いつもと同じ昏い空を、少しふらつきながら飛行する。
羽は飛ぶためのモノじゃないけれど、片翼だけだとバランスが悪い。実際、何度も宙で傾きかけた。
背中が痛む。有るべきモノが無いことはそんなに嫌なのだろうか。この身体は。


地面が見えてきた。
錐揉みのように、或いは水を吐かないスプリンクラーのように、不安定ながらも飛んでいる。



――――――いや、きっとそうじゃなくて。





飛んでいるのではなく、堕ちているのか。




















note-2 Angel.




















酒場はイマイチ客が少ない。
十字架の所為だろうか、それとも羽のもげたあたしの所為だろうか。
誰もあたしに近づこうとはしない。遠慮するかのように、避けるかのように。

…………此処にいるのは嫌だ。多くのコトが、前とは変わってしまったから。

それでも席を立たない自分がいる。
適当に酒を頼み、出てきてすぐに一気に飲み干す。数度繰り返せば、当然酔いが回ってくる。
こうしてしまえば楽だ。とりあえず今日は、全て忘れられるだろうから。



さて、どうしてあたしはここにいるのか。





――――――ああ、そうだ。
来るかも解らない、きっと来ることはない人を待っているんだった。





















銃神、という名を知らない者は少ないだろう。
少なくとも、アリストテレスに戦闘関係で何の関わりも持たないヤツラ以外は一度くらい聞いたことがあるはず。
今では希少種として保護対象にまでなっている、亜麗百種に分類されない"人間"でありながら、天の亡骸を撃ち抜いた『鳥堕し』としてその名を広く知らしめている。
騎士が束になって戦ったとしても倒すことの難しいアリストテレスを単独で葬り去ることができる、唯一の存在。
しかし、純粋な人間種であるが故に、亜麗百種とは違いジンを全く持っていないので、まともに生きていくこともできない。
そのため皮肉を込めてGODO、"神もどき"とも呼ばれている。神の如き力を持ちながら、それを使役する本体は脆弱な人間種の身体なのだから。

彼は生きているだろうか。
十字架討伐戦に於いて、銃神は死亡認定されている。姿も確認されていないのだから、当然と言えば当然だろうが。
…………多分、彼の最後を知っているのはあたしだけだろう。あの時のことは、軍にも報告していない。
本当に死んだかどうかは解らない。死体を見たわけでもなく、死亡したという証拠も確証もないのだから。

そう、確証はない。
だからあたしは待っている。当たり前のようにやってくる彼のことを。


散々誘ったんだから、諦め切れてないのかもしれない。
彼、凄くいい男だったから。ただ、それだけの理由。


店を出る。
街灯の明かりだけを頼りに家まで戻り、酔いに任せて乱暴に寝てしまうことにする。



別れ際の彼の姿が、まだ頭から離れない。
いつ会えるだろうか。それとも、もう会えないだろうか。…………そんなこと、考えたって仕方ない。





「また会えたら、酒の一杯は奢ってあげるわ」

口から出た言葉は、酷く部屋に響いた。