セカイジュは葉を落とす。
散る葉は天使となり、地上へ降り注ぐ。
もしそのまま葉が落ち続け、天使が増え続けたならば、地上は白に埋め尽くされるだろう。

今はまだ、少しずつしか散っていかない。
けれど、わたしの本体――――――天の亡骸、と呼ばれるモノが動いたら、その時は一瞬で全ての葉が落ちてしまう。


この星の生物達が、好きだから。
彼らを死なせたくはない。例えそれが星自身の願いだとしても。わたしが此処にいる理由だとしても。



"アリストテレス"。
各惑星の頂点に立つ生命体。
地球が滅びても共に滅びない人間を、死滅させるためだけに現れた存在。





その中の一体、水星のアルティメットワン。それがわたし。




















note-3 Angel "fake".




















彼が行ったあと、わたしは其処に残っていた。
動かず、ただずっと。何かを待つように。


一時間。


二時間。


三時間。


…………もうすぐ、一日。





立ち上がり、外に出る。
昏い空が、さらに昏くなる。

十字架。
巨大なソレは、空を覆い尽くした。
地上に光を突き刺し、悠然と通り過ぎていく。
セカイジュにもその光は届き、着弾と共に爆発するエネルギーがわたしの身体を傷つける。
所々は抉られ、散った葉は大量の天使の死骸となって、無人の場所へ堕ちていった。


ギターを抱きながら、空を見続けた。
十字架が地平線へと消えていき、セカイにはほんの僅かな明かりが注ぐ。



わたしは生きている。
ボロボロだけど、生きている。



それだけ見届けてから、家の中に舞い戻った。





ひとりで、またわたしは居続けた。





















身長の半分ほどもあろうかというギターを弾いてみる。
相変わらず音がヘンだ。彼の言った通り、チューニングをしていないから狂ってしまっているんだろう。
わたしにはギターに関する知識なんてほとんどない。ほんのちょっと、演奏ができるだけだ。

「…………弾きたい曲が、あるんです」

誰に伝えるでもなく、言葉を吐き出す。
弦に手が触れた。振動が伝わり、細かく震える。
頭に浮かぶ旋律。それをそのままギターに移すように、両手を使って音を鳴らす。
巧くいかない。一回やっても二回やっても、音色は飛び飛びでカタチにもなってくれない。
繰り返す。ひたすら繰り返す。指が疲れたってお構いなしに、できる限り動かし続けた。



手が止まる。
もう、これ以上は無理。
酷使の結果引き攣るような痛みを放つ両手を休めながら、じっと座ってぼーっとする。
ギターは膝に乗せ抱えたまま。しばらくしたら、また弾こうと心に決めていた。





轟音。
一瞬で目の前の景色が崩れ去り、ぱらぱらと天井の破片が軽快な音を立てる。
どうしようもなく見事に大穴を開けた原因となるモノは、わたしの目前の地面に突き刺さっていた。
流線型をしたソレは、羽を持たない生物が空を飛ぶために使う船。
きっと彼の言っていた"十字架迎撃戦"の際に使用されたモノなんだろう、と思う。
搭乗口は開いている。中に誰かいるんだろうか、そう考えたのと同じタイミングで、姿が見えた。



「…………………………あ、」





――――――お前、まだ生きてたのか」





立っていたのは紛れもなく、わたしを堕した彼だった。











すぐに寝てしまった彼をそっとしておいて、食料を横に置いてから座る。
お腹は減ってない…………というと嘘になるけれど、食べなくったって平気だ。ちょっと辛いけど、大丈夫。


…………わたしも、眠ってしまおう。
彼の隣で、できるのなら安らかに。





ありがとう、と呟いて、ギターと彼を抱きながら目を閉じた。