一月某日。

大学も休みで(休日でもないのに何故かしら)、現在四人で商店街を歩いている。
いつも通り今日も始まりは唐突で、当然のこと始点はまいのひとこと。

「商店街に遊びに行こー」

普段の三割増しな能天気さで清々しくのたまうこいつを見て、佐祐理さんはすぐに何処ぞやに電話した。
そのあと学校から臨時休業のお知らせ。何でも上からの命令らしい。……詮索はしないでおいた。

具体的に何をしようと決めて来たわけではない。
することは現地で全て考えようという、相も変わらず適当且つ行き当たりばったりな思考だ。
飽きはしない。正直に今の気持ちを言葉にするならば「楽しい」のひとことに尽きる。





四人いるだけで、俺は満足できるんだから。




















"まい"のいる生活。 -14-




















ゲームセンターに入り、店を佐祐理さんが貸し切りにして(その辺のことを問うのは諦めた)、さんざんに楽しんでみたり。
やっぱりあっという間に何でもコツを掴んでしまう佐祐理さんと、身体を動かすタイプのモノならダントツの舞。
最下位争いはだいたい俺とまいのどちらかになり、ふたりとも一歩も譲らなかった。負けた方が今日の夕食の支度・片付けを全てすることになっているのでかなり命懸け。
結局勝負はつかず、同率の俺達二人で夕食を任された。拒否権は当然ない。
ついでに言うと、クレーンゲームで取ったぬいぐるみ約50体は舞が全部請け負うこととなった。明日から舞の部屋に入るのが躊躇われる。踏みつけそうで。


昼時になり、お腹が空いたと思ったら舞の熱烈な要望により牛丼屋に入る。
店員がこちらを一瞥したとたんに、わさびとからしのブレンドでも食べたかのように顔をしかめた。
奥を見ると、予想通り舞の顔写真がブラックリストの欄に載っていた。……まぁ、アレだけすればな。
入店拒否をする店員達を宥め(佐祐理さんが脅し)、普通に全員牛丼(並。舞とまいは特盛)を注文。ゆっくり俺と佐祐理さんが食べている横で、二人は揃ってわんこ牛丼。
俺の丼が空になる頃には、舞とまいの皿は五段重ねになっていた。相変わらず恐るべし。


適当にしばらく色んな店を回り、三時頃になって今度は百花屋に突入。
佐祐理さんの電話一本でお手軽店内ハイジャックをしてから、ここぞとばかりにスペシャルジャンボパフェデラックスRX(パワーアップしたらしい)を五個注文。
パフェの上っ面だけを掬うだけという至高の贅沢をしつつ、俺は一人コーヒーをしみじみと嗜んでいた。
舞は恐ろしいことに、物凄い勢いで胃に入れながらイチゴサンデーも頼んでいた。もちろん俺は見てるだけ。別腹なんて持っていない。
さり気なく平然とした顔でバケツ型容器を一個丸々空っぽにしていた佐祐理さんは敢えて見なかったことにする。





どう考えても商店街荒らしをしているようにしか思えないのだが、そこは黙殺。
回れるところは全て回り、堂々と雪の道を歩く俺達。手を繋ぎ微笑みながら、最後の目的地に向かって歩いていく。

「せんぱーいっ!」

背後から声が聞こえたので振り返ってみると、見知った顔の人物が手を振りながら走ってきた。

「はぁ、はぁ…………お久しぶりです先輩。元気にしてました?」

黒崎香奈。高校での後輩で、天野の親友。彼女繋がりで知り合うことになり、時に昼食を一緒に食べたりもしていた。
気の合う友達関係、というのが香奈との仲を表すのに一番いい表現だろう。
大学に入ってからは会うこともなく、こちらから会いに行くこともなかった。あちらは受験だし、俺は俺で舞や佐祐理さんに振り回されていたので顔を合わせる機会は皆無。
つまり、約十ヶ月ぶりの再会というわけだ。記憶の中の彼女の姿と全く変わっていないことに、苦笑。

「おう、元気だぞ。たまに命の危機にも晒されたりしてたが」

虚偽は一割。あとは真実だというのが少し虚しい。

「大学、案外大変そうですねぇ。でも楽しそうみたいで何よりです」
「実は大変でもなかったりするんだなこれが。……いやまぁ、別の意味で大変だが」

お互いに懐かしい。
そのためしばらく会話も弾み、すっかりうっかり後ろの御三方を忘れてしまった。

「…………………………祐一さん?」

何故か小学校時代に女子のスカートはどうやって捲ったかに話題が行ったところで、後ろから聞こえたぞくっとする声に振り向くと、あまりの素晴らしさに閻魔大王も逃げ出しそうな笑顔で佐祐理さんが立っていた。

「あ、倉田先輩、川澄先輩、こんにちは。お久しぶりです」

現状がわかっていながらも、平然と挨拶をする香奈。随分人間としてできている。
そのまま舞と佐祐理さんも会話に巻き込み、自分のペースで話を進めるその手腕には感服だ。
まだ顔しか笑っていない佐祐理さんは、会話中何度もちらっとこちらに視線を移してくる。怖い。
ちなみにまいは置いてけぼり。つまらなそうにありもしない石を蹴り飛ばす仕草を繰り返す姿はちょっと可愛かったりする。


三十分ほど話し込んでから、「そういえば用事があったんです」とわざとらしく思い出したかのように香奈が言うので、此処で別れることにした。
最後にちょっと、と路地裏まで引っ張られ、促されるままに耳を貸すと、囁くような声を聞く。

