普段通り、ぱっと目覚めた。
ベッドから上半身を起こし、舞と佐祐理さんが既に起きていることを確認。
布団をめくってまいを叩き起こそうと、


「…………………………は?」


どういう訳か、三人に増えていた。
その小さな身体を揺らそうとした手が止まり、同時にまい(のうちの一人)が目を開ける。

「祐一くん、おっはよー」
「…………なぁ、まい」
「なに?」
「お前、増えてるぞ」
「え? ―――――― あ、ホントだ」

別に大して驚く様子もなく、むしろ現実を楽しんでいるような顔。
まだ眠っている残り二人の頬を突っつき始めた。ぷにっとへこむほっぺた。
傍から見ると何だか物凄く変な光景なんだが、当の本人は全く気にしていない。



…………しかし。


「どうして三人に分裂したんだ?」
「さっぱりわかんないよあたし」

即答かよオイ。

「お前が三人もいると俺はいつもの三倍疲れるからとっとと対処してくれ」
「えー」
「えー、じゃねえよ」
「あ、アイアンクローは久しぶり……って痛い痛いっ」
「……………………おはようございます」
「うおっ!」

まいをしばいていると、不意に横から現れる舞。
なんちゅーか、随分と突然だな。

「…………今回は意外性に重点を」
「さいですか」

相変わらず思考は読まれているようで。


と、軽いコントをしていた(不本意ではあるが)間に、寝ていたまい二人が起床。
第一声は数十行前を参照。そして声の聞こえてきたすぐ隣を向き、

「…………おー」


反応はそれだけかい。

このまい達もあのまい(ええい、ややこしい)と大差はないらしい。





で。
これ―――――― どうしたもんか。




















"まい"のいる生活。 番外編3rd:変わっていくもの、変わらない日々




















とりあえず、このままでは何かと不便なのでそれぞれに呼称をつけることにした。
一番最初に起きたのが1号。

「ありきたりだね」
「うるさい」

次に、現在並んでいる三人の真ん中に位置しているのが3号。

「あれ、2号は?」
「気にするな」

最後、こちらから見て右にいるのがRX。

「何であたしだけあからさまっ!?」
「宇宙意思だ」


適当にその場をやり過ごし、ここからが本題。
今、真っ先に知らなくてはならないことはひとつ。

「どうして増えたか、だよな…………」
「………………心当たりが」
「おおっ、本当か舞!?」
「……マジ」

いつもはイマイチ何考えてるのかわからないが、こんな時には頼もしく見える。
まいが分裂した理由がわかれば、対処法も自ずと見えてくるはずだ。

「……まい」
「なに?(自然と1号が答える)」
「………………最近"自分が三人いたら"って思ったことはなかった?」
「うーん…………覚えてない。ほら、あたし忘れっぽいから」
「自分で言うな自分で」
「痛たたたっ、ベアーハッグはホント洒落になんないっ!」

どうしても俺らが会話しているとこうなってしまうらしい。
…………舞、「私は違う」なんて目で訴えるな。その通りだから傷つく。俺が。



「………………とにかく、まいが"願い"の理由を思い出せば元に戻るはず」

らしい。


"力"に関しては当然ながら舞本人(無論まいも含む)の方が詳しく、細かい部分は俺にはわからない。
思い出すだけで何とかなるというのは理不尽というか都合がいいような気はするが、そういう風になっているのだから仕方がないと思う。

ちなみにだが、ついでに言うと素晴らしく今更だが、佐祐理さんは『マイケル(仮)』の能力その他を受け継いだ2号機『ジョンソン(仮)』の開発のため出張っているとか(舞の言)。
…………まだ世界征服諦めてなかったんですか。





