今日は外を走っている。 というのも理樹が部屋で本を読んでいるので追い出されたからなのだが。 中庭近くを走っていると見覚えのある白い帽子が見えた。 この時間はすでに寮からの外出は禁止されているはずなのだが何故ここにいる? 少し気になったので筋トレを中止し彼女の元へと向かったのだった。 このところ全く英語の勉強が手につきません。 嫌いになってしまったのでしょうか。 いえ、違うのです。本当は……。 dream about 本当は彼が気になって仕方ないのです。 真人が。 それがらぶというものなんでしょうか。 もしそうだとしても……勇気がありません。 せめて、一緒に英語を勉強できたら少しは気持ちが楽になるのでしょうか。 ダメです。気分転換に外に出て来ても、変わりません。はぁ……。 「よ、クー公」 元気がなさそうだが一体どうしたのだろうか。 筋肉でも足りないのか。ま、違うだろうが。 とりあえず、気付かないので声をかけてみたのだ。 「い、井ノ原さんっ! こ、こんばんわれふっ! わふ〜。いたいれふ〜」 急に後ろから声をかけられた。 間違いなく真人の声です。 こんな時間に一体何をしていたんでしょうか。 いえ、まず何故話しかけてきたんでしょうか? 「大丈夫か、クー公。思いっきり舌噛んでたぞ」 予想以上のリアクションに内心俺も驚いているのだが。 かなりあせっていて何も話せないようだったので、こっちから話しかけてみることにする。 「一体何してたんだ?」 そう聞かれた時、心臓が大きく音を立てました。 まさか、真人のことを考えていました、なんて言えません。 こういうときの返事は、一体どうすればいいのでしょうか。 ひ、ひとまず、誤魔化しましょう。 「な、何でもありません。と、ところで井ノ原さんこそ、なにをしていたんですか?」 「なにって、筋トレだけど」 ……話ずらされたのか? 仕方ないけどな。気になるだろ。 「なんでもない訳無いだろ。クー公は何してたんだよ」 ……こういう時の真人はやけにスルドイです。 いえ、スルドイのではありませんね。 優しいのです。真人は誰にでも。 その優しさは時に残酷です。 決して私だけに優しい訳ではないのです。 でも、そうだとわかっていても少し、本当に少しだけ期待してしまいます。 ……少し、勇気を出してみましょうか。 「少し話していきませんか? 井ノ原さん」 「ああ、いいぜ。少し休もうと思ってたところだからな」 俺に話術は向いてない。そうわかったところで少し話してみようと思った。 俺とは違って勉強に努力しているこいつと。 なんて、本当に少し気になっただけだけどな。 どうしましょうどうしましょう。 いざ話そうとすると話題がありません。 へるぷみーですっ。 えーっとえーっと。 「えと、井ノ原さんは今日はどうして外を走っているんですか?」 これが、今の私にできる精一杯の質問でした。 「いや、理樹が本読んでたからよ……」 そんな、他愛も無い話をした。 それを俺は楽しいと感じた。 これを幸せというのだろうか。 もう少しだけ話していたい。何故そう思ったのだろうか。 真人と話しているのに、だんだん眠くなってきました……。 「くぁ〜」 楽しい時間ももうおしまいですね。 名残惜しいですが、もう帰りましょう。 あくびをしたクドは、ゆっくりと立ち上がり、 「それでは、もう眠いので部屋に帰りますね。しーゆーあげいん。そしてぐっとないとです、井ノ原さん」 と言って俺に手を振った。 でもふらふらしてあぶなっかしいな。 あ! 「クー公! あぶねえっ!」 「はいっ?」 真人の声で気付いた私はそのまま 前にあった花壇につまづいてしまいました。 「わふ〜……。とらぶるてりぶるあくしでんとです〜」 足が、少し痛いです。 まったく危なっかしくて見てらんないぜ。 送ってってやるか。 「ほら乗りな。連れてってやるから」 真人がしゃがんで背中に乗るよう言ってきました。 こ、これはおんぶですか? いくら私が小さいからって……でも、いいかもしれません。 「で、ではお言葉に甘えさせていただきます……」 背中に乗ったクドを落ちないように支える。 「井ノ原さんの背中って大きくて、あったかくて気持ちいいですねー。ここで寝ちゃいますよ?」 よせやい、照れるぜ。 「少し汗臭いかもな。ま、我慢してくれ」 「ではぐっとないとです。井ノ原さん」 「おう、おやすみ。っておい」 すると背中から規則正しい寝息が聞こえてきた。 どうやら本当に寝ちまったみたいだ。 そっとのぞいてみるとクドの寝顔がそこにあった。その顔を見て柄にも無く可愛いと思っちまった。 「ん……」 あ、起こしちまったか? しかしまたすーすーと寝息が聞こえてきてホッとした。 さてと、部屋に送っていきますか。 ……あれ? クドの部屋ってどこだ? てかそもそも女子寮に入ったこと無えぞ。 絶対防衛ラインで必ず止められるからな。 どうすりゃいいんだ? ……待てよ。確かクドのルームメイトは二木だ。 