「先輩、去年よりずっといい顔してますね」
「……まあな。色々あったけど、みんながいるからさ」

そうこっちが伝えると、香奈はトーンを落として続ける。

「……………………なら、そんな表情はやめてください。美汐も心配してましたよ?」
「天野が?」
「そうです。心配されてるんだから、幸せだと思ってくださいね?」
「…………ああ、そうだな。ありがと、香奈。なんか少し気が晴れたよ」
「どういたしまして、先輩。そうそう、その顔が一番です」

満面の笑顔を見せる後輩に、俺は笑顔で返した。











香奈の指摘は、きっと間違っていない。
自分のことながら、一応気づいてはいた。笑顔の中にある、ほんの僅かな憂いに。
今の生活に不満があるわけでもなく、悲しい出来事があったわけでもない。

ただひとつあるとすればそれは、予想される喪失への恐怖。

失うことがどれだけ苦しく、どれだけ嫌なものかよく知っているから。
いつか終わるとわかっていて、それでも怖くてしょうがない。


恐れていたって、どうにもならないっていうのに。


受け入れる覚悟をしよう。忘れずになお、笑っている決心をしよう。
何てことはない、まいがいなくなればまた前の生活に戻るだけ。それだけのこと。





公園に着いた。
先ほどから微かに雪が降り始め、人はもう見当たらない。
白い粉は地面を薄く覆い、景色を塗り潰していく。


誰からともなく、雪合戦が始まった。


だいぶ前から積もっていた雪を丸め、近くにいるまいにぶつける。
すぐに、やったなーとお返しに飛んでくる。躱せずに直撃。
次の雪球を作り終わる前に、今度は横からの一撃。佐祐理さんだ。
やっとのことで複数の球を完成させ、三人に向かって投げつける。直撃した。

まるっきり小学生の雪遊びだ。
故に、無邪気で楽しい。


二十分ほどして、全身雪まみれになりながら地面に寝ていた。
三人もそれは同様で、手を広げ清々しい表情。

「…………今日一日、楽しかったねー」
「そうですねー。こんなに思いっきり遊んだのは久しぶりですね」
「…………………………すっきり」
「はぁ、はぁ、はぁ…………楽しかったけど、みんな…………ちょっとこれはないんじゃないか?」

現在の状況を説明すると、俺の身体は倒れた雪だるまのようになっている。
手足は当然固まっていて、身動きが取れない。ちゃんと動くのは首だけ。
…………いやちょっと、冷たくて死にそうなんですけど。

「あのー、佐祐理さん? どうしてそんなに笑ってるんですか?」
「それはもちろん楽しいからに決まってるじゃないですかー(極寒の笑み)」
「舞、どうにかしてくれない?」
「無理(即答)」
「…………頼む、まい。お前だけが頼りなんだ」
「…………………………頑張って一晩過ごしてね(にっこり)」





俺は無実だぁーっ! 信じてくれーっ!










次の日、本気で死にかけたところでようやく救助された。

今度ばかりは、冗談抜きで生命の危険を感じた…………などとは、口が裂けても言えない俺だった。











舞「……………………おはよう(現在0:30)」

佐祐理「あははー、訳あって今回は作者不在により佐祐理達ふたりでお送りしますねー」

まだ死んでないでふべっ!(昏倒

佐祐理「まだ生きてましたか……(ぼそっ)。いえいえ、何でもありませんよー」

舞「…………佐祐理、早く続き」

佐祐理「あ、ごめんね舞ー。それにしても、作者も懲りませんねー。勝手に黒崎さんまで出演させて」

舞「………………ネタ切れも大概にして」

佐祐理「そうですねー。人様に迷惑が掛かることを知ってて書いてるんですから余計タチ悪いですし」

舞「…………………………今なら間に合う、出直すべき」

佐祐理「作者もアレで結構融通利かないですからねー。このまま書き終わらせないと気が済まないらしいですよ」

舞「……………………困り者」

佐祐理「本当です。後始末を任されている佐祐理達の身にもなってください」

舞「……皆さんごめんなさい(ぺこり)」

佐祐理「また馬鹿やってますが、どうか見捨てないでください、と凄く無茶なこと言ってますねー」

舞「……………………謝っても謝り足りない」

佐祐理「どうしようもないですねー、本当(本音)」

舞「…………………………camelさん、いつも迷惑掛けてごめんなさい(これも本音)」

佐祐理「あとでいつも以上にきっちりやっておきますからねー。それではー」



舞さん、今佐祐理さんが放ったアレは?

舞「…………あれはシュツルムファウスト」

痛い?

舞「………痛い」

…まあ、触らぬゴッドに祟り無しと。そういえば香奈さんが出てたねえ。

舞「………………」

あー、黙らなくていいから。いやいや、正直ああいう使われ方されるのは、嬉しくてたまらんのですよ。

舞「…………そう」

お陰で祐一くんは災難でしたなぁ。僕は寒がりだから、雪に埋まったりしたら常人の3倍速で死ねるね。

舞「…………あれは祐一が悪い。連れを忘れちゃダメ」

気持ちは解るけど殺人未遂です(六法全書)。

佐祐理「お疲れ様ですー」

舞「……お帰り佐祐理」

お疲れ様です、サー。良い汗かいてますね(怯

佐祐理「あははー、今回は黒崎さんのお陰でちょっと困ってしまいました」

で、何ゆえ物騒な物(抽象化)を僕へ向けますか。

佐祐理「カエサルの物はカエサルに、ですよ。生みの親でしょう?」

何故こうもバッドエンドがゴロゴロしてるかー!いやぁぁぁ!

舞「……………………番外編、まだかな」