら嬉しい。

あー、この辺で止めておかないとあとがきが長くなるので(苦笑
ではでは、また次の機会に。