さて、だ。
現状をどうにかするために、まいの"理由探し"が始まった。
三人とも元に戻ることに対して依存はないらしく、しかし取る行動は普段と何ら変わらなかった。


一点を除いては。

「あたし佐祐理のところに行ってくるねー」
「舞、手伝うよー」
「祐一くん、今日は買い物あるんでしょ。一緒に行こー」

上の台詞がRX。
真ん中が3号。
下の言葉は1号のモノだ。

小さな両手で背中を押され、財布を持って外に出る俺達。
早春の沈み掛けた陽射しが全身に当たる。冬の頃と比べると、風はいくらか緩く暖かく感じるようになった。

さすがに戻るわけにもいかず、ゆっくりと、まいの歩調に合わせつつ進む。
僅かに微笑んでいる横顔。普段通りの、憎たらしくも可愛い、日常の一部だ。


考える。

いつもとの相違点。それはつまり、"まいが三人いること"。そのまんま。
もちろんのこと、普通身体はひとつしかない。
なのでまいは別々の行動をする俺らのうち、一人にしか付いていけなかった。
基本的にまいが単独でいることは滅多になく、必ずと言っていいほど誰かと共に歩いている。
それは俺とだったり舞とだったり佐祐理さんとだったりするわけだが、今は違う。
三人いることにより、全員のそばにまいがいる状況。



ふと、頭に浮かんだ。
どうしてまいが"三人になりたい"と願ったのか、その理由が。


俺はそれを口に出そうとして、しかし直前でやめる。
きっとこいつは気づいているのだろう。自分が望んだことの意味や、本質に。
わざわざ俺が声にする必要もない。おそらくは、既に結論が出てしまっているのだから。



ビニール袋を両手に提げ、無事に帰宅。
その頃には佐祐理さんももう帰ってきていて、やはりというべきか、三人のまいに驚く様子はなかった。
RXには知らされていなかったらしいが、今更だが底が見えない。ホント佐祐理さんの思考はどうなってるんだろうか。

「今日のご飯は六人分ですね」
「………………オムライス」

佐祐理さん監修の特訓によって、舞は一人でもある程度のモノなら作れるようになった。
料理担当の佐祐理さんが所用などでいない時は、専ら舞が手作りの品々を披露する。味は不味くなく、むしろ美味しい。
…………こうなると、俺とまいのだめさが浮き彫りになってくるのが悲しい。

いただきます、の合図と共に、スプーンが一斉に動く。
何気ない会話の音量も二人分大きくなっている。
笑ったり、ちょっと怒ってみたり、そんな夕食の風景。
始まった時から今の今まで幸せに思う、俺達の生活。


…………でも、全てに満足できているわけじゃない。
必ずどこか気になる、心配に感じる部分がある。
例えば俺は、彼女達に上手く接することができているのかどうかとか、彼女達は幸せに過ごせているだろうかとか、そんなことを。
舞や佐祐理さん、まいがどう思っているかはわからない。心の底で、何に悩み何を不安がっているのか。

馬鹿馬鹿しいのかもしれない。
ドタバタしているけれど平和で、辛い時もあるけど幸せで、だから些細な、余計な思考なのかもしれない。
それでも、どうしたって考えてしまう。不安に感じてしまう。
完璧であってほしいとは思わないけど、できる限り、笑顔でいてもらいたいから。

他人にとっては小さなことでも、自分にとっては大きなこと。
俺にも、俺以外のみんなにも、たくさんあるはずだ。もちろん、まいにも。


ごちそうさま。

手を合わせ皿を置き、全員で片づけを始める。
本日の洗い物は俺が担当。料理ができなくとも、これくらいなら俺にだって何とかなる。

水を流し、スポンジに洗剤をつけ、念入りに擦る。
油をしっかりと落とすのが大事だ。自然と手元に集中。
背後ではまい(1号)以外の皆が会話を続けている。時々、微笑みながら。
1号はというと、俺の隣でただ皿洗いを見つめていた。話しかけるでもなく、見ているだけ。

