「例えばさ、今突然この街に大怪獣が現れたりしたら嫌だろ?」
「……………………可愛い、かも」
「いや、そうじゃなくて。建物壊したり人踏み潰したりするだろ」
「………………それは嫌」
「俺もそう思う。……で、何が言いたいかっていうとだな」

学校の帰り道、既に卒業して佐祐理さんと共に大学に行っている舞にふと出会った。
今日は佐祐理さんが急な用事らしく、先に帰っていてほしいと言われたんだそうだ。

現在二人は一緒にアパートで暮らしている。
俺はというと、卒業するまではと説得され水瀬家にまだ居座っている。
あと四ヶ月ほどで、晴れて舞達との同居生活が始まるというわけだ。

ここ数ヶ月、勉強は必死にやってきた。
何せ舞と佐祐理さんが入っている大学はかなりのレベルで、ちょっとやそっとの努力じゃ到底入れないところだからだ。
内申だってさほど良くないのだから、当日の試験のために必死に頑張るしかない。
毎日十時間…………とまではいかないが、中身の濃い、ある意味充実した勉強時間を過ごしている。


まぁ、なんつったって"一緒の大学に入る"っていう大切な約束をしたからな。
これを守らなかったら男、いや漢としてマズイと思う。
「傍にいてやる」と口に出したのは俺の方なんだから。


それで、だ。

「命を懸けるような非日常なんて、過ごさないに越したことはないんだよ」




















あたりまえだから、しあわせ。




















何故こんな話になったかっていうと、発端は舞のひとことからだ。
ふたりで歩いている途中、思い出したかのように彼女はこう言った。

「…………夢を見た」

どんな夢だ、と訊いてみると、昔の夢、とだけ舞は答えた。
もう少し詳しく、と言うと、渋々口を開いた。

「……………………何処か知らない場所に、ひとりでいる」

始まりは、彼女も知らない景色らしい。
自分は子供の頃のままで、母親はいない。
ぽつんと立っているのも何か気まずいような感じがして、歩き始める。
すると景色は変わり、大勢の人間に囲まれている。
突然の状況に困惑していると、見知らぬ人間達から訳もわからず石を投げられ、罵られる。
しばらくすると目が覚めて終わり、というのが夢の内容の全貌だった。

「そりゃまた随分な悪夢だな」

そんな夢を、悪夢と言わずに何と言うのか。
全くのフィクションというわけでもなく、半分近くは舞の実体験も混ざっているから質が悪い。

「…………………………それで、祐一」
「ん、何だ?」
「………………祐一は、今の日常をどう思う?」

珍しい舞の質問。
だがしかし、なかなかに難しく答えにくい。
なので、少し問い返してみた。

「それは昔と比べて、ってことか?」
「…………………………そう」

肯定の返事と共に頷く舞。
真剣な瞳だった。


考えてみる。
過去は所詮過ぎ去った事実だ。いくら楽しかったとしても、それは現在いまではない。
だが、もし過去むかしが戻ってくるのだとしたら……どうだろうか。
無邪気に走り回った幼少時代。あの頃は俺も馬鹿で、でも楽しくやっていた。
未来に対する不安とか何だとか、考えなくてもよかった時。

…………それに、あの頃の舞。
一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に過ごした……魔物とか剣とか、そんなものとは全く縁のなかった、あの頃。

戻れるとしたら?
――――――俺は、過去を選ぶのだろうか?


「………………ふぅ。馬鹿だな、俺も」
「祐一、何か言った?」
「いや別に」

迷う必要なんてあるはずない。

「変わんないよ。だって、俺は今も十分幸せだからさ」

はっきりと言ってやった。
これが、正直な答えだ。

「…………………………私は」
「あー、みなまで言わなくていいぞ」
「……………………どうして」
「聞くまでもないだろ? 今の方が幸せに決まってるじゃないか」
「……………………でも、祐一、私には剣がない」

剣のない私は本当に弱いから。
舞は確かにそう言った。
だけど、俺はそのあとこう返したはずだ。

「いいんだよ、それで」

一瞬きょとんとされる。
それを気にすることなく、続ける。

「なくたっていいんだ。……いや、ないほうがいい」
「………………どうして?」


「例えばさ、今突然この街に大怪獣が現れたりしたら嫌だろ?」
「……………………可愛い、かも」
「いや、そうじゃなくて。建物壊したり人踏み潰したりするだろ」
「………………それは嫌」
「俺もそう思う。……で、何が言いたいかっていうとだな」


「命を懸けるような非日常なんて、過ごさないに越したことはないんだよ」



別に、人と違ってなくたっていい。
ただの日常は、変わらない毎日は大切なモノなんだから。

「俺は今、幸せだ。舞は幸せか?」
「……………………幸せ」
「ならいいんだ。いつか変わってしまうけど、変わらないならそれでいい。だって、俺達は幸せなんだからさ」
「…………………………祐一は、こんな私でいいの?」
「だから二度も言わせるなって。……約束、しただろ?」
「………………うん」

不思議でも何でもない、ただありふれた日常。
俺達は、その中を過ごすだけで幸せになれるんだ。
他に何を望めばいいのか、俺には見当つかない。


今は、一緒に歩いているだけで。
しばらくしたら、三人で暮らしているだけで。
そんな単純なことで幸せになれるんだから、随分と安上がりだと思う。

「さ、帰るか。今日、俺もそっちにお邪魔していいか?」
「……かまわない」
「よーし、それじゃ行くかっ」
「…………………………」





言っていないことがある。



俺は、舞の笑顔を見ているだけで幸せになれるんだ、っていうそのひとことを。










本当に口に出してしまうのは、あともう少し先のこと。











基本的に私は、
「このひとことが書きたいっ!」
「このシチュエーションを書きたいっ!」
とまず先に思ってから文章を書き進めます。
…………実に動機が不純ですよね(笑

Kanonの中では、実は舞が一番好きなんです。
理由はというと、まぁ……あの性格とか言動とか行動とか。え、全部?(汗
あとさき考えず書いてしまったため、どうにもこうにも駄文風味(というより完全に駄文)となってますがお許しをー。
最後の三文ほどはいらなかったかも。……お願い気にしないで(オイ

まぁ、言いたいことなんてずばっと書いてるんでその辺はお察しを。
ではでは、またー。