三枝なら知ってんじゃねえか? ……よし三枝に電話だ。 プルルルルルルルルル、ガチャ 「ふぁい。ただいまはるちんは起きたばかりです。ピーとかアヒョーと言う発信音の後にメッセージをどうぞ。ピフャー」 訳わからん。仕方ない。 「クー公の部屋ってどこだかわかるか?」 最低限の用件を伝える。 「真人君どうしました? ま、まさかクー公の部屋に忍び込んで……」 「何もしねえよ! 寝ちまったクー公を送るだけだよ」 「ま、そういうことにしといてあげますヨ。クー公はおねえちゃんと同じ部屋だから……。あそこかな?」 そういうことにされたのか。三枝のことだから広まるかもな。 クドには悪い影響がなきゃいいが。 「おう、ありがとな」 とりあえず礼を言って電話を切った。 「クド公頑張ったのかな?」 あの子が頑張ってるの知ってるからね。 応援したくなるのが友達ってモンでしょう! 「葉留佳、うるさい」 あいや〜、ルームメイトに怒られてしまいましたヨ。 明日クド公問い詰めよ。 三枝に指示された部屋へ向かう。 と言っても入り口からはさすがにまずいか? いや、この鍛え抜かれた筋肉で! うおおおおおおおおおっ! ……誰もいねえのかよっ! 考える必要なかったじゃねえか。心配して損したぜ。 え〜と、指示された部屋はっと……。あ、あった。 ノックしても返事が無い。 誰もいねえのか? ドアノブをひねり、部屋に入ってみる。開いてたし、いいだろ。 明るいな、あれ? 「あら、井ノ原君じゃない? どうしたの? 襲いに来た?」 二木、三枝と同じ思考か。壊れたな。 「誰が襲うか。クー公を連れてきたんだよ」 背中のクドをそっとベットに下ろす。 「あらクドリャフカ、外にいたのね」 よっこいしょっと。 起こさないようにしてと、さて帰るか。 「じゃな二木。クー公の事頼んだ」 「ちょっと待って。……よし、これでOK」 何だ、何がOKなんだ。何故待たせた。 すると二木はメモ用紙にメッセージを書き残し、 「クドリャフカに変なことしちゃ駄目よ。あ、でもキスまでなら許してあげる」 は? 「ベットは私の使っていいわよ。大丈夫、洗ってあるから」 と、早口で言い残し去っていった。 何故だ。 どうしてこの状態で二人っきりなんだ。 早く部屋に戻って筋トレしたいぜ。 もう仕方ないからここで! ……クー公が起きちまうか。 え〜と。 クー公に布団かけるか。 よっこいせっと。 あ。 しまった。 気付かぬうちに疲れてたのか。 そして俺は倒れこむようにして、眠ってしまった。 「わふっ!」 誰かの重みがのしかかってきました。 しぱしぱする目をこすり、見ると、 「まっ、真人ダメです。こんな事私たちにはまだ早いです。こういうことはきちんとした信頼関係を結んでから!」 私の上には真人がいました。 「で、でも真人なら……。ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いしますっ!」 しかし、返事が無い。 「真人?」 グーッと大きないびきが聞こえた。どうやら眠っているようです。 「もしかしてものすごい恥ずかしい勘違いでしたかーっ!」 わふっ、つい叫んでしまいました。 びーくあいえっとです。 起こしてはいけないとベットから立ち上がろうとした時、枕元にメモを見つけました。 二木さんからでしょうか。 えーと。 『クドリャフカへ。 頑張ったのね〜。 夜中に男女がひとつの部屋に二人っきり、いいシチュエーションじゃない。 頑張ってね。 あ、この事はちゃんと明日聞くからね』 ……二木さん。三枝さんと仲直りしてからなんか変です。 それに、こんなひんぬーだめだめわんこのことなんか襲ってくれませんよ……。いじいじ。 って落ち込んでる場合じゃないです。 着替えて私も寝る事にしましょう。くあ〜。 私のベットは使われてしまっているので二木さんのを使いましょう。 と、その前に真人に布団をかけておきましょう。 よいしょ。 これで大丈夫です。 「むにゃ、クド」 あ、起きてしまいましたか。 「かわい……かったぞ」 え。 グーッとまた大きないびきが聞こえてきた。 「ね、寝言ですか……。ちょっぴり残念です……」 今の私の顔は真っ赤なのでしょう。 真人はズルイです。 それは反則です。 それにしても…… 真人、可愛い寝顔してますね。 この気持ちは、一体いつ伝わるのでしょうか。 ひとまず今は、 この愛しい人が幸せな夢を見れますように。 ちょっとズルイですが、勇気を出してみます。 そして私はその愛しい人のほほにキスをしたのでした。 そして朝 「あ、おはようクド、真人。そうだ真人。昨日どこ行ってたの?」 「どこだっていいだろ。ところで理樹、昨日は大筋肉時代に俺が筋肉王になる夢を見たぜ」 「ああ、……それはよかったね……」 「やっぱり女子の部屋は違うのかもな」 「え? 真人?」 「井ノ原さんっ!」 「しまったああああああ!」 この後、真人が皆に問い詰められたのは、また別の話。 fin 専用掲示板にじゃんぷですー |