………………ふと、目が覚める。

深夜、有り体に言えば草木も眠る丑三つ時。
その通り酷く静かで、音がない。昼と夜では世界が違うというが、なるほどこれを見れば納得できる。


あまり、こんな夜に一人目覚めることはなかった。
自慢じゃないが、俺はぐっすり眠れるタイプだ。一度床に就けば朝まで起きることはない。
……だから今の状況は珍しい。舞や佐祐理さんの安らかな寝顔を見ることも、住人はいても明かりが点いていないという事実も。

ほんの少しだけはだけている毛布を直し、起こした上半身を再びベッドに委ねようとする。



その時、視界に映ったのは、





「祐一くん、随分と早いお目覚めだね」





紛れもない、まいだった。




















"まい"のいる生活。 -12-




















「馬鹿。何でか知らないが、偶然目が覚めただけだ」

まいの冗談を軽く返す。
それを聞きあはは、と一度笑って、まいはまた口を開いた。

「ねぇ、祐一くん。せっかく起きたんだし、散歩行こっか」
「……まぁ、いいけど…………なんだ、お前もふと目が覚めたのか?」
「そ。眠れないわけじゃないんだけど、どうも眠りたくなくてね」

何の意図があってか、突然散歩に誘われた。
俺としてもまだ眠れそうにはないので、あっさりとおっけーを出す。


そっと布団を抜け出して、ふたり外に出ることになった。











行く当てもなく歩く。
コース的には近くの公園だ。ベンチもブランコもあるし、散歩の中間点としては妥当な場所だろう。
会話もなくひたすら進み、僅か五分ほどで小さな公園に辿り着いた。
いくつかあるベンチの中のひとつに座る。

まだ、お互い黙ったまま。
空を見上げている。月なのか星なのか雲なのかまではわからない。ただ、空を見ている。
こういう状況だと詩的な感性が目覚めそうだが、あいにく俺にそんなモノはない。飽きたので、すぐ横のまいに視線を移す。

足をぶらぶらさせ、しかしつまらなくはないといった風な様子で上を向いている。
頭のうさみみが、ぴょこんと揺れた。


――――――祐一くん」
「何だ?」

こちらを向かず、先ほどの姿勢で聞こえる声。

「…………毎日、楽しい?」

突然の質問だった。
一片の曇りもない台詞に少し戸惑う。が、すぐに答えた。

「そうだな……特にお前には振り回されっぱなしだし、命の危険に晒されるし、面倒事には巻き込まれるし…………」
「…………………………」
「…………だけど、楽しいぞ。これ以上ないってくらいに、幸せだ」

俺の答えに、まいは一拍置いて、

「…………………………よかった。あたしも、幸せだよ」

澄んだ笑顔で、はっきりと返した。











帰り道。
「ねぇねぇ、おぶってー」とねだるまいに、俺は背中を向けた。

「ほら」
「え、いいの? ……こないだみたいにはしないよね」

じりっと一歩下がるまい。
自分で言っておきながらそれはないんじゃないかと思う。

「大丈夫だ。たまたま今日は気が向いただけだよ」
「…………うん、それじゃ遠慮なく……よっと」

こちらの反応が意外だったのか、少し戸惑い気味に、俺の背中に体重を預ける。
しっかり背負い直して、また歩き始めた。
随分軽い、と思いながら、ゆっくりと歩を進める。
人一人を背負っているという感覚はあまりなかった。子供の頃は俺もこんなんだったのか、と考えると少し微笑ましい。

「どうだ、まい、乗り心地は」
「凄くいいよ。……祐一くんの背中、あったかいし」

何ともない、本当に何ともないやりとり。
それがとても幸せを感じさせてくれて、嬉しい。

「まい。……………………ぺったんこだな」
「あっ、ひどーい! そんなこと言うのはこの口だねこのこのっ」
「いた、痛いってっ! 口を引っ張るな頬が伸びるっ!」
「立場逆転だねー。あははっ」


あの時の、公園で見たまいの表情。
寂しさと憂いと、僅かな怯えが混ざった顔。
…………杞憂だったと思いたい。だって、今のこの状況は普段と全く変わらないモノだから。



でも。

俺は何も知らない。





まいは未だ、理由を教えてはくれないのだから。











もう一度布団に入ったのは四時頃で、既にまいは寝てしまっている。

どうもまだ眠れない。目が冴えてしまったのか。
羊をいくら数えても、睡魔はこういう時に限ってやってきてはくれなかった。


思い出す。
一ヶ月と少し前、まいが突然現れた。
その時は自分が現れた理由はわからないと言っていたが、もしかしたら初めから知っていたのかもしれない。

一ヶ月は長い。
色々なことがあった。時に馬鹿馬鹿しく、時に危険で、でもその全てが楽しい日々の記憶。



今一度、考えるべきなのだろうか。



―――――― どうしてまいは此処にいるのか、その意味を。










余談だが、結局徹夜した俺は風邪をひいて寝込んだ。
またその時舞とかまいとか佐祐理さんが看病してくれたのだが、それは別の話。











やっぱり最後までただひたすら馬鹿っぽく行くべきでしょうかねぇ。どうも神海ですよー。

佐祐理「分相応、という言葉、知ってますか?」

……知ってるさ。知ってるけど…………うぅ、ごめんなさい。

佐祐理「文章形態とかも随分変ですしねー」

ぐさぐさっ!(何かが刺さったらしい

佐祐理「………………今日はAコースとBコースとCコースのどれがいいですかー?(満面の笑顔)」

お願いだからそれは勘弁してーてー(虚しくエコー

佐祐理「あとできっちりと躾けておきますので気にしないでくださいねー。ではcamelさん、お願いします」



…ヤァ。

佐祐理「ガチガチですねー、そんなに佐祐理は怖いですか?」

はっはっは。何を言うか。

佐祐理「爽やかさんですね。安心しましたー」

さて、今回は微塵も出番の無かった佐祐理さんですが。

佐祐理「名前だけでした、今回は。でも、祐一さんが楽しそうだったので気になりませんよ?」

うーん、知らなければ良い事も有るとは思うんですけど、祐一君はそうはいかんようですね微塵も出番の無かった佐祐理さん。

佐祐理「知らぬが仏とは良く言ったものですねー。でも貴方には教えて差し上げます」

お、何を教えてくれるんですか微塵も出番の無かった佐祐理さん?

佐祐理「どうして佐祐理が公私問わず色々と手を加えられるのか、ですよー(氷の微笑)」

ヒィィィィィィ!!