冷たい空気。

人の気配はない。静寂のみがこの場を支配している。
リノリウムの床を歩くと、僅かな音が酷く耳に聞こえる。



夜の学校。
俺と舞の逢瀬の場所にして、過去、ふたりが出会った思い出の麦畑の跡地。


もうすぐ一年か。


未だ記憶は色褪せることなく、鮮明に蘇らせることが可能だ。
忘れた名雪のノートを取りに行くところから始まり、舞と出会い。
『魔物』と幾度も戦いながら、慣れない命の賭け合いをした。不器用に木刀を振り回して。
痛い思いをしたり、二人で牛丼食べて俺が苦笑いをしたり、死に物狂いで廊下を走ったり。
舞の力になりたかった。こんな言い方、酷いエゴかもしれないけど……きっと俺は、舞を救いたかった。
馬鹿みたいに付き合って、足手まといになって、それでも一緒にいようとしてた。

懺悔のつもりだったのかもしれない。
長い間、本当に長い間、ひとりにさせてしまったことへの。
一度してしまった後悔は晴れないから。
…………だから、例えあの日の過ちを覚えていなくとも、無意識ながらに罪を許してもらおうとしていたのかもしれない。

本当の真実はなんだろうか。
いくら考えたって、わかるはずもない。俺のしていたこと、舞のしていたこと。
結局、答えなんてないんだ。起きてしまったその事実を悔やんだって悲しんだって、時間は戻らない。戻ってほしいとも思わない。



できることがある。
約束はまた守ればいい。傍にいて手を繋いで、歩いていけばいい。
今、それが俺の誓いなんだから。





昼頃、密かにまいに渡された一枚の小さな紙切れには、少したどたどしい文字でこう書かれていた。

「今日の夜、学校に来て」

その一文にどれだけのモノが含まれているかはわからない。
しかし、大事なことだというのははっきりわかる。あのまいの顔を見れば。
細かな場所までは指定されていない。だが、ほぼ間違いなくあそこだろう。



廊下に並んだいくつかの教室。
その中のひとつのドアを開ける。





「…………ちょっと遅いよ、祐一くん」





乱雑に並ぶ机。それらを見下ろすような位置にある教壇。
その上に、まいは座っていた。




















"まい"のいる生活。 -13-




















「仕方ないだろ。お前、正確な場所も時間も教えなかったし」
「うっ…………それはうっかり忘れてただけだよー」

正論で返すと、焦りながら言い訳された。

「…………まぁ、それはいいとしてだ。ここに呼んだ理由は何だ?」

問いかける。
と同時に、あの公園での会話を思い出す。

幸せだと、確かにまいは言った。
俺がいて、舞がいて、佐祐理さんがいて、そしてまいのいる生活。
かけがえのない毎日。変わってほしくないと願う日々。

「祐一くんは幸せ。あたしも幸せ。きっと、佐祐理も幸せ。……舞も、幸せなはずだよね」
「ああ。それは俺が保障する」
「…………それは、あたしがいなくても変わらない?」



…………………………いつの間にか。
これが、当たり前の日常になっていた。



「………………ダメだよ。もう、お前がいないとダメなんだ」
「どうして?」

心の底からの、ただ純粋なまいの言葉。
俺は、それに応えないといけない。

―――――― だって、まいも家族だろう? 何にも変えられない、大切な家族だろう?」
「…………………………」
「失うこととか、いなくなることとか、考えられない。考えたくない。まいのいるその生活が、当たり前の日常だから」

これが俺の、正直な気持ちだ。
きっと自分だけじゃない。舞も佐祐理さんも、同じことを思っているはず。





まいは泣いた。
涙を流しながら俺にしがみついて、今ある事実を恐れるように、静かに声を上げて。
そんな小さなこいつの姿を見て、自分にできることはまいを優しく包み込むように抱きしめる、ただそれだけだった。











「今日はありがと。………………今度、ちゃんと話すから」

最後にそう言って、まいは帰っていった。
俺はまだ学校を出ない。もう少し、この教室を眺めていたかった。


卒業してからは一度も来ていなかった場所。
記憶の中でだけ生き続けている黄金色の麦畑を、今の景色と重ねた。










これからどうすればいいのか、頭の片隅ではそれだけを考えながら。
念のため誰にも見つからないように、学校を静かに後にした。











ごめんなさい舞、佐祐理さん(滝汗)。どうかご了承をー。神海です。

まい「出番が多くて幸せー、なみんなのまいだよー」

一応『"まい"のいる生活。』なんだからまいが主役なんだってことを忘れないでぷりーづ。

まい「あたしが出なかったら話として成り立たないしねー」

そうそう。あ、次回は打って変わってはっちゃけます。商店街で。

まい「舞も佐祐理も思いっきり暴れるよ。もちろんあたしも」

……なんか普通に次回予告してるなぁ。

まい「ネタ切れって辛いよね」

うぅっ、痛いところを突かないで………………

まい「あと二、三話で終わるんでしょ? 随分早いねー」

そりゃ、下手すれば一日一個ペースで書いてたりするし。時間掛けていいモノできなかったら申し訳立たないし。

まい「で、いつも通り失敗作になると」

けっこうそれ効くからあんまり言わないで…………(涙

まい「あたしは自分の出番が多ければいいよー(上機嫌)」

くぅっ、主役だからって……っ!

佐祐理「佐祐理達の出番はどうしましたー?(イイ笑顔)」

…………………………いやちょっと待ってお願いだからもう少し猶予を(早口

佐祐理「あははー、結果が伴わないとダメなんですよー(さらにイイ笑顔)」

やめてー(ずるずる

舞「………………ワンパターンじゃ読者さんが飽きる」

まい「そうだねー。学習しないのも困りものだね、舞」

舞「…………………………camelさん、大変だと思うけどよろしく」

まい「あたしと舞の二人だから会話は弾むねー」

ぎーにゃー………………



うわ、人ってあんな跳ね方するのか…。

まい「過去を振り返るのは良くないよ」

思い出へかえる物語なのに?

舞「…………かえるのは祐一だけで十分」

まあ、君らがそう言うんならそうなんだろう。うん。長いものには巻かれてきたし僕。

舞「…………良い判断」

まい「全くだね」

さてさて第13話でしたが。まいさん、引っ張るねぇ。

まい「このくらいは常套手段だよ。イキナリ解ってたら面白くないもん」

遊ばれてるねぇ彼も…また白髪が増えるんじゃないの?

舞「…………祐一も問い質さなかったのはえらい」

まい「祐一くんはそういうことしないよ」

信頼されてるんだから良い的なんだか。

舞「的」

まい「的だよ」

……。

舞「……………」

まい「……………」

こうやって人は磨り減っていくんだなぁ。

舞「………なんとなく不快」

まい「うんうん」

では14話行きましょう14話。ホレさっさと。

まい「憶えてろー!」