1.「なんでアタシがこんなことを……」


 正直言えば、第一印象はかなりよくなかった。
 だってさ、考えてもみろよ。道端を歩いてたらいきなり後ろから声かけられて、その内容が「君、アイドルに興味ない!?」だ。しかも妙に気合入ってる。
 悪質なキャッチセールスか何かだって思うだろ。少なくともその時のアタシは「あ、コイツ怪しい」ってなった。
 だからあからさまに一歩引いて、いつでも逃げられるようにしたら、途端にしょぼくれた顔してさ。こっちに警戒させたこと、申し訳ないって感じたんだろうな。
「ごめん。別に怪しい人じゃなくて……えっと、これ名刺」
 さっきまでの勢いはなくなったけど、なんつーか、まだ目が諦めてなかった。アタシはじりじり近づいて、手には触れないように名刺だけを受け取った。
 眺めてみると、名前に電話番号、メールアドレス、それと勤め先が書いてある。
 シンデレラガールズ・プロダクション。
 聞いたことない名前だった。まあ、そもそもアイドルなんて全然詳しくないし、有名どころの事務所だったとしてもわかりゃしなかったけど。
 ともあれソイツは名刺をアタシに渡して、ついでに鞄から取り出したパンフレットも渡して、それからアタシの名前を訊いてきた。
 言うべきかちょっと迷う。
 でも……一応名刺に名前書いてあるし。
 それくらいは教えてやってもいっか、と素っ気なく名乗ってやる。
「うん、覚えた。それじゃ神谷さん、もしよかったらそのパンフレット読んでみて、気になったら連絡してくれると嬉しいな。電話でもメールでもいいから」
 なんて矢継ぎ早にまくしたてて、ソイツは何故か走っていっちまった。
 残されたアタシは、手元の名刺とパンフレットをちらっと見て、うへぇ、と溜め息。何だったんだあれ。
 さすがにこの場でポイ捨てするほど冷たいつもりはなかったから、両方鞄に放り込んで帰路を急いだ。
 これが、一番最初の、アタシとプロデューサーの出会い。
 学校帰りの、通学路でのことだ。
 ……そう考えると、よく制服姿の女子高生に堂々と声かけられたよなぁ。捕まるかもしれないって思わなかったんだろうか。

 家に戻ったアタシは、一応もらったもんだし、暇潰し程度にはなるだろとパンフレットを流し読みしてみた。
 ホームページのアドレスも載ってたから、自分のPCでざっと検索。すぐに見つかる。
 どうやらまだ出来てそんなに経ってない、いわゆる新興のプロダクションらしかった。所属アイドルは三人。掲載されてるプロフィールをチェックすると、みんなアタシとそんな違わない。そしてかわいい。
 軽く評判とか、その三人の仕事とかも調べてみる。ニュージェネレーションって名前のユニットで活動してて、CDも出してる。視聴。なんかおぼつかない感じもあるけど、精一杯なのが伝わってきて、少し胸を打たれた気がした。
 想像してたより、遙かに真っ当だ。
 とりあえず、キャッチセールスとかの類じゃないことがわかって一安心。名前教えちまったし、変につきまとわれるのも困るしさ。
 ……けどさぁ。
 なんでアタシなんかに、声かけたんだろうな。
 ベッドに寝っ転がって、名刺をじっと見つめる。
 自分で言うのも何だけど、アタシはごくごく普通の高校生だ。勉強も運動も特別できるわけじゃない。顔だってそんなかわいくない。眉毛太いし。言葉遣いも女の子っぽくないって言われたことがある。
 ……いったいどこを見て「アイドルになれる」なんて思ったんだか。
 起き上がって、名刺を机の上に放り投げた。
 電話もメールもしなければ、あとはもう立ち消えになるだけだと、アタシは思ってた。次の日の放課後までは。



 続きは新刊をよろしくお願いしますー。



もどる