「…………なぁ、まい」

声を掛ける。
なに、とひとことが返ってきた。

「理由、わかったか?」
「…………………………うん」
「そっか。…………もう、いいのか?」
「うん、大丈夫。あたしの"願い"は、『みんなの隣にいたい』って望みは叶ったから」
「…………全く、気負いすぎだお前は」
「そう?」
「ああ。隣に立ってなくても、お前は確かにいるんだから。舞も佐祐理さんも、わかってるだろ、それくらい」



まいの"願い"は、単純なもの。
誰かと寄り添っていれば、それ以外の人とは一緒にいられない、そんな当たり前のことを怖がっていただけ。
みんなの隣にいられれば。分け隔てなく、離れている俺達全員と一緒にいられたら。
ささやかだけど、でも、切実な希望。

「…………寂しいのは、怖いか?」
「怖いよ。舞も、きっと、佐祐理も同じ」
「そっか。俺もだ」
「…………一緒だね、あたし達」
「だな」
「だね」

いつか、一人だけしか選べない道に辿り着いてしまうのかもしれない。
そんな日が、もし来たら。…………その時俺は、どんな選択をするだろうか。

できるのなら、俺達みんなが笑っていられる道を選べたら、いいと思う。
夢見事かもしれないけど、絵空事かもしれないけど、それでも。



「明日になったら、元に戻るよ」
「少しだけ、寂しくも感じるな」
「そう思ってくれたらあたしもちょっと嬉しいな」

小さな、微笑み。
―――――― これがあるから、俺は此処にいる。

「…………よし、外に行こう」
「え? どうして?」
「何となく、だ。理由なんてないっ」

舞と佐祐理さん、残りのまい二人を呼ぶ。
こちらの言葉に対する返事は、了解の意味を持つもの。


扉を開けて、家から出る。
行き先は…………決めてない。たまにはそれでもいいと思う。





例え何かが変わっても、俺達は、このままでいられることを願おう。










翌朝。
起きてみれば、布団の中にいるまいは一人だけだった。

まだ眠っているその安らかな顔を眺める。
台所の方では、舞と佐祐理さんが朝食を作っているらしく、軽いやりとりが聞こえてくる。



えい、と目の前の両頬を引っ張った。

滅茶苦茶柔らかかった。



「…………んー」
「ほれ、起きろ」
「…………………………祐一くん? ……おはよう」



そのひとことに、俺は。





「ああ、おはよう」

笑って、答えた。











お久しぶりです皆さんー。元気にしてましたかー?

まい「いや、これ見てるってことは元気なんだと思うよ。どう考えても」

さいですか。まあいいんだけど。ちゅーことで、番外編そのさん、今回はまい編でございます。

まい「みんな待ち望んでたよねー。あたしも待ち望んでたけどとっても期待外れでさー」

笑顔で言うな。一応傷つくから。

まい「そんなデリケートなもんでもないくせに」

うっさいわ。まぁ、ちょっとシリアス傾きすぎたから面白味がないのはわかるんだけど。

まい「っていうか相変わらずダメ文章だよね。あ、言うまでもないか」

その辺は十分すぎるほどに理解してる…………が…………今日は佐祐理さん来ないな。

まい「出番ほとんどなかったもんねー」

いつもなら飛んできて滅多打ちにされるのがオチだが今回は回避できそうだ。

まい「ワンパターンは読者に飽きられるからねぇ」

…………よし、ここらで終わらせようか。では皆さん、またぐはぁっ!(ぱたっ

まい「あ、狙撃された」

佐祐理「今日はちょっと別角度から攻めてみましたよー。あ、皆さん、お久しぶりです」

舞「………………あいあむすないぱー(ライフル片手に)」

まい「これの扱い、どうするの?」

佐祐理「あとはいつもの通りフルコースですが」

舞「…………わくわくジェノサイド」

まい「次が書ける程度に生かしといてねー。いつになるかわかんないけど」

舞「……………………機会があるなら次は私」

佐祐理「舞、楽しみですねー(死体に精神的プレッシャーを掛ける)」

まい「んじゃ、今度こそ。みんなー、またねー」