空が離れていく。
飛んでいるのではなく、堕ちているのだから当たり前だ。
といっても、俺にその様子はしっかりとは解らない。視界は閉ざされ、耳もイカれている。
風が機体を容赦なく揺らす。身体は動かない。流れる血は溜まりを作るほどの量ぐらいあるだろうから、そろそろ出血多量で死ねるはずだ。
それでもまだ、意識は残っている。覚醒してはいない。気は失ったままで、だが脳だけは起きているような感覚。
手も、足も、自分の一部じゃないのか、そう思うほどに肉体と神経が離れている。



微かに、煩い風鳴りを聞いた気がした。




















note-1 GODO.




















感覚がオカシイ。目は塞がっているのに、辺りの様子が克明に解るような気がする。
未だ身体は機能しない。動け、と念じてみるがそうあっさりと思う通りになるようにはダメージは軽くないようだ。

血はもう止まっただろうか。
奇跡的にも、死ぬことだけは免れたらしい。自分の傷の様子は知り得ないが、多少はマシになっているか。



思考を巡らせるのを中断。
両の眼を、ゆっくりと開く。その作業にすら数十秒を要した。
首は動かないので、今視界に映る光景のみが世界の全てだ。現在どういった状況に自分は置かれているのか、それを把握するためだけに再び脳に意識を戻す。目は開けたまま。
金属の壁と、制御機械。どうやら船からは放り出されていないらしい。
あれからどれほど経っているのか、何処に堕ちたのか、解らないことは多すぎる。
しかし、立ち上がれないのではどうしようもない。身体も動かないのに何ができるだろうか。



十数時間、待つ。
空腹が現在の時間をある程度知らせてくれるが、正確な時間は解らない。
知る必要があるかどうか、それは疑わしいと思うのだけれど。
非常に遅々としてはであるが身体も言うことを聞くようになった。少しでも無理をすると節々が悲鳴をあげてくれるが、そんな些細なことは関係ない。
壁に掴まり、外に出るまでに数分。相変わらず昏い空と、澱んだ空気が厭に気になる。


「…………………………あ、」





――――――お前、まだ生きてたのか」





にせものの天使は、ギターを抱えて座っていた。





















よりにもよって、この鉄の塊の落下点はちょうど俺の家の真ん中。
気にするほど大切なモノはないが、天上に大穴の開いた家というのも情けない感じがする。
対して綺麗でもない空。遥か昔の青空は、面影を微塵も残していない。
薬を一錠口の中に放り込み、呼吸がまともにできずに死ぬという馬鹿馬鹿しい事態は避けることにした。
傷口はまだ完全に塞がったわけじゃない。ちょっとやそっとの怪我なら自力で治してはいたが、このレベルともなると厳しいものがある。
血が足りない。鏡がないので見えないが、きっと顔はしっかり青ざめているだろう。
食料はまだ残っていただろうか。探す気力も湧いてこない。だいたい俺はまだ腹も空いていないのだから。

「あの…………ご飯、持ってきましたけど」
「…………いい。腹減ってないからな。お前こそいいのか?」
「わたしは、いいです」

冷蔵庫から引っ張り出したであろう食料を抱えた天使は、少し無理をしているような表情でモノを戻す。
――――――気を使っているのだろうか。食べたいのなら、食べればいい。

「…………………………無理はするなよ。少し、寝る」

ひとことだけ言っておいて、閉じろ閉じろと五月蝿い瞼を開け続けるのを止めにした。
瞬間、意識があっという間に離れていく。ものの数秒で、自力じゃ届かないほど遠くに飛んでいってしまったようだ。


寝てしまえば、次起きた時には多少楽になっているだろうか。
そう思いながら、おやすみも言わず眠りに就いた。





夢は見ないか。そんな余裕もないからな。