そこは月光のみが静かに照らす場所だった。
蛍光灯が天井に並んでいるが、役目を果たしてはいない。
窓から入る光芒はどこか儚い強さを持ち、板張りの床を穿つように注いでいる。

辺りは薄暗い。
微かな光が浮き彫りにするのは、数十に及ぶ机と椅子。
それと、綺麗に拭かれた黒板だけだった。他は闇に紛れてよくわからない。
……例え室内の全てが明るみに出たとしても、別に私には関係ないのだけれど。

時刻は深夜。一時過ぎほどか。
大事な忘れ物を取りに来た、という名目で警備の人に許しを得てここにいる。
だからあまり時間は掛けられない。忘れ物ひとつに一時間や二時間を使う人間はいないだろう。いたら怪しすぎる。

息を潜めて、私は待つ。
自分の呼吸や鼓動、僅かな身体の軋みまでもが耳に届くような静寂の中で。

馬鹿馬鹿しいと思いながらも、絵空事の類に近いものを信じてこうして立っている私。
客観的に見たらちょっと気が狂ってるとしか考えられない。

でも。
寒さを耐えてまでここで待つに足る確信が、あるのだ。


どこの学校にもあるような七不思議の八番目・・・


七不思議自体がどんな内容なのかは知らない。
私が聞いたのは、つい最近になって囁かれ始めたそれだけ。
"夜の学校に佇む幽霊"。その通称だけで、中身はだいたい察せられるだろう。

怖くはない。その気持ちは本心で、しかし好奇心やそれに似た感情もない。
ただ、確かめたかった。確かなものが欲しいと願う。

手がかじかんで、酷く冷たくなってきている。
擦り合わせて温めてみるが、効果は一時的でまたすぐに冷えてしまう。
吐く息も白く、身体は小刻みに震えて言う事を聞かない。

かちかち。かちかち。
勝手に歯が鳴り始めて、それこそホラーみたい、だなんて思考が出てきた。
何も知らない人がこの音を聞いたら、怖がるのかな、と。


そうして待ち続けて耐え続けて。
気づけば窓のすぐそばに、亡霊のような人影が立っていた。

姿は小さな少女のもの。
欠片の気配もない、世界から浮いた存在。

視線が合った。
意思がこちらに向いてくる。
目を逸らさぬまま、私は想いを強くした。


やがて、少女の口が開く。





―――――――――





私は、はっきりと答え――――



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